第3話

「……なにを言っているのです?」


 そう告げたカルバスの様子はいつにもなく、余裕がなかった。

 その様子に少し溜飲が下がるのを感じながら、私は別の人間へと目を向けた。


「ねえ、ソルタス。どうして貴方はお義母様の話になると黙り込むの?」


「……っ」


 それは先ほどから口を開かないソルタス。

 私に声をかけられたソルタスの肩が震える。


 ソルタスがこうして黙り込むタイミングは、決まってお義母様についての話になった時。

 決してソルタスは、カルバスの言葉になにも思っていない訳ではないのだ。

 ……そうわかるからこそ、私の中やりきれない感情が膨らむ。


「今までの、家族を守ってくれていた貴方はどこにいったの?」


「う、うるさい! お前には関係ないだろうが!」


 逆ギレ気味に、ソルタスが叫ぶ。

 その姿を見ながら私の胸の中、失望が広がっていくのがわかった。

 真っ向から私は、ソルタスを睨みつける。


「そんな訳ないでしょう。私は……」


「奥様、冷静に考えて下さい」


 怒りをそのままに、私は自分を制止した相手を睨む。

 そこにいたのは、先ほどとは違って完全に余裕の消えたカルバスの姿だった。


「確かにわかりました。奥様の離縁したいという強い思いは」


 そう告げるカルバスの顔は、確かに焦っていた。

 けれど、打つ手なしで困惑しているようには到底見えなかった。


「しかし、現実問題奥様は離縁できると思いますか?」


 そして、その理由を私はすぐに理解する。


 ……貴族の離縁には様々な障害が存在する、それをついて離縁を防ごうとしているのだと。


「仮にも貴族の結婚、国王陛下にも認可していただいたものになります。また、公爵家当主のバーツライ様にもお祝いの言葉をいただいたのですよ」


 言葉を告げるうちに冷静になってきたのか、いつものにやにやとした笑みを浮かべながらカルバスは告げる。


「社交界で一目おかれる奥様にはおわかりでしょう? そのすべてを振り切って離縁するには相当な理由が……」


「ええ、あるわよ」


「……は?」


 ──だが、そんなこと私が対策していない訳がなかった。


 呆然とこちらを見て固まるカルバスににっこりと笑って、私はさらに告げる。


「もう許可はもらったわよ」


 私の言葉にたっぷり十数秒の間、誰も口を開かなかった。

 少しして、顔を蒼白にしたソルタスが口を開く。


「……なにを言っている?」


「まだわからないの?」


 それに私は呆れを顔に滲ませながら、持参してきた書類を手渡す。

 今までおとなしく従っていたのが、準備期間だったことに目の前の二人は微塵も気づいていなかったらしい。

 私の性格は知っているだろうに。


「──私が離縁を言い出したてことは、もう決定事項になったからよ」


 震える手で、ソルタスは私から投げれた書類に目を通す。

 そして、その書類に名前を連ねた人々をぽつりとつぶやく。


「公爵家当主、公爵家夫人、王妃様。……こ、国王陛下?」

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