第六十話:楽しい尋問術・Ⅳ
「いやいや、ロゼリア……お前、何を言って――うちだと一番の大戦力なんだぞ? それが抜けたら」
「そうですよ、姉さん」
「ロゼリアの姉さん」
「じゃあ、折角出会えたアリアンと別れろとでも!?」
「それはその……」
「あ、姉上……」
「アリアンも私と一緒の方がいいよね?!」
「いや、それはそうだけど……。その……さっき言ってた父上も母上の夢を果たす云々は?」
「…………」
ロゼリアは一旦、目を瞑りそしてあたりを見渡した。
そこには今日も元気に農地を耕している
「王国に新しい魔法の在り方を示すことこそ、父上も母上の夢だった。この領地ではそういった意味で新しい風が吹いているといえる。あの畑仕事をしている
「その新しい風が吹いている領地に武力を用いて侵入してきたのは誰だっけ?」
ファーヴニルゥが呟いたがロゼリアは聞き流しているようだ。
「つまり、私もベルリ領の住民となって発展に寄与することができればそれは夢を果たしていると同義ではないかと思うわけよ」
「兄貴すげーぜ、この女」
「ふーはっはァ! 世の中、凄い面白い女がいるもんだ」
「まあ、確かにここは子爵様とディーの方針でとても魔法に関して開明的ではあるけども……」
ルベリ達と好き勝手に話しているものの彼女はそれも聞き流しているようだ。
ロゼリアにはアリアンしか見えていない。
「それはまあ……確かに?」
「うん」
「おい、待て。なんでお前たちまで……」
「いや、よく考えたら俺たちって失敗してしまった以上、返ってもろくなことにはならないんじゃ」
「あー、それは……」
「事情を話したところでもう一度取りに行って来いとか言われるだけじゃ」
「不安があったから試験運用という建前で持って来た
「……な、なあ? 解放の条件なんだが
ざわざわと彼らは話し合い始めた。
吊るされた状態で。
「なんか、変な方向に話が進んでないか?」
「うむ、解放されるという安心感のお陰で先のことを考えらるようになったのだろうが」
「どうにもあまりいい未来はないらしいね」
反体制地下組織の内部事情などディアルドとしてはどうでもいいが、彼らの様子を察するにあまり懐の大きな組織ではないらしい。
組織内でも派閥の争いのようなものもあるようだし。
「どこも案外変わらないものだなぁ」
「何をしみじみとしているのかはわからないけど、どうするんだよ?」
「どうする、とは?」
「いや、さっきからあのロゼリアとかいうアリアンの姉が残るとか言ってるじゃん? まあ、私としても勝手に領地に入ってこられていい気分をしているわけじゃないけどかと言って追い出して別れ離れにするのも……」
「というかなんか他の彼らも残るとか言い出しそうな雰囲気だよ、マスター」
「ふむ」
ルベリとファーヴニルゥの言葉にディアルドは少し考えた。
彼としては正直、持てる情報は頂いたつもりだし代金として
なのでさっさと放り捨てるつもり満々だったのだが――
「――まあ、それはそれでいいか」
「えっ、いいの? 自分で言っておいてなんだけど、どれだけの罪を犯してるかもわからないんだぜ」
「そこら辺に関しては――まあ、考えてある。罪を犯している云々なら……そこまで強く言えんし」
「ああ、うん。そうだったわ」
ディアルド個人でも強盗、強奪、窃盗などわりとやってるしルベリと共謀して爵位を得たことに関しては普通に重罪である。
あまり人のことを言えた身分ではない。
「それに、だ」
「それに」
「後々のことを考えてある程度領地の基盤が出来たら人を集めようとか決めていただろう?」
「ああ、そういう計画だったな」
「冷静に考えて――こんな国の外れにあるベルリ領に人が来ると思うか?」
「うーん」
ルベリは考え込んだ。
魔法使いまくりのせいとファーヴニルゥという武力のお陰でわりと順調なルベリ領の開拓だが、外からみるルベリ領とは人里離れていて少し前まで人の手も入っていなかったモンスターの楽園と言ってもいい地帯の領地だ。
まあ、行きたいと思う方が稀だろう。
