第15話 影の組織「パンドラ」

 ユーステスたちはギルドの出張所に運ばれた。何せ服がないので。


 出張所は一時閉鎖。受付嬢に頼んで服を買ってきてもらった。受付嬢はもう俺たちの無茶ぶりに何も言わない。すみません本当に。


 その間は俺たち「白騎士冒険団」が傍で護衛している。俺たちの喧嘩に水を差されるのが気に食わない。だから近くで彼らを守るつもりなのだ。あの傷の男から。


「終わった……! 俺たち、ジークに殺される……!」


「だから俺は反対したんだろうが! あんな奴らと組むなんてよお!」


「今さら……遅い……です」


 早速「緋色の夜明け団」の連中が仲間割れを始める。何度聞いても名前を覚えられないのでユーステス以外は職業で呼ぶこととする。


「お前ら、あのジークとかいう男のところで何の仕事をしてたんだ?」


「殺し以外は何でもやったさ。他パーティの妨害、素材の横流し、盗掘、脱走したメンバーの捕獲……今じゃ俺らが追われる番だけどな」


「あらあら~。そんな簡単に全部吐いちゃっていいのかしら~?」


 フィーナのちょい上クラスの悪人ってとこか。俺がブレーキかけてるから踏み止まってるけど。あいつも相当だよな。話が逸れた。


 そして治療士ヒーラーが横から口を挟む。カウンターで話を聞いている受付嬢が会話の内容に目を丸くする。


「こいつらを巻き込んでやるんだよ! あの強さならジーク相手でも万が一があるだろ!」


「お前に言われなくてもそのつもりだよ。俺はあいつにムカついてる」


 ジークと呼ばれる傷の男の言葉からやつの素性が割り出せないだろうか? 少なくとも奴は俺たちのことを知っているようだった。俺たちが、実際はフィーナが「金に目がない」と言っていたからだ。


 金か……心当たりは……ありすぎる。フィーナが至る所で金銭トラブルを起こすからだ。あのエルフさあ。


「お前たち、雇い主に心当たりはないのか?」


「ないです……ジークから一方的に仕事内容が伝えられるだけで……」


 魔術士が返事をする。まあそうだろうな。こいつらは末端中の末端だろう。しかし小さな街だがそこのトップパーティを尻尾切りとは、相手はどれほどの組織なのか?


「でも一度だけ、組織の名前を聞いたことがあるのよ~『パンドラ』って言ったかしら~」


 パンドラ? 最後に希望だけが残ったとかいう。あの? なら転移者がこの組織の上層部に関与しているのか? まあいい。今は名前についてごちゃごちゃ考えていてもしょうがない。俺に馬鹿な考えが一つだけある。




「領主様にお目通りしたい! 俺は『白騎士冒険団』のケント! 火急の用件があって来た!」


 領主ルドルフの屋敷に押しかける俺たち。「緋色の夜明け団」の四人は離れて護衛するのが面倒なので直接連れ回す。不本意だがユーステスと戦士の装備は俺たちが金を出して買ってやった。奴らも不本意そうだったが命が賭かっているので仕方なく与えられた装備で身を固めている。


「貴様ら! 何の用だ!」


「ランドタートル討伐の功労者。そして決闘の勝者が何用で? 『白騎士』殿は忙しい方だな」


 門番の兵を下げ、領主ルドルフ自ら出てくる。願ってもないチャンスだ。


「顔に大きな傷のある男、ジーク。あなたはその男を知っていますか?」


「聞いたことのない名前だが、それが?」


「この『緋色の夜明け団』の面々があなたが、犯罪組織の連絡係のジークと関係があるとそう言っているのですよ」


 三人の「緋色の夜明け団」メンバーの顔が蒼白になる。何故か治療士ヒーラーは平然としている。ある意味すごいなこいつ。


「何をおっしゃるかと思えばそんな出まかせを。何か証拠でもお持ちなのですか?」


「組織の名前まで掴んでいると言ってもその態度を貫けますか? 『緋色の夜明け団』を表向き冒険者ギルドで働かせていた影の組織『パンドラ』!」


 最後の「パンドラ!」のところだけ特に強調する。だって名前しか知らないからね。なぜ三人のメンバーの顔色が悪いかというとでたらめで領主を糾弾している最悪の状況だからだ。


