第12話

 アリシアはドレスをひっかけないように工夫してしゃがみ、彼と視線を合わせた。


(………女は度胸なの)


 ぐっと口を噛み締めてから、アリシアはそのくちびるから言葉を紡ぐ。


「死んでも知らないの」

「あぁ」

「怪我をしても知らないの」

「分かってる」

「不運になっても知らないの」

「もうなってる」

「………シア以外を愛することは許さないの」

「あぁー、………アリシアとの子供は除外で」

「っ!!

 ………………もう、離してあげないの、逃がしてあげないの」

「あぁ。逃がさないでくれ」


 心底嬉しそうに笑ったヨハンは、彼女を掬い上げるようにして膝裏から縦に抱き上げる。


「!?」


 ふわっとした浮遊感にいきなり襲われたアリシアは、無表情のまま目を白黒させる。そんなアリシアにくすっと笑ったヨハンは、抱っこしたことで自分よりも頭ひとつ分高い身長になったアリシアに涙に濡れた瞳で無邪気に笑いかけた。


「不幸なの」

「知ってる」


 即答すると、アリシアは不服そうに頬を膨らませる。


「でも、ーーー誰よりも幸運なの」


 幸せそうに、花が綻ぶように、まだ1度しか見たことなかった彼女の笑みを向けられ、ヨハンはなおのこと破顔する。


「僕は誰よりも幸福で、そして不運だよ」


 そう言ったヨハンは、アリシアのくちびるに自分のそれを合わせる。


 ーーー病める時も、健やかなる時も、死が2人を別つまで。

    アリシアとヨハンは不幸と幸福を、幸運と不運を分け合った………ーーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る