第17話
子爵家をつぶす。
その最終目標の為に、一番の障害になるのは何か。
それについて私はよく理解していた。
自分の名声の高さだろうと。
今の子爵家であれば、多少のごたごたが出てきても乗り越えられてしまう。
それだけの底力が今の子爵家、具体的には私の名声には存在するのだ。
それを理解していたから、私は子爵家から離れようとしていたのだから。
それがカルバスを遠ざける一番の方法だと理解して。
皮肉なことだと思う。
ソルタスの為、そう思ってやってきたことが一番の障害になるとは。
私が内から子爵家を弱らせて行くためには、まずこの名声の高さをどうにかしないといけないという問題があった。
……とはいえそれは面倒でこそあるものの、対して難しい話ではないことを私は理解していた。
焼却炉に残る大量の灰。
それを見ながら、私は小さくつぶやく。
「さて、これで結果が分かるのは一週間後かしら」
その灰の中から、招待状を確認するのはもう不可能だろう。
それを理解し、私は笑う。
「一週間後、どれだけ名声が落ちているか見物ね」
そう、私のとった手段は単純なものだった。
すなわち、上がった名声が邪魔になるのだとすれば下げればよいと言うだけの。
ここまでに私が燃やした招待状は十を越える。
もうここから招待状の家を探し、訪れるのは不可能だ。
そして招待状を無視されたとなれば、貴族の面子は大きく傷つき、それは子爵家への怒りに変わる。
そうなれば、私の名前など何の価値も残らないだろう。
そこからが本当の勝負だ。
「……とはいえ、国王陛下や公爵家当主には本当にとんでもない迷惑をかけたわね」
その言葉で私の顔に初めて罪悪感が浮かぶ。
そう、私が先日出していた手紙こそ、今回の件を行う許可を求めていたものだった。
間違いなく今回の件は、少なくない負担をお二人にはかけることになっている。
にも関わらず、その手紙の中身は私への心配が埋め尽くされており、それが私の罪悪感を強める。
とはいえ、もう取りやめる時期は等の前に踏み越えている。
ならやるべきことは、一つ。
できる限り早く全てを終わらせ、お二人の負担を軽減することだけ。
それから二日後。
そう判断した私は急いで準備を整えていた。
まだ私のやったことは第一段階でしかない。
子爵家をつぶすための準備は、今からこそが本番なのだ。
小さなノックが響いたのは、そんな時だった。
私はそのノックに答えようと口を開こうとして、けれどその前に扉が開く。
「奥様、まだ準備されているのですか?」
次の瞬間、開いた扉から顔を覗かせたのは嘲りを隠さない使用人だった。
離縁寸前、夫が記憶喪失だと騒ぎ始めました 陰茸 @read-book-563
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