第八話《魔導と獄炎・後半》

さて、どう攻略するか―――。


「物は試し、俺の持ち技をぶつけてから考えていこうか!」


さっきのフルキャストが失敗になった原因はただ一つ、相手が炎使いなのを忘れて雑に炎の技を使ったことだ。このミスさえ無ければそこそこ通用したはずだ‥‥‥炎転で透かせなければの場合だが。


今の俺が調べる必要があるのは、炎転の性能。今見ると炎転状態を解除していることから、長時間の維持は消耗が激しい、または炎転以外の攻撃が使えないなどのデメリットがあると考えられる。

まあ、それもブラフで必殺の一撃を叩き込むための布石としている可能性もあるが、そんなのいちいち考えていたら面倒だから今はそれは考えないでいこう。


「まずは‥‥‥コイツからだ。バレット‥‥‥レールガン」


まず雷の弾丸を発射して、右手の親指と人差し指だけで刀を保持しながら手のひらにレールガンの魔法陣を仕込む。


「穿ち放て!」


その弾丸に対抗するように天宮は炎の玉を発射して、俺はその発射瞬間を狙ってレールガンを起動する。


「―――今だ、発射!」


手のひらから放たれた光線はそのまま弾丸を追い越し、彼女の胴体を穿つ。


「痛―――っ、炎転!」


‥‥‥ここで炎転だと?


そう疑問に思ったが、次の瞬間、炎転を解除した彼女の肉体には傷一つついていなかった。そう、俺が開けた風穴もだ。


「なるほど、回復効果―――正確には欠損再生ってところか。そんな効果もあるとかズルだろ‥‥‥」


「お褒めに預かり光栄。でも、体力ゲージは減っているのだから一切の意味が無いわけではないんだけれどもね―――焼き穿て!」


放たれた槍を回避し、次の技を考える。


―――常時炎転でもなければ不意打ちは通用する。なら、無理矢理にでも炎転を切らせれば‥‥‥弱点を見抜けるかもな。


「よっし―――ジェイル!」


地面に大量の電気を流し、それによって雷の檻を生み出す。


「‥‥‥何をしようとしているのか知らないけど‥‥‥砕け散れ―――爆炎!」


地面が砕かれ、流れている雷の流れが阻害されるが―――。


「なめんな‥‥‥ッ!」


魔力を活性化させ、弾けた雷を収束させてオート操作からマニュアル操作に変更し、無理矢理雷の檻を展開し切る。


「完全に貰ったぜ―――多重展開、レールガン!」


「動けな―――っ、炎転!」


プリズンで完全に動きを封じた天宮に幾つもの光線を放つ。そして、炎転を起動した彼女の体を穿つが‥‥‥体力ゲージは減少しない。


「チッ、やっぱ無敵かコイツ‥‥‥」


炎転状態を維持したまま雷の檻を抜け出す彼女を見て、そう悪態をつく。

発動中は一切動けないとかのデメリットがあったら嬉しかったんだけどな‥‥‥。


やはり炎転中は一切の干渉が通用しないと見てもいいだろう。氷などの物理的干渉は勿論のこと、雷という半分概念と化したナニカにすらも干渉を許さない、というのは厄介の一言ではすまされない。

最適解はやはり不意打ち、それか発動前に潰すことだろう。


「身体能力っで攪乱しながら不意を突きながらレールガン連打‥‥‥それでいこうか」


正直、さっきまでの魔法連打で魔力が半分くらいになっているが‥‥‥レールガンおよび身体強化―――アクセルなどの加速は馬鹿みたいに魔力を消費する。それこそ、レールガン二発で一割も削れるほどだ。確実に当たるタイミングで使えば何とかなるか。


既にヒントは得ている。最初に撃った時間差レールガン―――工夫はする必要があるが、それで削っていくしかない。


「まずは接近戦で炎転を誘発させて貰う―――アクセル!」


「―――そう簡単に近づけさせないわよ、螺旋を描け、地獄の炎!」


接近戦をしようと一歩を踏み込んだ俺を止めるように、炎が回転し、結界を生み出した。


クソ、流石にこれに突っ込むのは無謀だ。

そう考えた俺は炎の結界の前でブレーキをかけ、刀を振るう。


下段に構えられた二刀が交差し、更に横一閃。二回交差した刃は六の一画目が抜けたような炎の軌跡を残して振り切られる。だが、炎の先が一瞬だけ見え、俺が切った部分が回転し、何の異常もない炎の壁が残る。