 俺たちはこのように、フィーナが大きな金銭トラブルを起こした場所で同じことをぶつけてきた。銀行、装備代をボラれそうになった大きな武器屋、そして最後がこのルドルフだった。ルドルフは何か考え込みながら整えた髭をいじっている。


 普通に考えたら銀行や武器屋が影の組織と繋がっているとは考えにくい。やはりルドルフか。ここでジークでも出てきてくれればいいのだが、そこまで馬鹿ではないだろう。


「お引き取りを。私は狂人の相手をしてられるほど暇ではないのでね」


 ルドルフが屋敷の中に戻っていく。上手くいけば今回来訪したどこかが「組織」にお伺いでも立てて動きを見せてくるだろう。多分。浅知恵だが相手の動きを待つしかない。


「マジかよお前……イカれてんな」


「無理やりにでも『パンドラ』を動かす。怪しいのはルドルフ。一番面倒な相手だ」


「ジークが俺たちを殺しに来るのを待つだけじゃダメだったのか?」


 ユーステスの問いに俺は自分の考えをぶつける。


「ジークも多分汚れ仕事の末端だ。強そうだけどな。こっちが何かに気付いたふりでもして相手の軽挙妄動を促すんだよ」


「まさかお前……」


「この街の『パンドラ』をぶっ潰す。俺の仲間を脅しやがったからな。俺含めダメダメな奴らだけど、大切な仲間なんだ」




 夜間。俺たち二つのパーティが特例的に居座らせてもらっている冒険者ギルドの出張所のドアが激しく叩かれる。


「調査の結果『白騎士冒険団』と『緋色の夜明け団』の二つのパーティに素材の横流しの嫌疑がかかっている! おとなしく引き渡せ!」


 来たな。そんなに「パンドラ」の名前を公にされたことが不都合だったのか?


 ルドルフが直接動いたのか、銀行か武器屋が垂れ込んだのかは知らないが全員張り倒してジークを引きずり出せば済む話だ。仕事でやってる衛兵には悪いけどな。


 ユーステスと戦士が武器を構えるが、それより先に俺の蹴りが扉ごと衛兵を吹き飛ばしていた。


EX狩刃エクスカリバー! 毒は一割でいい!」


「あいよ!」


 EX狩刃エクスカリバーの自動攻撃が俺を取り囲む衛兵たちの槍を次々と破壊していく。丸腰になった兵は俺のパンチか装備越しのEX狩刃エクスカリバーの攻撃の衝撃でダウンする。


 そして空中から飛び掛かる影の一撃をEX狩刃エクスカリバーが防ぐ。攻撃を防がれたその影は俺の鎧を蹴り飛ばすと後方に飛び退く。この身軽さ、決闘の後俺たちを脅迫した傷の男だ。


「ったくよお。この鎧野郎をナイフなんかでどう殺せってんだ」


 だがEX狩刃エクスカリバーの一撃を受けきったナイフだ。通常のナイフではない。油断大敵だ。


 突進するジークは上着を脱ぎ捨て俺に投げ付ける。視界を奪われるがEX狩刃エクスカリバーがナイフの軌道を読んで対応した。はずだった。俺の頬を焼くような感覚が襲う。兜を貫通した?


「なんちゃってな」


 ジークはナイフに結び付けられた鉄線を引き戻す動作をする。奴は突進を止め、俺に直接斬りかからずに上着に隠れてナイフを投擲したらしい。


「随分ご立派な鎧だが、俺の『鎧貫き』メイルブレイカー相手に生き延びられるかな?」

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