第4話 その名はタケミカヅチ
コールドスリープされていた少女をコックピットから降ろし<ランドキャリア>に運んだ。現在ベッドに寝かせて身体に異常が無いか確認している。
「……ふむ。バイタル上は問題なしじゃな。体温、心拍数、血圧、血中酸素飽和度の全て正常値じゃ。少しすれば目を覚ますじゃろ」
「そっか、良かったぁ」
眠っている少女を見て改めて綺麗な子だと実感する。どうしてこんな子が
色々と考え込んでいると爺ちゃんが僕の顔をニヤニヤしながらのぞき込んできた。
「カナタよ。眠っている女の子の顔をしげしげと眺めるのはあまりいい趣味とは言えんぞ。確かにこの少女はかなり美人じゃしスタイルも凄い。おまけにこのハイレグタイプのパイロットスーツのお陰でもの凄くエロい。だからと言って――」
「別に眺めてないよ! って言うか、この短時間でよくそこまで観察したね。いかがわしい心を持ってるのは爺ちゃんの方でしょう!?」
「うう……酷いのう。老い先短い老いぼれにそんな非難を浴びせるとは。わしの知ってる優しいカナタはどこに行ってしまったんじゃ……」
「また始まったよ。都合が悪くなるといつもそれ言うんだから。そんなに元気ならしばらくは安泰だよ。――それじゃ、僕はあの機体が動くか試してみる」
「いや、あの機体は誰にでも動かせる代物じゃない。大変だとは思うが<ソルド>で運ぶ方がいいじゃろうな。輸送機に関しては既にサルベージャー管理局に連絡してあるから回収班がそのうち到着するはずじゃ。だが、その間に獲物の匂いを嗅ぎ取ったハイエナ共が来る可能性がある。あの機体をつぎ込んだらとっととここから離れるぞい」
「了解!」
とは言ったものの<ソルド>であんな重量級の機体を<ランドキャリア>まで運べるかどうか怪しい。だったら、機体を直接操縦して動かした方が効率はいいはずだ。
爺ちゃんには悪いけど、一人のAFマニアとしてあの機体には興味津々なんだよね。管理局に渡す前に少しだけ動かしてみても罰は当たらないでしょ。
例の機体のコックピットに入ると操縦系統は<ソルド>とそんなに変わらない。
AFの操縦はパイロットの思考による操作を基本にしつつ操縦桿を組み合わせて行う。
こうして感覚的に扱えるのでイメージ操作が得意な人間であれば割とすぐに乗りこなせるようになる。
試しに起動のイメージをしてみるが動き出す気配がない。
「やっぱり爺ちゃんが言っていたように誰にでも扱える物じゃないって事か。……ん? 何か光ってる……?」
左右の操縦桿の間に長方形のパネルがあるのだがそれが光っていた。まるでここに触れろと言っているみたいだ。
このままでは機体は動かないので試しに掌で触れてみるとシステムが起動しモニターに外の映像が映し出される。
「やったぁ、動いたぞ! これなら簡単に外に運べる」
喜んだのも束の間。オペレーティングシステムが何やら物騒なことを言い始めた。
『前パイロットの死亡確認によりシステム初期化。新規パイロットの登録開始……脳波及び静脈パターン登録完了』
「……へ? パイロット登録? ちょ、ま……!」
『声紋パターン登録完了』
「ちょおおおおおおおおお!!」
モニターに様々な表示が表れては消え着々とパイロット登録が進んでいく。そして――。
『パイロット登録全行程終了しました。メインシステム起動します』
「あは……は……これってもしかしてやってはいけない事をしたのでは?」
パイロット登録が必要な場合は確かその人物以外は機体を動かせなくなる制約が掛かるはずだ。だとすると、この機体は僕以外には動かせなくなった可能性がある。
そうなると管理局に機体を渡す際にシステムの初期化など色々と面倒くさい事をしなければならなくなる。
ため息を吐いていると正面のモニターに何やら表示された。
『アマツシリーズ TMHX―04<タケミカヅチ> システム起動』
「アマツシリーズ? それにTMHXって輸送機に書かれてた……もしかしてこいつの事を指していたのか。TMHXは型式番号でこいつはその四番機に当たるみたいだな。機体名が……<タケミカヅチ>か」
輸送機はこの機体を輸送中に攻撃を受けて海の中に沈んでいた。そしてこの機体の中には、少女がコールドスリープ状態で眠っていた。
いったい百年前に何があったのだろう。
「色々悩んでいても仕方がない。とにかくこの機体――<タケミカヅチ>を爺ちゃんの所に持って行くか」
起き上がるイメージをするとシステムが連動し<タケミカヅチ>が手を突いて上半身を起こした。
よしよし、イメージから機体動作までのタイムラグもない。かなりスムーズに動くぞ。重量級の機体だから動きが重いけどこれぐらいなら何とかなるだろう。
その時コックピット内に警報音が鳴り響いた。同時にモニターの一部にレーダーが表示され何かがここに近づく様子がモニタリングされる。
するとこの機体の索敵範囲に入ったのかアンノウンと表示されていた反応の正体が判明する。
「これは……MT―003<ゴブリン>か。一般的な量産型AFだけど、このタイミング……まさか爺ちゃんの予想が的中したのか!?」
<ゴブリン>の反応は三機。一般のサルベージャーならこれだけの機体を保有していてもおかしくない。
<ゴブリン>は元々は大罪戦役時に『ノア3』側の量産機として実戦投入された機体だ。
あまりにもたくさん造られたので戦争終結後も『ノア11』領内に大量に残り、今では多くのサルベージャーが愛用している。
その数ゆえに故障しても予備パーツが潤沢にあるのでコストが安く済むのが最大の特徴だ。僕が乗っていた<ソルド>と性能的には同等の機体だったりする。
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