第12話 深淵のパンドラ ③
ルーナとシーラが目を覚ますと、姿見の前で見知らぬ美少女が得意げにポージングを取っているのが見えた。
「ねぇ、誰?この娘‥」
「あ、ルーナ、シーラ、おはよう。それが、エウロパだって。」
同室の他のメンバー達は、困惑した顔でその謎の美少女を眺めていた。
「ねぇ、あなた、誰…?」
ルーナは、恐る恐るその美少女に話しかけてみた。
「私だよ、私、エウロパ」
その美少女は、胸元のバッジを見せた。
「他に、何か証拠はあるの‥?」
シーラも恐る恐る尋ねてみた。
「もう、ルーナも、シーラも、疑り深いなあ!ほら。」
美少女は、右手をかざし手のひらにあるほくろを見せた。そして、靴下を提げてくるぶしにあるほくろも見せた。
「えっ.」
2人は息を飲んだ。
確かにエウロパはほくろがついていたが、まだ確証は持てないー。
「私達の名前知ってる?」
ルーナは、目をハの字にし腕を組んだ。
「うん、だから、ルーナとシーラでしょ?」
エウロパは、2人を指差した。
ー何処かしらに面影はある、着ている制服やローブも、学校指定のものだ。しかし、イマイチピンとこないー。
ルーナは、続けて質問した。
「好きな食べ物は?」
「バターたっぷり塗ったじゃがいもに、ポップコーンのバター醤油味、あと、チーズケーキに、チョコレートにパフェかな‥?甘いものなら、何でも好きだけどね。」
「好きな魔法使いの名前は?」
シーラも、恐る恐る質問をしてみた。
「アーロン.ベガとシリウス.ランダだよ。知ってるでしょう。イケメンだし強くてサイコー。」
エウロパは、顔を赤らめ黄色い声ではしゃいでいた。
「あなたの、一番の願い事は?」
ルーナは、咳払いすると、核心についた。
「太ってることを治してモデルのようになりたい。あと、視力弱くて分厚い眼鏡なんだけど視力矯正して外したかったの。そして、そばかすもしみも気になってて.あと、くせ毛も.ストレートになったら良いなっで、ずっと思ってたの…」
エウロパは、姿見を見ながら頬を赤らめ目をうるうるさせていた。よっぽど自分の容姿がコンプレックスだったのだろう。
「あー幸せ。まるで夢のようだわ。これが私の求めていた本当の私だもの。」
エウロパは、髪をなびかせ腰に手を当てモデルのようにポージングしてみた。
ルーナとシーラは、互いに顔を見合わせ困惑した。
声質や、質問の答え喋りがエウロパそのものだ。
確かに、雰囲気や目の色もエウロパらしき面影もある。
しかしながら、端から見たら全然別人のようだ。ずんぐり太った赤ずきんが、いきなりエルフのような美貌を持ったかのような強い違和感を覚えるのだ。
「ちょっと、これで授業受ける気?」
「うん、ルーナ、何で?文句ある?」
「いや、そういう訳ではないけど…」
まさか、エウロパがここまで様変わりするとは思わなかった。
これ程までに、彼女はコンプレックスが多くあったとは思いもよらなかった。
「先生に、先生に魔王石がバレてもいいの?取り上げられちゃうよ?」
「う…ん、それはちょっと困るかな‥?今後、まだまだ願望が出てくるかもしれないから…」
「だったら、授業では元の姿に戻って!」
「ルーナ、分かったわよ。だけど、スタイルだけは良く見せたいから」
「いいから、早く戻って!」
ルーナの切羽詰まった口調に、エウロパは面倒くさそうにため息をつくと、石に手を当て元の姿に戻った。
この日の1時限目は、数学だった。
「シーラ.スワンさん、100点です。」
シーラは、
「やったー!」
と、ガッツポーズを取った。
彼女は、2次方程式や数列といった複雑な揉んたも、スラスラ公式を板書し3行、4行まで跨がって書いていった。
「シーラさん、調子が良いですね。」
「パターンが分かれば、何ってことないです。」
呪文学も、調子が良く複雑な呪文をスラスラ唱え周りに教えて回った。
「セイラ、やり方が違うわ。ほら、こうやって…『アクシス、いでよ…箒、アクシス。』」
シーラは、得意げに呪文を唱えセイラの持つ杖を振るうと清掃用具入れの扉は開き、中から箒が2人の下へと飛んできた。
「‥ありがとう、シーラ、こういう事か‥」
セイラは、驚きながら不思議な顔でシーラを見つめていた。
ーいつもやる気のないシーラがどうしたのだろう‥?