「燃え盛れ、焔の鞭」


僅かな呟き。辛うじて俺の耳が捉えたその声を信じ、全力でジャンプする。


ゴォッ、と風切り音が響き、幾つもの炎の線が走っては地面と空を傷つける。その攻撃範囲はさっき見たものよりも広く、速く、その数も圧倒的に増えていた。


―――焔の鞭の前文が迸れ、から燃え盛れに変化していないことに気づかなかったらミスってたかもな。


だが、結果として俺はノーダメ、そして‥‥‥この結界の穴を見つけた。


「‥‥‥レールガン」


声を可能な限り抑え、空中から球状の結界の薄い部分―――球体の上部からさっき見た結界内の光景から逆算した天宮の位置めがけて放つ―――!


―――その光線は一瞬にして結界を貫通し、少しの減衰のあと、何かに集中している彼女の腕を貫く。


「いっ―――まさか、上!?」


炎の結界が解除され、上を見上げた彼女と目が合い、そのまま俺は刀を振り下ろしながら落下する。


「クッ、炎転!」


刀が炎に包まれ、地面にめり込む。


―――今だ。


刀に仕込みをし、俺は両手の刀を手放して後退する。それと同時に天宮の炎転が解除された。


「チャンス―――爆天!」


俺が離れたのを好機と捉えたのか、そう彼女は言った。

ボォッ、と炎が吹き出し、彼女の体を包んで炎の羽を生み出し―――俺はそれを見ながら、彼女が左右に動いていないことを確認した。


「悪いが、それは阻害させてもらう。起動しろ、レールガン!」


地面に刺さった刀に込められた魔法陣が起動し、二本の光線が空に伸びる。


「グッ―――!?」


天宮がくぐもった声を上げる。


このまま一気に距離を詰めて押し―――!?


数歩詰め、あと少しで攻撃に移ろうとしたその瞬間、焔の翼が膨張する。俺はそれを眼で捉えながらも、前に進む体を止めることができず、焔が爆炎を上げ―――直撃した。


爆風でお互い吹き飛ばされて、受け身も取れず無様に着地する。


「痛ってぇな‥‥‥。お、ラッキー」


立ち上がりながら周りを観察すると、爆発に巻き込まれた二刀が近くに落ちていたため、それを回収する。

そうして刀を構え、爆発が起こった先を見る。そこには、爆発で傷ついたのか衣服がボロボロになった状態で、息を切らしながら立っている彼女がいた。


「―――今の、俺が教えた‥‥‥正確には悠斗が教えた移動技か?随分と威力がある一撃だったな」


「バカ言いなさいよ。確かにこれが私の移動技だけど―――あんな爆発を起こしたのはあなたのせいよ。まだ練度が甘いんだから制御を乱されたら変になるのよ」


俺のせいかよ。なら、あの場面ではレールガンを撃たないのが正解か‥‥‥?いや、それだけはないな。少なくともさっきの時点ではダメージレースで勝っていたんだ。半分結果論になるが、あの爆発で削られたのは精々二割。まだ体力に余裕はある。だが、彼女の体力は―――二割を切っていた。

そりゃ当然だ。レールガンを四発も当てればかなり削れる。俺はそう見込んでこの技を軸にしたのだから。


あと少し、だが、そのあと少しが遠い。

依然として天宮の爆天は継続し、接近戦を仕掛け辛い状況にある。だからこそ、少しを埋める作戦が必要なわけだが‥‥‥どうするか。

ブレイズは相性が悪い、テンペストは打点に欠ける、フロストは‥‥‥相性は悪くなさそうだが、炎を相手にすると普段以上の魔力を消耗するから俺が持たない。残るのはやはりグロームと‥‥‥補助系のプリーストだけか。


プリースト、いわゆる回復とバフを担当する特殊な属性だ。それとお組み合わせてやるなら‥‥‥一つ、思いついた。


「《魔導の体現者マギカ・ユーザ》―――プリースト。一気に行くぞ―――ヒール、ストレングス、プロテクション」


体力ゲージが少し回復し、自身の筋力が上昇し、体と刀がほのかに青白く光る。


‥‥‥この空間でも回復は機能するのか。


この空間での回復はどう機能するのか。それを確認するために本来使う必要のないヒールも起動した訳だが‥‥‥一割も回復している。地味に便利だ。


これで事前準備は完了、後は勢いだけで何とかする―――!


