第19話 ブリギッドの秘密 ①


セイラは、精霊石を持ち学校内に戻ると、鬼のような形相のサリバン先生が出迎えた。

「セイラさん、貴女、また、一体、何処行ってたんですか?」

サリバン先生は、お馴染みのキンキン声でセイラを睨みつけた。

セイラは、いつもの言語に何処と無く安堵を感じた。


「先生、これ精霊石です。」

セイラは、胸ポケットから精霊石を取り出し先生に見せた。

「これは、な、何で、何であなたが?」

「私、見つけたんです。あの、黒い巨大な鳥に…誰の差し金なのかは、分かりませんが…」

「これは、前代未聞の大問題ですよ!あなたが、持っていて良いものでは、ありません。」

サリバン先生は、声を更にキンキン尖らせ早口でまくしたてた。



「咲山セイラさん、有り難う。」

サリバン先生の後ろから、ひょっこりエメリアが姿を現した。



「この石がないと、学校内で大問題になるところだったのよ?これは、外部の敵の侵入を防ぐ役割があるから。」

エメリアは、天使のような優しい眼差しを向け、微笑んだ。


「そうですよ、セイラさん、この石は、誰が持ち出したのか厳粛に念入りに調査しないといけませんね。」




セイラが寮の寝室に入ると、部屋のメンバー達が出迎えた。

「セイラ!ごめん、私、なんか…」

ブリギッドが、目に涙を浮かべうるうるしていた。

「良いのよ。全部、サリバン先生から聞いた。禁断魔術にかかっていたから、仕方ないものね。」

セイラは、微笑み首を傾げた。何故か、全身の疲労が抜け爽やかでエネルギーが湧いてくる感覚を覚えた。

「ゴメンね、私も…」

エリカも、涙を浮かべた。


ふと、頭に再びキーンという音が響き渡るー。


窓ガラスが割れ、巨大な茨のつたが貫いた。


メンバーは、その場で倒れた。



「何!?」


「ブリギッド、避けて!」

セイラは、ブリギッドをかかえて遠くふダイブした。

「見ーつけた」

窓のへりに黒い影があった。


目を凝らしてみると、

緑のローブを纏った16~17位の少女が、そこに立っていた。


「魔女…?」


「いや、違う。魔女じゃない。彼女は、ドル・イドの一派よ。」

ブリギッドは、瞳をピクピク揺らしながらその様を凝視していた。

「ドル・イド?」

「僧侶よ。左眼の眼帯の六芒星の紋章を見ると、恐らくアポカリプス…あっ…」

ブリギッドは、強く頭を抑えた。

「どうしたの‥!?」

「く、頭が、」

ブリギッドは、丸くうずくまった。



「何よ?記憶は戻っても、力はまだ戻ってはないでしょ?」

少女は、少し動揺してガクガク震えていた。

「あなた、ブリギッドと、どういう関係なの?」

セイラは、少女を睨みつける。

その、独特の奇妙でゾクゾクする魔力から、少なくとも敵だというのは分かった。

「だから、同胞よ。つまり、あんたの敵。」

少女は、ため息をつき足踏みをしている。その高飛車な口調から、相当イラついているようだった。

「え…違う!ブリギッドは、私の同級生で…」

セイラは、ブリギッドを見ると酷く首を振った。ブリギッドは、なおも頭を抱えて苦しんでいる。

「あなた、お姉様の何がわかるの?お姉様は、記憶と力を失い、こうしてここに逃げ延びたの。私は、上の命により彼女を連れ戻すように言われた。うちらは、僧侶で魔女と対になる存在だから、彼女に魔女の素質なんて、ない。」

少女は、深くため息をつき手を腕を組んでいる。

その鼻につくような小馬鹿にするような喋りも相成り、相当態度の大きい人だとセイラは、思った。


「だって、ブリギッドは、ちゃんと両親だっているし…」

「この両親について、どのくらい知ってるの?」

「え…?だって、姿見たしちゃんと話していたし…」

「これは、幻影よ。お姉様が無意識に見せてるの。つまり、憧れよ。彼女も、親を殺されたから。」


「え‥!?」


「そうよ。」

少女は、そう言うと軽々と1メートル下の床に着地した。



ー占い学の先生のあの表情は、ブリギッドの正体を知ってしまったからなのだろうかー?



「お姉様を渡しなさい。」

少女がそう言うと、ブリギッドは磁石のように、10メートル程急前進し、少女の方に引っ張られた。


ブリギッドは、頭を抱えて悶絶している。


「ブリギッド!」

セイラが、ブリギッドの側まで走ろうとしたその時だったー。


エメラルドグリーンの光がブリギッドを包み込み、花火のようにバチバチ音を立て眩い光を放った。


あまりの眩しさにセイラは、一瞬目を閉じた。


バチバチ強い音と、ロケット花火のような眩い光が辺りを包み込むー。



やがて、その光は徐々に弱くなりブリギッドはゆっくり立ち上がる。


「え…?」


少女は全身、ツルのような巨大なツタにぐるぐる巻きになり宙ずり状態になっていた。


「くっ…お姉様、どうして、記憶と力を取り戻して?」

少女は、ツタを掴むと足をバタバタさせた。


「知らない。魔王石の影響かしらね?」

ブリギッドは、冷徹な眼差しで少女を見つめていた。セイラの知るブリギッドの口調や眼差しは全く異なり、別の人格が乗り移ったかのようだった。彼女の目は、琥珀色に光っていた。

「は、魔王石…死者を蘇らせる以外に何が…」

少女は、全身汗だくになり杖を振ろうとするがキツく硬く締め付けられているため、為す術がない。

「そこから察するに、あなたは組織の下っ端の人間みたいね。そして、使い捨て。組織の幹部は、魔王石のことは熟知している筈だから。」

ブリギッドは、表情を微動だにせず真顔で少女をじっと見ていた。


床下から巨大な薄緑のツタが生え、そこから少女は宙ずり状態になっていた。

3・5メートルの高さはある天井に、頭を擦り付けられ、少女はひたすらブリギッドを睨みつけることしか出来ないでいるー。


「だから、なんだっていうのさ!イル!」

少女は、苦し紛れに杖を振り呪文を唱えた。



「離れて。」

ブリギッドは、セイラの前に立つ。


バチバチ強い音を立てて、ツタにメリメリヒビが入るー。


緑色の閃光が、バチバチ音を立ててツタを破壊する。


バンという、強い爆発音がし辺りに煙が充満しセイラは咳き込んだ。



「お姉様、貴女がいない間、アルカポリスは、強くなったのよ!」

ブリギッドのすぐ眼前に、いきなり少女が姿を現した。

そして、杖の先から緑色の閃光を放ち一瞬でブリギッドをぐるぐる巻きにした。


「これが、何の意味があるの?」

ブリギッドは、キョトンと首を傾げた。


「ふざけないでよ!」

少女は、眼光を琥珀色に光らせた。緑色の眩い閃光は、バチバチ音を立て光り輝いた。それは、彗星のような眩しい光だ。


「そんなもの、意味無いわ、ドーラ。」

ブリギッドは、そう言い捨てると素手で緑の閃光に触れた。

緑の閃光は、徐々に弱くなっていきバチンと音を立てて無になった。


ドーラは、怯み激しく首を振り大きくバク宙し窓の外へと消えた。


「ブリギッド…」

セイラは、息を飲んだ。奇妙な少女と変わり果てたブリギッドの前で、何も出来ずに呆然と見ている事しかできないでいた。

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