第5話 毒沼への帰還

【麻痺】パラライズ!」


【麻痺】パラライズ!」


【麻痺】パラライズ!」


 フィーナが衛兵の三人に次々と指を向けて叫ぶと武器庫に侵入してきた衛兵たちはみな昏倒した。EX狩刃エクスカリバーでどう敵を制圧するか必死で考えていた自分がアホらしくなる。


「伊達に五十年も鎧探索なんかやってないって話ですよ」


「本当に? 五十年真面目にやってた?」


「……」


 でも命を奪わず、奪われずに済んだのはいいことだと考え直す。


「なんだ。久々に人が斬れると思ってりゃあ、残念だね」


 手元の剣から声がする。こいつ本当に元聖剣か? 魔剣じゃないのか?


 だが倒れてる衛兵たちの呼んだ増援が続々と集まりつつある。どうする?


EX狩刃エクスカリバー! 敵を殺さずに倒す方法はないのか!」


「ハア~……よりによってそんなことを剣に聞くのかい? 人殺しのために作られたのが剣ってもんだろう?」


「あるのかないのか!?」


 観念したかのようなため息の後、再び剣から声がする。


「あたしを持って『無力化形態』って言ってみな。そういやあ前の持ち主もこればっかり使ってたヘタレだったよ」


「『無力化形態』!」


 するとEX狩刃エクスカリバーの鞘で発光していた「待機状態」の青い文字が「無力化形態」という緑色の文字に変化する。


 増援が武器庫に突入してくる。突き出された槍の穂先をEX狩刃エクスカリバーが自動的に根元から切断する。その瞬間腕を通して声が響く。


「ホラ右前蹴り!」


 慌てて目の前の衛兵を蹴り飛ばすとバランスを崩した敵は後ろの一人を巻き込みながら倒れる。自分の蹴りの威力に驚く。きっと鎧で強化された力だ。


「これって俺も戦わないといけないの!?」


「ったりまえだろ! 剣だけに任すとみんな斬っちまうのが問題とか言って追加された機能だろう? 腹括んな!」


 EX狩刃エクスカリバーが敵の剣を弾き飛ばしたところに俺の左拳。鎧パワーで押し切る。


 EX狩刃エクスカリバーが敵の斧を叩き折ったところに俺の足払い。鎧パワーで押し切る。


 EX狩刃エクスカリバーが敵の三節棍をバラバラにしたところに俺の頭突き。鎧パワーで押し切る。


 三節棍? いくら武器マニアの家だからっていっても限度があるだろ。


 増援を蹴散らしたところで俺はフィーナの手を取り逃げる。フィーナは金貨の詰まった革袋と柄に宝石の入った短剣を手に取り逃げる。コラ盗むな。


「意外とやりますね……『エルフの生ける伝説』とまで呼ばれた私の出る幕がないとは……」


「どうせろくでもない意味だろ」


 パスカルの家を脱出すると、短剣を掲げたフィーナが唱える。


【転移門】ワープホール!」


 そこへ黒い渦のようなもやが現れる。


「飛び込んで!」


 フィーナの指示の下、俺は黒い何かに飛び込む。初めてこの世界に来た時のように浮遊感が全身を支配し、視界が回る。




 俺は気が付くとどこか見覚えのある場所にいた。


 なんのことはない。フィーナと初めて出会った場所だ。


「あの剣に込められた魔力を使って転移しました。なるべく消耗は抑えたいですからね。すぐに追手が来ます。行きましょう! 遠いですがエルフの里にでも逃げ込めれば鎧も外せるし、悪いようにはしませんよ!」


「里に直接転移はできないのか!?」


「ちょっと遠くて……」


 EX狩刃エクスカリバーが腕を通じて「話にならん」と脳裏に語りかけてくる。


 エルフの里がどれほど遠いのかはわからないが、この外せない目立つ装備で逃げ切る自信はなかった。下手をすればEX狩刃エクスカリバーによって罪を重ねる可能性だってあり得る。


「こっちだ!」


 フィーナの手を引いて毒沼の方向へ走る。逃げるならここしかない。


「ええー! 死ねと!? 私に死ねと言うんですね!?」


 あることを思い出しながら俺は言い返す。かつて剣の鞘をペタペタと触っていたフィーナのことを。


「違う! 前にEX狩刃エクスカリバーを触った時、フィーナはあの領主みたいに死ななかっただろ!? 多分俺に触れていれば同じような『毒耐性』……いや『毒無効』レベルのスキルが共有できるんだと思う!」


「確かに触りましたけど……あれ下手したら全身から泡吹いて死んでたんですね……」


 フィーナは半信半疑ながらも手を握り返してくる。


「突っ込むぞ!」


「絶対離さないように……手を【束縛】バインド!」


 ザブザブと毒沼に突入する俺たち。即死級の毒沼と聞いていたが、フィーナに異常はないようだ。


「これならどうだ? フィーナに何か新しい考えはないか?」


「うーん。そうですね。ここなら追っ手の心配もないですし、いっそ毒沼を突っ切ってガレセア方面へ向かいましょう。着くころには指名手配犯になってそうですが……トホホ……」


 異世界転移したら毒沼に落とされて外れない鎧に指名手配? もう全てを投げ出して帰りたい。


「そういえば、さっきはなんで毒沼前にワープしたんだ?」


「そもそもあそこが私と縁が深く、転移できるギリギリの場所でしたからね」


 へえ。そのおかげで助かったのかと関心する俺。


「うん? 毒沼と縁が深い? なんで?」


「だって冒険者ギルドに依頼を出すと毒沼関連のものは高額な依頼料をブン取られますからね。自前で冒険者を用意して送り込んだ方がいいんですよ。色々と」


 つまりは冒険者を釣るために定期的に足を運ぶ以上ワープポイントをあの場所に設定するのが都合がよかったということか。なんてやつだ。


「だから『妖怪毒沼送り』とか呼ばれるんじゃないのか?」


「妖怪は付いてないから!」


 話ながらも毒ガエルを見つけたのですかさず捕まえる。俺は生のまま齧り始めた。


 さっきようやくまともな食事にありつけたのになあ……不味い。


「それって私も食べなきゃな感じですか……?」


「エルフに食欲がなければ食わなくていいんじゃないか? 一応『健康体』スキルが共有されてるなら腹は壊さないぞ」


「オエー!」




「意外と食べれる味かもしれませんね。幼い頃に食べる魔力増強の実と比べたら味だけならあまり変わりません」


「マジかよ……」


 フィーナの環境適応ぶりには驚かされる。


 彼女は積極的に毒ガエル狩りに貢献するだけでなく、魔術で焼きガエルを考案する始末。


 手を繋ぎ二人でカエルを食べながら色々とこの世界について教えてもらった。


 転移者はこの世界の文化に大きな影響を与えてきたとか。ドワーフの作る武器には転移者から習った字がよく使われるとか。転移者が要職に就く国もあるとかいう話だ。


 だが、転移者が元の世界に帰ったという話は聞いたことがないらしい。


 大体、ほとんど、九割このエルフが悪いのだけど、無防備にEX狩刃エクスカリバーをパスカルに渡したのは俺だ。俺にもほんの少しだけ責任がある。いや、俺に責任があるということにしよう!


 元の世界に帰る方法を考えるのはこの問題を解決してからでもいい。とりあえず俺はフィーナを助けることに決めた。

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