第七話《魔導と獄炎・前半》

 ―――異能場に集合して少しの時間が経過した。

 授業開始のチャイムが鳴り、七夜先生が話し始める。


「全員集まっていますね?それでは、今から異能実技の授業を始めましょうか。今回は‥‥‥皆さんが入試でやったAR戦闘による実技を行いたいと思います。入試の時とは違い、前後半の二つのグループに分けて行います」


 成程、あの時に使った施設ならそこそこ安全に実技ができるな。まあ―――どんな原理で成立してるのかが全く分からないあたり、ファンタジーに浸食された世界らしさを感じるわけだが。


「前後半のグループは出席番号の16番までを前半、残りを後半とします。ここまでで質問はありますか?」


 ‥‥‥誰も声を上げない。まあ、質問とかがあると面倒だしさっさと戦闘に入りたいしな。


「―――質問がないようですね。それでは、二人組を作ってください」


 ―――二人組、か。悠斗は後半のグループだし、中々に辛いと普段なら考えるだろう。だが、今回はその心配はしなくて良さそうだ。


「‥‥‥天宮、準備は出来てるんだろうな?」


「当然。天音咲夜―――雪に変わってぶちのめしてあげるわ」


 ‥‥‥そう、最初から決まっていた。天宮朱音、所有異能はランクSの《獄炎の巫女》。

 悠斗が偶然にも撃破した同年代最強の異能使いの一人だ。


 あの時は白月に比べれば簡単、そう言ったが―――なんだかんだランクS、油断は禁物だろう。


 そんなことを考えながら、開始までの時間を待つ。


 ━━━━━━━━━━━━


 ―――両手には二本の模造刀。これも質量を持った情報の塊というのだから驚きでしかない。

 ARシステムによって作られた刀は手にしっかりと重みを伝え、あたかもそこにあるかのように見せる。


『―――戦闘シミュレーション開始まで残り10―――』


 手の中で刀を遊ばせながら、前方を見る。

 そこには、隙もなくこちらを見つめる少女が一人。


『―――3、2、1―――シミュレーション、開始』


 ビィ―――っと鳴り響く音声を聞いた瞬間、声が上がる。


「《魔導の体現者マギカ・ユーザ》―――【ブレイズ】」


「《獄炎の巫女ヘルフレア》―――」


『焼き穿て(ランス)ッ!』


 お互いの後方から出現する炎の槍。それは空中を高速で駆け、大きな爆発を伴って相殺される。


 爆風が舞い上がり、視界が遮られる。風が吹き付け、黒煙が上がる中、次の攻撃を選択した。


「お次はコイツだ―――ラウンドバレット」


 正面に魔法陣を展開し、十二発の弾丸を発射する。

 黒煙を裂きながら進む弾丸を尻目に周囲を警戒していると―――少し、足元がぐらついた。


「っ、やべぇ」


 バックステップで地面から隆起した炎柱を回避し、煙が晴れた先を見ると、地面に手をついている天宮がいた。


「―――これを避けるのね」


「まあな。今のは―――噴火が元ネタか?」


 足元がぐらついたあの感触。あれは紛れもなく物理に干渉して発生した事象だ。純粋に炎の柱を出すだけならぐらつくことはない。それが発生したということは―――何かしらのモデルをイメージした結果、現実に干渉したという訳になる。


 恐らく原因は溶岩流のイメージ。またはそれに類似したイメージだ。遠距離から柱を立てるのに炎の導線が必要であり、それを地中に流した結果があのぐらつき。少なくとも俺はそう判断する。


 視界が遮られ、矢のように飛ばない遠距離攻撃をするなら中々いい線をいっているだろう。

 俺でさえ視界が遮られているなら魔力で発射位置に導線を引き、そこから《魔導の体現者》を発動させないといけない。彼女の場合は練度の甘さからそこに物理現象が加わっただけだ。


