第14話 霊剣使い対霊剣使い

「うわあーすっげえ見られてる」


「大丈夫ですか? 緊張でお腹痛くなったりしないですか」


 昔ならダメだったかもしれない。


「『健康体』舐めんなよ」


 ガレセアの街の中心部にある広場。そこに多数の市民が押しかけていた。階段状になった段差に人々が座り込んでいるのが広場の中心地からでも見えた。


 目当ては俺たち「白騎士冒険団」と「緋色の夜明け団」によるBランクパーティ同士の決闘だろう。


 Bランクまで上がってわかったことだが、ランドタートルを除くと高ランクの討伐対象の出没しないガレセアではBランクパーティが実質的なトップとなる。


 だからフィーナ曰く「緋色の夜明け団」のような、街で唯一のBランクパーティであれば依頼を独占することもできたらしい。


 俺たち「白騎士冒険団」が台頭してくるまでは。


 つまり奴らとしては俺たちを完膚なきまでにボコボコにすることは面子の意味でも稼ぎの意味でも重要だということだ。


 前方には「緋色の夜明け団」の四名。剣士のユーステス、戦士、魔術士、治療士ヒーラーの編成。攻撃的な編成……なのだろうか? こちらは剣士の俺ともう何士かわからない支援職、何が出来るか未知数のシスターの三名。バランスとか以前の問題なので比較対象にならん。


「やっちまえー! ユーステスー!」


「白騎士様ー!」


 意外と俺にも声援があるのが嬉しい。だが完全に見世物にされているのはどうなんだ。出店まで出ている始末。


「それでは冒険者パーティ『白騎士冒険団』と『緋色の夜明け団』による決闘を執り行います。死者が出た場合は相手チームのパーティ解散とメンバーの除名。二年間の冒険者ギルド再登録禁止を命じます」


 受付嬢が魔術で音量を大きくして双方に説明する。多忙だなあこの人。


 今までCランクやDランク程度の小競り合いがあったはあったらしいが、Bランク以上の決闘というものは珍しいそうだ。まあ基本的に得る物ないし。


「よく怖気づかずに来れたものだ。褒めてやるよ」


 ユーステスが霊剣フルンティングに手をかけにやついている。


「まあ殺しはしねえからよ! 安心して全市民に恥でも晒していけや!」


「ユーステス様の敵……撃つ」


「あらあら~」


 ユーステス以外誰が誰だかわからねえから。それにいっぺんにしゃべるな。


「お前たち四人の相手を引き受けることになった。ケントだ。よろしくは……したくないね」


「何だと? 他の二人はどうした?」


「『白騎士冒険団』という名は世を忍ぶ仮の姿。俺は構成員三人の中で最弱。だが、お前ら程度なら俺一人で十分ということになった」


 でたらめもでたらめだ。でもなんか相手がムカつくと思って言ってみた。


「ふざけたことを……! 貴様を倒して上位の二人を引きずり出してやるよ!」


 信じた! おバカ~。




「両陣営、構え」


「フルンティング!」


EX狩刃!エクスカリバー


 双方「刃名」を唱え、ユーステスの脇にはゴリマッチョ。俺の脇にはビキニアーマーのチャンネーが立つ。


「始め!」


 フルンティングと八割自動のEX狩刃エクスカリバーがぶつかり合う。鍔迫り合いと言うには短すぎる時間で腐食しへし折れるフルンティング。毒全開だからね。


 これでも刀身を残してやってる分手加減している方だ。EX狩刃エクスカリバーに同族殺しをさせるのも気が進まないし。折れた霊剣ならドワーフであれば直せるとか。


 そしてユーステスは状況を理解できずに反応が遅れる。口半開きにしてやんの。


 そして俺はユーステスの鎧の胴にEX狩刃エクスカリバーを叩き込む。あっという間に鎧が腐食し崩れていく。そしてEX狩刃エクスカリバーの指示の通りに腹に一発パンチ。嘔吐しユーステスが倒れる。


