第6話 レッドキャップ

『テメーら、何ボサッとしてやがる! 一緒にあのアーマー野郎を撃てや!!』


 残り二体の<ゴブリン>もそれぞれ装備しているライフルで<タケミカヅチ>を撃ち始めた。

 それでも三機からの攻撃に対してこっちのDディバインフィールドの消耗はほとんどない。

 下手に動くよりも防御に徹した方が時間稼ぎが出来そうだ。


『……ちっ、何て機体だよ。三機がかりだってのに落とせないなんてな。――でもな、そいつのパイロット。こんなとこで突っ立ったままでいいのかい?』


「どういう意味ですか?」


 その余裕を感じる言葉遣いに不安を感じる。何だか嫌な予感がする。


『そもそも今回の依頼が海中専門のサルベージャーじゃなくて、どうしてお前らみたいな弱小サルベージャーにいったと思う? 簡単な事さぁ。俺らみたいな横取りを生業なりわいとするサルベージャーがやりやすいようにお膳立てしてくれる奴が管理局側にもいるんだよ。つまり、お前らは管理局に売られたって事さ。小遣い程度の金の対価としてお前とあの爺さんの命が天秤に掛けられたんだよ!!』


「それじゃあ、爺ちゃんは……!」


『ここに向かってる管理局の人間は俺らの協力者だ。今頃は証拠隠滅のために焦っているはずだぜ。当然あの爺さんは見つかり次第、真っ先に始末されるだろうなぁ。――そうなったら次はテメーだ、ガキィ!!』


 頭が真っ白になる。今まで必死に真っ当なサルベージャーとして頑張ってきたのにどうしてこんな目に遭うんだ。

 目の前にいる連中が馬鹿にするように笑う。どうしてさげすまれなければならない。どうして僕と爺ちゃんの命が石ころみたいに扱われなければならないんだ。

 ――こんな事があってたまるか。


「ふざ……けるなぁーーーーーーーー!!!」


 <タケミカヅチ>の全スラスターを噴射して体当たりをする。今度はさっきと違って衝突した後もパワーを弱めずにその勢いのまま地面に叩きつけた。

 その衝撃で<ゴブリン>の片腕は吹き飛び所々から火花が散る。これ以上動かれないように敵機の脚部を足で蹴り潰した。


「これで動けないはずだ。――時間が惜しい。とっとと終わらせる!!」


『おい、なんだよこいつ。さっきまでとはまるで別人じゃないか!』


『追い詰められて本性が出たってか? そんなんで俺らがやられるかよっ!!』


 こんなに怒ったのは初めてだ。いや……何だかずっと昔にも同じような怒りを覚えたような気がする。

 でもそれがいつだったのか思い出せない。もしかしたらこれは以前の……保育装置で再生される前の記憶なのだろうか?




「――はっ!」


 我に返ると地面には<ゴブリン>三機の残骸が横たわっていた。コックピットは無傷なのでパイロットは無事みたいだ。

 断片的に敵機を破壊した時の記憶が蘇る。

 ――僕は容赦なく淡々と敵機を破壊した。<タケミカヅチ>のパワーに任せて四肢を引きちぎり殴り飛ばして行動不能にしたんだ。

 こんな戦闘行為は初めてのはずなのに戦い方を身体が覚えているような感覚だった。


「今はそんな事はどうでもいい。……早く爺ちゃんを追いかけないと!」


 急いで<ランドキャリア>が退避した方角に向かって<タケミカヅチ>を向かわせる。重装甲だというのにやはりスピードが速い。

 これならすぐに追いつけるはずだ。


「――爆発? あそこか!」


 次々と爆発が起こっている場所に機体を向かわせるとDフィールドを展開した<ランドキャリア>が攻撃を受けていた。

 付近にいる三機の<ゴブリン>とブレードアンテナが赤い機体がライフルで攻撃している。


「あの赤い角付きは<レッドキャップ>じゃないか! あんなのが出てくるなんて相手は普通じゃない」


 <レッドキャップ>は<ゴブリン>のカスタム機で額部の赤いブレードアンテナが特徴の機体だ。

 見た目こそほとんど<ゴブリン>と同じだが中身は別物だ。パワー、スピード、火力どれをとっても数段上の性能を持っている。


 <ランドキャリア>のDフィールドが虫食いのように所々消失し、そこを抜けた攻撃が直撃する。

 その衝撃で<ランドキャリア>は動きが止まってしまった。


「まずい……!!」


 真っ直ぐに敵機集団に突撃すると<ゴブリン>二機が多連装ミサイルを発射してきた。

 <タケミカヅチ>はスラスターの大出力で前方に勢いよく飛べるが動きが鈍重なので左右には機敏に動けない。

 その為ろくな回避行動も出来ないままミサイルの直撃を受けて勢いよく地面に倒れてしまう。

 コックピットにも衝撃が伝わり目がかすんだ。


「くそ……ミサイルなんて正規ルートじゃ流通していないはずなのに」


『……なるほど、それが海底から引き上げた機体か。ミサイルの直撃を受けたというのに装甲を破壊する事もできないとは大したものだ。――私の新しい機体として相応しい性能だな』


「あなた方は一体何者なんですか!? それだけの装備、一般のサルベージャーには許されていないはずです!」


『既に知っているのではないかね? 最初に襲ってきたハイエナ共が口を滑らせていたと思うが』


「それじゃあ、やっぱり管理局の……」


 サルベージャーだけでなくそれを取り締まる側の管理局にも裏で卑劣な行為に手を出す者がいた。

 これが現実だというのなら僕たちは何を信じて生きていけばいいのだろう?


『カナタ……すまん、わしが足手まといになったばかりに。お前だけでも逃げろ。その機体の性能なら連中から逃げおおせるはずじゃ』


「爺ちゃん、無事だったんだね良かった。――僕は逃げないよ。ここで爺ちゃんを置いていくなんて絶対に嫌だ!!」


『この……バカもんが……』


 再びコックピットに衝撃が走る。四機による一斉攻撃が<タケミカヅチ>に注がれる。モニターに映るDフィールドの耐久値が一気に削られていく。

 この<ゴブリン>三機はさっき戦ったサルベージャーの機体よりもかなりチューンされているみたいだ。ライフルもより強力なタイプを使用している。

 そして何よりも一番厄介なのは<レッドキャップ>だ。装備も機体自体の性能も他の機体と一線を画する。こいつの攻撃が圧倒的に重い。


 スラスターを全開にして逃げようとするも機敏な回避は出来ずに再びミサイルの直撃を受けてしまう。それによってついにDフィールドが耐久限界に達し消失してしまった。


「くそっ、フィールドがやられた!」


 モニターに再使用可能時間まで百二十秒と表示される。集中砲火を受け続けたらこいつの重装甲でも長くは持たない。

 反撃する隙も与えられないまま一方的に攻撃を受け続け、機体各部に異常発生を知らせる表示と警報が鳴り響く。


「ここで……こんな所で死ぬのか……」


 その時不思議な光景を見た。前方に広がる炎の海。その中にいる巨大なAアサルトFフレーム。見たことが無いはずなのに何故か知っていると断言できる絶望的なビジョン。

 そうだ……僕は知っている。あの巨大なAFを……そして……この<タケミカヅチ>の本当の姿を……。

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