「‥‥‥よくわかったわね」


「そも《獄炎の巫女ヘルフレア》と《魔導の体現者マギカ・ユーザ》の技の発動過程は似ているんだ。俺だって今の技を使おうとしたら似た動作をする」


「―――なるほどね。原理が似ているからこそ理解できたのね。参考になる‥‥‥けど、まだ終わらせないわよ。焼き穿て!」


 ―――また炎の槍。一見すると最初のものとかわりがないように見えるが‥‥‥。


「同じ技を撃ってもまた撃墜してやるよ!ランス!」


 最初の二の舞になるよう、炎の槍を飛ばすが‥‥‥再び衝突した瞬間、俺の槍が消滅する。


「―――っ、《魔導の体現者マギカ・ユーザ》、【テンペスト】‥‥‥シールド!」


 炎の槍が衝突した瞬間、僅かな減衰が見られた。そのことから消滅の原因を火力不足だと断定し、目の前の炎はさっきとはまるで違うのを理解し―――防壁を作成した。


 風で作られた渦巻く防壁。それは炎を巻き取り、停滞させながら火力を抑え込む。

 それを見ながら射線から離脱し、次の攻撃を警戒する。


「―――燃えろ、イグニス」


 目が燦々と輝いている。その目線は俺をしっかりと捉え、一秒も経たないうちに着ていた服が燃え、俺の肉体にその熱と痛みが伝播した。


「グァッ‥‥‥!?」


 ―――随分とふざけたクソ技じゃねぇか‥‥‥対策は‥‥‥検証するしかないな。


「《魔導の体現者マギカ・ユーザ》―――ブレイ、ズ‥‥‥ふぅ―――イグニッションッ!」


 息が切れながらも属性を炎に変換し、肉体を燃やしている焔を自身の焔で上書きする。

 ―――すると、炎は服を燃やすことをやめ、熱と痛みが引いてくる。


 ‥‥‥危なかった。視界に映る体力ゲージは三割ほど削れ、残りが七割。あの短時間でここまで削れるとなると、今のが失敗していたら五割を切っていたかもしれない。そう考えると、これが成功して良かった。


「随分と酷い技を使うもんだ―――その分、しっかりとお返しさせてもらうぜ!」


 ―――本気での多重詠唱。背後に魔法陣を大量に展開して、それぞれからランダムでランス、ブラスト、バレットの三種の魔法を射出する!


「ランス、ブラスト、バレット―――フルキャスト!」


 爆炎が空を駆ける。炎の弾丸が、槍が、爆風が襲い掛かる。

 だが、俺はここでミスをしたことに気付いてしまった。


「―――喰らえ獄炎」


 天宮の手から黒い炎が放出され、彼女の目の前にが張られる。それに着弾した俺の炎が黒に染まり、黒炎は勢いを増してしまった。


 ‥‥‥完全に俺のミスだ。相手が《獄炎の巫女ヘルフレア》―――最強の炎属性の異能であることを忘れていた。忘れていたってよりかは調子に乗ってた。


「‥‥‥そんな程度かしら?」


 クソ‥‥‥煽りがしっかりと刺さってくる。

 正直、ここまで強いとは思わなかった。入学前と比べてあまりにも強くなりすぎている。


 だが―――それでも俺は勝つ。さっきまでは多少の慢心があったが―――それも無くなった。


「まあ、さっきまでは少し舐めてたが―――ここからは俺の時間だ。《魔導の体現者マギカ・ユーザ》―――【グローム】」


 残存魔力は五割を切っている。さっきの無駄打ちが響いているが―――問題はない。


「私を前にして随分と悠長ね―――イグニス!」


 さっきの発火―――!

 だが、それの対策はもう出来ている。


「―――アクセル、並びに【瞬】」


 雷を迸らせ、一歩を踏み込むのと同時に気を爆発。それによって圧倒的な加速を得て、一秒もしないうちに開いていた三十メートルを消失させる。


「速―――」


 対処はさせない。速攻でケリを付ける!