 その様子を見ながら飛びかかってきた戦士の斧も切断。同じく鎧を破壊する。こちらは軽装なのでEX狩刃エクスカリバーの直撃で倒れる。


 俺がEX狩刃エクスカリバーの制御の二割を引き受けているのは毒の手加減のためだ。Bクラスにもなると普段着にも何を仕込んでいるかわからないので、服まで腐食させる。


 ここまでだ。EX狩刃エクスカリバーが片手間で魔術士の火球を弾き飛ばしている間に俺は毒の侵攻を止めた。広場には真っ裸の男二人が倒れている状況。


 俺が夜な夜なEX狩刃エクスカリバーと修行をしていたのは毒の制御方法だったのだ。会場は悲鳴と爆笑で大盛り上がりだ。


「来るな……来るな……」


「あらあら~」


 残るは魔術士と治療士ヒーラー。俺は魔術士の放つ火球を弾き飛ばしながら一歩ずつ近づく。可能な限り不気味な笑みを浮かべて。


「降伏を推奨するよ。あの二人みたいになりたくなかったらね」


「しなかったら……」


 魔術士の方が聞き返してくる。答えは一つ。真実もいつも一つ。


「脱がす」


 別に「やれ」とかいっていないのに残る二人は土下座をして降伏。完勝。




「あんなやり方があるんですね……ケントってもう少しお行儀のいい方だと思っていました」


「これからは夜道に気を付けないと……! 死んでしまいます……!」


「いやあハハハ。あんな負け方をしてこの街にいられるかどうか見ものですな」


 シーツをかけられ治療されるユーステスと戦士を見て俺は今世紀最大の笑顔で言う。


 すると突然背後に何かが現れる。鎧の感知機能が作動するよりも早く。


「お前さんが強いことはよーくわかったとも。あの連中が使い物にならねえってこともな。だがお前さんよ、その嬢ちゃんたちと仲良しこよしでやっていきたいならあんまりこの街で調子に乗らない方がいいぜ? 死体とは冒険できないからなあ」


 急いで振り向くと顔に大きな切り傷のある黒いローブの男が俺を見て笑っている。


 多分本気で戦って勝てない相手ではない気がする。


 だがフィーナやモニカを害することを示唆するその男には、きっとそういった手段があるのだと確信させる。


「何が望みだ……!」


 遅れてフィーナたちが驚きながらこちらを見る。


「別に何かしろとかそういう話じゃないさ。だが、俺たちのところで働きたいってなら歓迎するぜ。これから死ぬ連中の代わりにな」


 こいつ、フィーナの言っていた「緋色の夜明け団」のバックにいるとかいう組織のメンバーだ……! 本当にいたのか!?


 あの言い分。ユーステスたちは、あいつらは用済みってことか? 元は俺たちの意地のぶつかり合いの喧嘩みたいなもんだ。命がかかるような話じゃない!


「ユーステスたちは?」


「始末する。使えないし、知り過ぎた」


「じゃあ、させないっていったら?」


 傷の男は引きつった笑みを浮かべながらわざとらしく怖がるジェスチャーをする。


「それはご勘弁願いたいが……お前たちも消すことになるなあ?」


「やってみろ! バーカ! アーホ! ドジ! 半グレ!」


 突然フィーナが傷の男を怒鳴りつけた。慌ててフィーナの前に立って彼女を守る。モニカは既に遠くにいた。


「そうかい。金に目がねえって聞いたからこっち側で働く線もあると思ってたが、残念だね」


EX狩刃!エクスカリバー


 抜刀し傷の男に斬りかかるが、「刃命」を叫ぶ段階で避けられる。男は凄まじい跳躍力で建造物の上に立っていた。


「お前さんらとあいつら。どっちが先に死ぬかなあ? ええ?」


 屋根を飛び移り消える傷の男。


 勝利の美酒は、苦かった。

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