第百二十六話:蜘蛛の魔物・Ⅶ
≪バルムンク=レイ≫
高密度の魔力によって作られた二振りの物質化したエネルギー刃を作る魔法。
決して破壊されない不壊特性と防護魔法術式に干渉して破壊するという特性を併せ持つ、ファーヴニルゥの兵装魔法術式において
魔法殺しの蒼き魔剣。
その術式をディアルドは当然のように知っている。
その魔法の特殊性、強さを考えればいい当然であり、別にカッコいいからという理由で覚えたわけではない。
なにせこの魔法術式、殲滅兵装であるファーヴニルゥが使う魔法術式だけのことはあり、恐ろしく緻密で膨大な情報量に基づく術式構成を必要とする。
難易度だけで言えば上級魔法術式の中でも上澄み、あるいは超えているかもしれないほどに高難度の魔法だ。
当然誰にでも使えるものではないどころか、真っ当な魔導士ではまず発動させることも不可能。
ついでに魔力の消費もえげつない効率なので、術式を改良するために本来であれば二刀の魔法術式であったところを一刀へと変更せざるを得なかった。
これはこれでありだな、などと会得した当時の彼は思ったものだった。
正直、使う機会があるとは思っても居なかったが……。
「やっぱり、通るんだなァ!」
ディアルドは嗤った。
麗しき我が騎士の蒼く輝く魔剣は
今までの硬さは何だったのか、といいたいぐらいに多少の抵抗はありつつも彼の魔剣は途轍もない魔力を消費しながらも深々と切り込んでいき――
「魔力が……だが、これでェ!!」
ディアルドは蒼く輝く魔剣をそのまま振り抜いた。
そして、ディアルドはこの機を逃すまいとトドメを刺すように蒼く輝く魔剣を改めて深々と突き刺すと、
「≪
その一言とともに≪バルムンク=レイ≫を構成した膨大な集束された魔力を開放された。
荒れ狂う魔力の波濤となって突き刺された刃から
崩れ落ちる
その様子を見ていたルベリが喝采を上げた。
「あに――じゃなかった、ディー! やったじゃないか」
「私たちがあんなに苦労した
「それも明らかに強そうというか群れのボスみたいなやつを」
「見ろ、上に言っていた蒼穹姫もこっちに向かってる。あんな短時間で天井の大きな
「あっちは女王って感じでしたけど、どちらにしてもあれだけ強大な魔物をあんなにあっさりと……」
「「「「ベルリ領……恐るべし」」」」
(私は特に凄くはないんだけどな……)
ヘリオストルの言葉に少しだけ勝手にへこんでいると、オフェリアが話しかけて来た。
「いい配下を持っているじゃねぇか。そっちは優秀で実に羨ましい。私はこれからヘリオストルの折檻があるんだ。全く……」
「あの……先ほどからオフェリア様の喋り方が……」
「こっちが素なんだよ。ずっと演じていると疲れるしな」
「はあ?」
「そ。それから別にいいんだよ。その……友達に見せる分はさ」
「えっ、友達?」
「忘れたのかよ、報酬の話だ。ペリドットの血を継し者が一度行った約束を破るなんてことはしない。だから……なんだ、オフェリア様ってのはやめろ。公式的な場とかはともかく、様付けとか敬語とか……さ」
照れた顔をしながらオフェリアは続けた。
「その、やっぱり嫌だから変更ってのは無しだからな? 返事は?」
「う、嬉しいよ。これからよろしくな! オフェリア!」
「はやっ!? もうちょっとこう……まあ、いいや」
「これで私たちは……そのお友達ということで――」
そんな風にオフェリアが喋っていたその瞬間、その傍を銀の閃光が貫いた。
ファーヴニルゥである。
「どうしたんだ急に?」
「下の様子を見てゆっくりと降りて言ってたはずなのに……」
彼女はまるで何かに反応したかのように動き出したのだ。
「ふーはっはァ! 出迎えか? 我が麗しき剣よ、実はちょっと魔力消費が大きすぎて登れないのだ」
「マスター! そこは危険だ! 離れて!」
気安く声をかけたディアルドに対し、ファーヴニルゥの言葉から放たれた言葉。
彼はそれに答えるようにすぐさま意識を切り替える。
(なにを……
数分後にはすべて消えてるだろうが、逆に言えばそれぐらいはまだ生きているということ。
「ふーはっはァ! ……こっちは魔力もすっからかんなんだぞ! だが、なんとか――」
ファーヴニルゥが言っていたのはこのことだったのだと判断し、ディアルドは対処しようと構えるが……。
「違う! そっちじゃない! 外から――もっとヤバいのが来ている!」
そう彼女が言ったちょうど瞬間――洞窟は爆発した。
比喩ではないそれと誤解するほどの衝撃が洞窟全体に響き渡り、そして山の中をぶち抜いてその存在は現れた。
異名は≪魔剣≫。
王国の秘宝である魔剣グラムの正当所有者。
こんなところに居ていいはずもない――王国最強。
そんな剣士が唐突に現れたのだった
「じ、ジーク……」
「み つ け た」
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