「―――ゼロスラッシュ!」


 両手の刀に雷鳴を走らせ、圧倒的な加速を以てその一撃を直撃させた。

 そして腕を振り抜き、天宮の体を吹き飛ばす。


 ―――天宮の頭上に浮かぶ体力ゲージを確認すると、四割ほど削れている。どうやら、俺の一撃は天宮のイグニスのダメージを超えたようだ。

 ―――腕が少し痛む。無理矢理振り抜いたのが原因だろうか。流石に、何十キロもある人体を何メートルも飛ばす、という行為は俺の肉体にダメージを与えてしまった。


「ぐ‥‥‥迸れ、焔の鞭!」


 飛ばされた直後に体勢を立て直した天宮から放たれた赤色の線。それを視認した瞬間、ジャンプで回避する。


 ―――本来の正解は防御体勢を取りながらバックステップ。こうやって空中に逃げてしまったら普通の人間なら次の攻撃を回避するのが困難になるが‥‥‥こと俺に限ってそれは通用しない。


「それは悪手よ―――穿ち滅ぼせ、焔の槍!」


 最初の何倍もの大きな槍。詠唱の具合から逃げれない相手を確殺するための技だろう。


「悪いがそれは読んでるぜ―――【空】」


 足元に気を集中、そして硬質化させて足場にすることで空中ジャンプを可能にする。


 一歩踏み込み、さらに高く飛び上がって回避する。そしてそのまま二歩目。地面に向かって空を蹴り、急降下。


「―――貰ったッ!」


 体を反転させ、ライダーキック、呼ばれる蹴りを叩き込む。


「―――貰ってないわよ。炎転!」


 足が当たる直前、炎が舞い上がり‥‥‥俺の肉体は天宮の体をすり抜けた。それと同時に猛烈な熱量が襲い掛かる。


「あっちぃ!?」


 自分の体力ゲージが少し削れるのを視認し、地面に着地する。そのまま少し滑り、完全に止まった瞬間、反転しながらステップを踏み、少し間合いを広げる。


 ‥‥‥地獄だ。成程、これは完全にメタられてる。どっから情報が出た‥‥‥?いや、出所は白月か。それに追加して悠斗の師匠、ってのがヒントにもなってんのか‥‥‥?


 ―――炎転、そう言っていた技に似た技を俺は使用している。ちょうどさっき見せたアクセル、あれが類似例だ。アクセルの基本原理は、肉体を雷の属性を持った魔力粒子に変換することで自分の肉体以上のパフォーマンスを発揮する、というものだ。まあ実際は亜音速にもまだ及ばない程度の加速しか出来ないが。

 ただ、ここで重要なのは肉体の変換だ。俺は魔力粒子、という《魔導の体現者マギカ・ユーザ》のエネルギーに質量を持たせた存在に変換させることで、物理法則を超える動きを可能にしている。

 それと同じく、炎転は肉体を完全に炎とし、質量をほとんど持たない現象と同じ存在にしている。よって、俺の蹴りは空振り、肉体は彼女の体を貫通した。


 ―――そして、何で俺が完全にメタられてる、と言ったのか。その答えは単純で、炎転状態を維持されると一切の物理攻撃が効かなくなる。すなわちそれは、遠距離の異能を持ちながらなんやかんや近接戦闘を行う俺のスタイルを知られているからだろう。それにより、俺の近接を完封することが出来る。

 ―――なんて思ったが、もう一つの仮説がある。それは、悠斗に対するメタだ。悠斗の能力は異能の効力を消すことができる。だが、悠斗の今の熟練度では常時発動は不可能であり、《無の支配者ゼロ・ルーラー》を使うとなると力を腕に集中させる必要がある。

 だからこそ、力を集中させていない時に放たれた攻撃を透かせる事ができるようになる。

 初見なら確実に成功する一手だし、初見じゃなくても常に炎転を警戒しないといけないようになり、他がおざなりになってしまうという地味に面倒な技となっている―――なんて推察ができる。で、そうやって生まれた隙があれば一瞬で悠斗の防御を貫通した一撃を叩き込めるし、中々合理的な技だ。


「‥‥‥どうやって攻略するかねぇ」


 対処法は一つ存在する。俺がさっきやったように反応できない超速度で攻撃をすればいい。そうすれば炎転を使わせないようにできるんだろうが‥‥‥まあ、一度やった手だ。警戒されて当然だろう。だからこそ、別の解決策を見つけないといけないわけだが‥‥‥ま、ぼちぼち頑張りますかね。

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