第6話 アス(1)

 さてと、一度ログアウトしたいけど、その前にいくつか確認しないとな。

 ノルン。俺がログアウトしてる間、この身体はどうなるの?

 そして次にログインしたとき、どこから開始されるのか教えてくれ。


『ログインしたときは、【拠点】に設定した場所から始まるわ。ログアウトしてる間は、テンマの身体はゲームの世界から消える。だから、ログアウトしてる間に殺されることはないから安心して』


 【リアル】でも、その辺りはまともな仕様で助かった。

 その【拠点】っていうのは、どこにでも設定できるのか?


『【拠点】は宿屋やクランハウス、ダンジョンの中にあるセーフティーエリアを設定できるわ。宿屋は部屋を借りている間しか設定できないから注意して。【拠点】の設定がない状態でログアウトすると、次のログインはこの街の噴水がある公園からになるわ。噴水付きの公園は、このアヴァロンに3箇所あるの。どの公園になるかはランダムよ』


 どおりで噴水前に沢山の人がいるわけだ。

 みんな拠点無しでログインしたプレイヤー達か。

 どれ、【高速鑑定】を使ってみるか。

 ん? 名前が表示される人とされない人がいるぞ。

 ノルンが壊れたか?


『失礼ね。私が壊れるわけないじゃない! プレイヤーの情報は今のスキルでは見られないわよ。表示されたのはNPCね』


 なるほど、名前が表示されればNPC。表示されなければプレイヤーってことね。


 あっ、ノルンに教えてほしいことがあったんだ。

 プレイヤー同士で連絡したい場合って、どうすればいいのかな?

 友達と一緒にこのゲームやる約束しているんだ。


『スマホを使えばいいのよ。テンマはスマホ持ってるんでしょ? スマホに【アカシックワールド】のアプリをインストールするの。そこでスマホ連携の設定すれば、ゲーム内でもスマホで通話できるようになるわ』


 それはすごい便利!

 ゲーム中でもスマホにかかってきた電話に出られるってことだよな。


 よし! とりあえずログアウトするぞ。


 ◇


 ――俺は目を覚ますとヘッドギアを外した。


 【アカシックワールド】から無事にログアウトできたようだ。

 周りを見渡すと、いつもの俺の部屋だった。


 初めてのフルダイブ式のゲームだったこともあり、気持ちが現実社会を受け入れるのに少し時間がかかる。

 今は何時だ?


『20時よ』


「ぬわぁぁぁぁぁ!」


 今、ノルンの声が聞こえなかったか?

 フルダイブ式VRの弊害じゃないよな?


 トントントントン……

 ん? 誰かが階段を上がってくる。

 そして、部屋のドアが勢いよく開いた。


「兄貴。やっと戻ってきたのか。んで、どうだった?」


「——今チュートリアル終わってログアウトしたところだ」


 こいつは弟の八神やがみ あきら

 俺の1歳下の高校1年生だ。俺とは違い、県内でも有名な進学校に通う。

 大雑把な性格だが、底抜けに明るくスポーツ万能。勉強もできて、男の俺から見てもカッコイイ。当然、女にモテる。


 明は高校受験に合格したときから、【アカシックワールド】をやり始めている。

 たから、ゲームの中では4ヶ月ぐらい先輩だ。

 俺はその頃、まだ【絶剣乱舞】という格ゲーに人生を捧げていた。

 そんな俺も絶剣乱舞のサービスが終了してしまったので、アカシックワールドに移ってきたというわけだ。


「なんだろ……現実世界なのに目線やら身体の感覚やら、多少の違和感があるんだ」


「最初のうちは違和感ぐらいでるさ。そのうち慣れるよ。まあ、兄貴はすぐに攻略組ランカーになりそうだけどな。凄い稼げるらしいから、俺のためにも頑張ってもらわないと!」


「バカ。ゲームは金のためにやるんじゃないんだよ。自己満足のためにやるもんだ」


「そういえば、ミドリさんも【アカシックワールド】を始めるんだよね? 俺があれだけ誘ってもやらなかったくせに……」


 如月きさらぎ みどりは俺と同じ高校の同級生で、幼馴染みだ。

 親同士も仲が良かったこともあり、昔からみんなでよく遊んでいた。


「どうしてそれを知ってるんだ? 今日から一緒に始めることになってるぞ。俺と同じタイミングから始めた方が面白そうだとか言ってたな」


「兄貴。ミドリさんと同じクランになるとか……約束してるか? してないなら、俺のいるクランに誘ってもいいかな?」


 明は昔からミドリに惚れている。

 学校ではモテモテなのに、未だに彼女がいない勿体ないヤツなのだ。


「当たり前だろ。本人の意思が最優先だ。ゲームは誰かに言われてやるもんじゃないからな! ただ、アオイもミドリを狙っていたハズだぞ」


「げぇ! あの変人もミドリさんを……それだけは絶対に防がないと。今日、ミドリさんと会うんだよな? 俺も一緒に行かせてくれ! 頼む兄貴!」


 俺が了承すると、「よっしゃー!」と叫びながら部屋から出て行った。

 もしかして、アオイも来るのかな?

 アオイはミドリの1歳年下の妹。明と同学年だ。

 ……そして俺の知りうる限り一番の変人だ。


 とりあえず、トイレに行ってくるか。

 俺は身体を起こしてベッドから出て鏡の前に立つ。

 そこには……ん? おまえ誰だ?


 いつも見慣れた自分とは違う男が立っていた。


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