「《魔導の体現者マギカ・ユーザ》―――グローム、ラウンドバレット!」


十二発の弾丸を放ち、それと同時に駆け出す。

だが、天宮は弾丸を余裕そうに躱し、そのまま羽を羽ばたかせて下がる。


「焼き穿て!」


炎の槍が無数に迫る。


「この程度なら幾らでも抜けてきてんだよ―――【流】!」


刀に気を纏わせ、迫りくる槍を受け流す。

―――非物質すらも流すタネは天式の体術に追加したプロテクションの魔法。これによって干渉を可能にし―――突破口を生み出した。


「噓―――とはまだ言えないわよ。燃えろ、イグニス!」


彼女の視界が赤に染まり、俺は―――。


「間に合えよ―――【瞬】、アクセルッ!」


二つを併用した高速移動術。コイツなら―――。


「見えな―――っ、迸れ、焔の鞭!」


ビンゴ。二回も見りゃ対策も立てれるって訳だ。一度目は無様に喰らった。二度目はイグニスと言った瞬間から発火までに時間差がある事を利用して痛み分けを狙った。まあ、結局喰らわずに済んだわけだが‥‥‥それで気付いた。

そして、今ので確信を得た。


「お前のソレは視界に捉えているモノを燃やす技―――なら、認識以上の速度で動けば燃やせないだろッ!」


炎の鞭を連続で切り裂き、細切れに生まれた隙間を無理矢理突っ切る。

勿論俺もダメージを受けるが、直撃するよりは遥かにダメージは少ない。


「甘んじて受けろや―――ゼロスラッシュ」


「受けるわけにはいかないわよ―――炎転」


‥‥‥その状態でも炎転を使えるのか。そう考えるとかなりのクソ技だな。


そう考えながらも刀を振り、その炎を真っ二つに切り裂いた。


「その炎転ってやつ、やっぱチートだろ!?」


「あら、流石にそれは言いがかりじゃないかしら?」


「ただの悪態だ!」


「それは結構」


―――炎転が切れない。だからこそ、俺は意味もなく刀を雑に振っているが‥‥‥いつ、仕掛けられる?


炎転を解除した時がターニングポイントだ。そこを逃せば次のチャンスが生まれるかがわからなくなる。

いつだ?いつ―――俺の間合いから逃げ出す?


「―――今、爆炎よ!」


俺が交差斬りを放った瞬間、炎転が解除され、爆風が襲い掛かる。


「っ、この程度―――ゼロスラッシュ!」


ゼロスラッシュで無理矢理軌道を変え、物理法則を無視したモーションで爆風を裂く。


「舞い上がれ!」


ゴォッ、っと音が鳴り、熱風が頬を撫でる。天宮の方を見ると、彼女は宙に浮き、大量の炎を背後に浮かべていた。


「これで終わらせるわ―――燃え盛れ、始まりを照らす極光―――《インフェルノ》ッ!」


―――黒い太陽。空に浮かぶソレを見た感想がこれだ。膨大な熱量を前に、思考が止まりかける。

幸い、黒い太陽が降る速度は比較的遅めで、対策を考える時間が辛うじて残っている。


「これが《獄炎の巫女ヘルフレア》―――ランクS、最強の炎の異能か。バケモンみたいな出力をしてやがるぜ‥‥‥」


逃げるか―――?不可能だ。範囲が区切られている以上限界がある。

防ぐか―――?不可能だ。俺にそんな強力な防御魔法は―――あるけど魔力が足りないし相性が悪い。

なら、どうにかして迎撃するか耐えるかするしかない、か。


都合のいい魔法が一つだけあることだし、これで何とかやってみるしかないかね。


「《魔導の体現者マギカ・ユーザ》―――【ブレイズ】」


属性を炎に変更、今までで最大クラスの魔法陣を構築する。


「行くぞ―――レーヴァテイン」


その名を告げた瞬間、、右の刀に赤黒い炎が集中し、俺はソレを両手で構える。


腰の左に溜め、抜刀の構えをとる。


「―――シッ」


何の技もないただの一閃。剣先から炎が吹き出し、黒い大陽に喰らいつく。


「クソ―――重い‥‥‥ッ!」


刀から放出される炎を支える腕に負担。このまま耐えきれ―――いや、なんだこれは?