統計学は、シーラの一番の苦手科目であったが、かなり真剣に聞き、小テストでは満点を取った。
「どうしたの?シーラ‥いつも寝ていたじゃない‥?」
ルーナは、口を半開きにし狐に摘まれたような顔をしていた。
魔法薬学では、誰よりも早く薬を調合しグループでは、必要な材料や器具を真っ先に取り出し
リーダー的なポジションを取った。
いつもやる気がなく傍観者側だった筈のシーラが、この日は目がキラキラ輝いていた。
「では、『幸福薬』の特徴と調合のし方について知ってる者は?」
「はい、先生。」
シーラは、真っ先にピンと手を伸ばし席を立った。
「シーラ.スワンさん。」
「『幸福薬』とは、ユニコーンの角と羽、ドラゴンの鱗を調合して造ります。鎮静剤のようなもので服薬したものは、たちまちイライラや不安、哀しみといったネガティブな気持ち静まり、明るく前向きな気持ちになります。」
「そうですね。薬は人に活力を与えたり物事の視野を広める役割があります。では、その『幸福薬』を取り過ぎるとどうなりますか?」
「『幸福薬』を取り過ぎると、人は怠けてしまいます。人は、道楽が過ぎ不真面目になり、堕落すると言われています。過去に取り過ぎて、崩壊した街があったという言い伝えがあります。」
シーラはスラスラ流暢に詳細を説明し、周囲を驚愕させた。
「正解です。よく勉強してきましたね。座ってよろしい。薬は取りすぎてしまうと、己をも崩壊しません。幸福薬のとり過ぎによる事故は少なくなく、過去にそれで敵に死略され滅亡した街もあったと言われています。」
その日の5時限目は、魔法生物学だった。この授業も、魔法薬学同様に覚える事が多く多くの生徒の頭を悩ませてきた。
「では、ユニコーンについて、詳しく説明出来る者は居ますか?」
「はい、先生。」
「では、ベラ.イクサ。」
「ユニコーンは、頭に角が生えた一角獣の事を言います。彼らは色は真っ白で、凄く獰猛です。処女の前では、大人しくなります。」
「よろしい。では、幼少期から大人になるまでの特徴も踏まえて話せますか?」
「ええと…」
「はい、先生。」
ベラが困りながらひたすら教科書をペラペラ捲っている最中、シーラはピンと手を伸ばした。
「シーラ.スワン。」
先生に呼ばれるやいなや、シーラは勢いよく椅子から立ち上がった。
「ユニコーンは、馬のような体で額に一角がある一角獣の事を言います。大人になると丈夫な毛で色は白で、蹄は金色になります。生まれた時の毛は金色で、2歳位では銀色、7歳位で白色になると言われています。身体の毛は、雪が濁って見えるほどの純白です。角が生えるのは、4歳位です。成長すると、魔法使いよりも魔女のほうを好むといわれています。彼らは、機敏で、捉えるのは困難です。
彼らは、獰猛で危険生物人とされていますが、純潔な乙女の前だと、静かで優しくなります。」
シーラは、明朗な声で教科書に載ってない事をスラスラ話した。
いつもの彼女なら、あたふたしながら周りから聞いて回るのだが、この日の彼女は二重人格であるのように頭がキレキレに冴えていた。
「よろしい。シーラ.スワンさん。よく勉強してきましたね。
彼らは、敬意を持って接すれば無害ですが、愚弄すると危害を加えると言われています。では、ユニコーンの血液を飲むと、どうなるか分かりますか?」
「はい、先生。」
「…では、シーラ.スワン、」
「ユニコーンの血は銀色でドロドロしています。その血を飲むと、死にかけていたものも蘇ります。だたし、「生きながらの死」という、恐ろしい呪いがかかります。具体的な呪いの内容は現代では知らされてはいません。取引は、現代の法律で禁じられていて、魔法省が厳しく監視をしています。」
「そうですね。よく勉強してきました。ほんの僅かでもその血を口にした時点で死ぬまで呪われると、言われています。具体的にはどのような呪われ方をするのかは、定かではないようです。では、グリフィンについて…」
先生は、目を皿のように丸くし軽く動揺を見せながらも授業を続けた。
「シーラ、どうしたの?今日、ずっと冴えてたじゃない?」
「うん、エウロパ、私何でも分かっちゃうみたい…」
シーラは、得意げに身体を仰け反り廊下を闊歩した。
小柄で華奢な身体のシーラは、この日はとても大きく見えた。
その日の夜、セイラは夢の中で謎の奇妙な少女と対峙した。
「セイラ、セイラ…」
謎の古びた18畳位の洋間に、一面の鏡張りの所がありそこに黒紫色の霧が覆い尽くすー。
満月の光が優しく照らす。
霧が晴れると、そこから古びたとんが帽の謎の少女がニヤケ顔で姿を現した。ブカブカの古びたローブにボロボロのスカーフを巻いている。
目は、帽子のつばで見えないー。
見た目は、10歳から12歳位だろうかー?
「咲山、セイラね。」
「あなたは、誰‥?」
セイラは、眼を凝らし鏡に手を当て少女を眺める。
「私の名は、クラブ.ハート…」
「クラブ.ハート」
「私は、名前が複数あるの。」
少女は、甘くはちみつのようなねっとりした声で優しく語りかける。
「初めまして、咲山セイラ。」
聞いたことがあるー。
見た感じ、彼女はこの学校の生徒ではないようだ。かなり昔の時代のローブを着ている。
「な、何の用‥?」
セイラは、恐る恐る少女に話しかけてみた。
「貴女の、お友達、大丈夫…?」
「‥ブリギットの事‥?」
「彼女は、いずれは脅威となる存在よ。」
「脅威…?」
「いずれは、あの娘は、ダークマターとなる存在よ。」
「ダークマター…?あの、暗黒物質の事…」
「そう。暗黒物質。まあ、魔王石があればどうって事ないでしょ。だけど、その石に願いを掛ければ掛けるほどあなたは大切な物を失う。」
「ふざけないで、私は魔王石なんか絶対に使わない。私は、正当な方法で…」
セイラは、声を張り上げた。眼の前の少女は、人の心を弄ぶのが好きなようだ。何処となく鼻に付き、セイラは癪に触った。
「そう強がるのも、今のうちよ?」
少女は、クスクス笑い鏡の中は再び黒紫の霧に包まれた。
笑い声だけが、部屋中を不気味に木霊した。
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