「粘り強く集めるしか……」
「それだと時間がかかりすぎる。まさかずっと俺様たちだけでちまちま作っていくわけにもいくまい」
「……別に私はそれでも――」
「ええい、黙れ黙れ。相変わらず欲の小さい女だ。やるなら当然素晴らしい領地を――偉大なる俺様の国を作る決まっている。そしてそれを為すにはやはりマンパワーが必要不可欠。だから最悪、金ならあるから奴隷でも大量に買って雇用しようかとも思ったていたが……」
「ど、奴隷って……兄貴それは――うん? 雇用? 買って来ようじゃなくて?」
「ふーはっはァ! 何を言っている労働契約は結ぶのだから雇用だろうが」
「あー、うん。いや、なんでもないわ。続けて」
「?? わからんやつだな? まあ、いい。そんなことも考えていたわけだが……それなら別にこいつらでもいいかなっと」
ルベリと喋っていくうちにディアルドの頭の中で考えがまとまった。
「どうするんですか、支部長。このまま帰ってもホークウッドさんが……」
「ホークウッドさんは昔から悪い噂ばかり聞きますし」
「成果も無し、ロゼリアの姉さんも離れたとなれば――」
「ぬっ……ぅううっ」
「困っている様だな? そんな貴様らにベルリ子爵から提案がある」
「なんだって……?」
「このまま開放するという選択肢はそのままにそれともう一つ。我が領の領民となり働くことが出来るという選択肢だ」
「私はアリアンと残ります! ので、後者の選択肢で!」
「「姉さん!?」」
「姉上……」
一瞬で選択したロゼリアに仲間であった彼らの悲鳴が上がるが彼女はどこ吹く風だった。
「お前……結構な付き合いだろうが。それをあっさりと」
「勘違いしないで欲しいがお前たちへの情くらいある。色々と助けられたし付き合いも長い――」
「なら」
「――だが、それとは比較対象にならないほど私にとってアリアンが大事なだけだ!」
「「あっ、はい」」
何とも言えない雰囲気がその場を支配する。
わりとあっさりと仲間の元から離れると宣言したロゼリアに誰もが何かしら言いたい気持ちになったが、なんとかそれを呑み込んで続けることにした。
「ハワードとか言ったか? お前たちはどうする?」
「……生活の保障は?」
「一先ず、食べ物と水は十分に用意はできる。住むところはこれから作るしかないが……」
「野営のためのテントぐらいはあるからそれは問題ないが……いいのか?」
「当然、罪は償ってもらうがそれは働きで返して貰おうというやつだ」
「労役ってことか。なるほど」
「戦力にするために魔導士が何人かいたな? そいつらにも魔法を教えてやろう。少しだけだがな。それで更に開拓の効率を……」
「いいのかよ、魔法を教えたりなんてして」
「周りを見ろ、ここはそういう場所だ」
「確かに好き勝手に使いまくってやがるな……なんで
「便利だろうが」
「そりゃそうだろうが……」
「俺もあんな魔法が……」
「学べるのか?」
「…………いいだろう、わかったのもう。それで頼む」
「いいだろう。ふーはっはァ! 労働力ゲットぉ!」
「マスター良かったね!」
「うむ!」
ディアルドとファーヴニルゥが喜んでいるのを眺めながらハワードは言った。
「まさかこんなことになるとはな。俺たちの方から攻めたというのに案外世の中――」
「まあ、解放された場合は二度と入ってこないことを罰としていたわけだけど、このまま住民となるなら禊は必要だがな。そのまま労役では示しにならんし」
「兄貴??」
ハワードが最後まで言い切る間もなく、徐にディアルドは指を一切の躊躇もなく鳴らしそして――
「は?」「え?」「うん?」「アリアン、お姉ちゃんと――」
どぼん、っと。
「うぎゃあァああああ!」「は、入ってくるなぁ!」「ぬ、ぬめねめぇ……!」「もがもがもぎゅ……っ!」「でぃー、きさまぁ――あっ」「これがベルリ領の洗礼……っ!」「兄貴ィいいいいい!! 押し付けてくるなぁあああ!」「ひゃ、ひゃめぇ……」
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