―――魔力が逆流する。そして、消耗したはずの魔力が回復する。レーヴァテインに使った全魔力を超え、それは俺の使用できる全魔力すらも超えた。


―――レーヴァテインの機能は吸収。ありとあらゆるモノを喰らいつくし、それを炎に変換してまた喰らい始める―――喰らうものがなくなるまで無限に続く俺の奥義。

ここからは完全に予想になるが―――あまりにも黒陽が膨大すぎて変換しきれないものを俺に還元している‥‥‥そう予想できる。


これはチャンスだ。俺にもたらされた過剰なまでの魔力。それを使えば、この黒陽をぶち抜く事ができる‥‥‥!


「もっと喰らってろ―――レーヴァテイン!」


二本目のレーヴァテインを精製し、その二刀で黒い太陽を抑え込む。

次第に黒陽はその質量を減らし、半分まで削った所で―――俺の腕が限界を迎えた。


「クソ‥‥‥もう支えきれねぇか」


俺という支えを失ったレーヴァテインは次第に勢いを減らしていく。


―――魔力は充分、最大出力でぶち抜かせて貰う!


「《魔導の体現者マギカ・ユーザ》―――【エレメンタル】」


属性定義を解除し、《魔導の体現者マギカ・ユーザ》をフルで扱える状態に移行する。


今から放つのは今の俺が使える中で最大級の出力をもった一撃。その仕組み故に一切の属性定義を行えないが‥‥‥その分の力はある。


「ウェイクアップ―――クラフト」


四本の氷柱を精製し、それらは十字を描いて空中で回転する。


「エンチャント―――グローム」


四つの氷柱に雷を流し―――磁力を生み出す。


「クラフト―――アイスバレット」


直径一メートルを超える弾丸を氷柱の間に生成して、それを魔力にて保持する。


「仕上げだ―――臨界駆動オーバードライブ電磁砲レールガン―――ぶち抜け―――ッ!」


残った魔力の殆どを電力に変換し、その全てを氷柱と弾丸に流し込み‥‥‥発生させた磁力で弾丸を飛ばす。


世間一般で言われている電磁加速器―――あれとはかなり原理が違うものの、磁力を生み出して射出すること、その一点だけは同じであるため俺は電磁砲と名付けた。


―――そして、放たれた弾丸は、音速を遥かに超えた速度で黒陽を貫き、瞬きする間もなく天宮の体を消滅させた。


『―――戦闘シミュレーション終了。勝者、天音咲夜』


世界が元に戻る。大量に消費した魔力も、消滅した天宮も、全てが元に戻った。


「‥‥‥終わった、のか」


脱力する。ここまで疲労するような戦闘は久しぶりだった。


「‥‥‥どうやら負けたようね。本当、何が起こったのやら」


俺と同じく疲労困憊な様子の天宮。彼女は少し笑いながらそう問いかける。


「そりゃ分かるはずもない一撃だったからな。それに、今回は運が良かったから勝てたようなもんだ」


俺のその一言に対して、心底不思議な様子で、


「運って‥‥‥そんなに卑下することはないんじゃないかしら?」


「それがそうでもないんだな。最後の技―――なんて言うのかは知らんが、本来なら俺はあれを突破して決着をつけることは不可能だった」


「《インフェルノ》、ね」


そう言って天宮は補足を加えてくれる。


「ま、その《インフェルノ》を吸収出来たからこそ、俺の魔力―――異能を使うのに消費するエネルギーを回復して、《インフェルノ》をぶち抜くことが出来たんだからな。あそこで吸収出来なかったら敗北していたし、なんで吸収出来たのかすらも分からない。そんな訳で、あれは運で勝ったと言える」


「‥‥‥そんなことないと思うけど。まあ、私たちは終わったことだし‥‥‥観戦でも始めましょうか」


―――周りを見ると、まだ戦闘をしている奴等が大半。随分と早く終わったものだ。


「そうだな―――おっ、先生だ」


そうして雑談を交わしていると、小走りで先生がやって来た。


「お疲れ様です、お二人とも。正直‥‥‥他の生徒とは格が違いますね。まあ、それはそれとして、観客席に移動してくださいね~」


「了解しました。んじゃ、行かせて貰いますね」


「ええ、それじゃあ」


―――そうして最初の異能実技の授業が終了した。後は、悠斗がどう立ち回るか‥‥‥それを見させて貰おうかね。

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