第8話 タケミカヅチの力

 <レッドキャップ>のパイロットはコックピット内で口角を上げて不気味に笑う。その凶器に満ちた眼光をモニターに映る白いAアサルトFフレームに向けて舌なめずりする。


『そうだ……優秀な私にとって相応しいのはお前のようなシャーマニックデバイスと言われる機体なんだ。大人しく私のモノになるがいい!!』


 <レッドキャップ>のアサルトライフルが火を噴く。<ゴブリン>が装備している物よりも数段火力が上のモデルで一発の威力と連射性が向上している。

 <タケミカヅチ>はそれを難なく躱すと敵から奪ったアサルトライフルで反撃するが、機動性が高い<レッドキャップ>もまた左右にジグザグに動き回避する。


 二機がアサルトライフルの撃ち合いを始めると距離を取っていた<ゴブリン>二機が多連装ミサイルとライフルで援護を開始した。

 三方向から同時攻撃を受ける形となった<タケミカヅチ>であったが、<レッドキャップ>の射撃を回避しつつアサルトライフルでミサイルを撃墜すると高速移動しビームダガーで<ゴブリン>のライフル銃身を斬り落とした。

 

『速い! こんな……』


『やられ……!?』


 一瞬で<ゴブリン>二機は四肢を切断され大地にその骸を晒す。命からがらパイロットはコックピットから這い出て逃げていった。

 その様子を見ていた<レッドキャップ>のパイロットは舌打ちすると逃げた仲間に侮蔑的な視線を向ける。


『ちっ、敵前逃亡とは情けない奴らだ。――それに比べてお前は随分と生き生きしているようだな。サルベージャー』


『……その言葉そのまま返しますよ。あなたは管理局側の人間なんでしょう? それがAFを持ち出してサルベージャーを襲うなんて正気じゃない』


 <タケミカヅチ>のコックピットでカナタは冷ややかな目で眼前にいる<レッドキャップ>見つめていた。


『正気だよ。むしろおかしいのはお前の方だろう。こちらの調査ではお前は戦闘経験の無いサルベージャーだったはず。それがここまで戦えるとはな。一体どういう手品を使った?』


『――それをあなたに一々説明する必要はない。そんな事よりも投降を勧めます。そして然るべき場所で罪を償ってもらいます』


『舐めるなよ小僧。たかが数機のAFを落とした程度でいきがるな! お前に実戦の恐ろしさを教えてやろう』


 <レッドキャップ>は腰部に搭載しているビームソードを取り出し装備するとダガーよりも長く出力の高いビーム刃を発生させた。

 切っ先を<タケミカヅチ>のコックピットに向けてカナタを挑発する。


『このビームソードは大罪戦役中で高性能AFが装備していた特別製だ。お前が今持っているビームダガーとは質が違うのだよ』


『それが何か? 例え武器が優秀でも使い手が三流なら性能を活かしきれない。――それだけです』


『言ってくれたな小僧ォォォォォォ!! ならば望み通りに斬り刻んでやる!!』


 怒号と共に<レッドキャップ>はその場を飛び出すと、アサルトライフルを連射しながら接近してくる。

 カナタはスラスターと各部バーニアを巧みに操りビームの弾丸を回避していく。


『素人が! それは牽制だ。――死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!』


 ビームソードの一太刀が<タケミカヅチ>に迫る中、カナタはビームダガーで斬撃を受け止めた。

 互いのビーム刃が接触し激しい閃光とバチバチという音が鳴り響く。


『ビームソードを受け止めただと!? こちらの方が武器の性能は上のはずだぞ!』


『簡単な話です。ビーム刃を発生する武器はジェネレーターからのエネルギー供給で出力が変化します。この機体のパワーが<レッドキャップ>を上回っているから互角に渡り合えるんです』


『ちいっ!!』


 すると<レッドキャップ>は何度も斬りつけ始める。その度に<タケミカヅチ>はビームダガーでいなし、隙を突いて敵機の手首を斬り落とした。

 接近専用の武器を失った<レッドキャップ>は射撃で牽制しつつ撤退していった。


『くそっ!! この私があんな小僧に負けただと!? ――いや、違う。これは機体の性能差によるものだ。覚えていろよ、この屈辱は絶対に忘れん。この借りは必ず返す。そしてその機体を私のものにしてみせる!』


 敵機が逃げていったのを見届けるとカナタは大きく息を吐いて操縦桿を握っていた自分の手を見つめた。


「何だったんだあのビジョンは……それに初めて殺し合いをしたっていうのに妙に落ち着いている。僕は一体どうしてしまったんだ」


 カナタは戦いの中で変化した自分の心情と戦い方を身体が覚えている事実に戸惑うのであった。

 ――時に新星歴300年。惑星『ネェルアース』を震撼させた大罪戦役から百年が経過したこの年。

 新たなる戦いの鼓動が動き始めていた。

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