第4話 初級試練 ヌイの祠(2)

『もういいわよ。あんたがゲーム慣れしてるのはわかったわ。わたしのことは気にしないで、さっさと進めちゃって』


 ……ふてくされたか?

 まあいい、俺はゲームを進めることにした。

 俺はステータスと念じて、メールボックスを開く。

 アイテムボックスと同じく、頭の中にメールの一覧が表示された。


・【初級試練 初回クリアボーナス】(New)

・【ログインボーナス(リアル)】(New)


 2通のメールが届いていた。

 扉は5分したら閉まるとか言ってたな。

 時間がないから、【初級試練 初回クリアボーナス】だけ見ることにした。


————

 【初級試練 初回クリアボーナス】

 初回クリア報酬です。詳しくはナビーに聞いてね。


 添付:【ヌイの寄生種】

————


 シンプルなメールだ。ナビーに丸投げだな。

 俺が【ヌイの寄生種】と書かれた文字をタップすると、黄色い種が手の上に現れた。

 ノルン。これどうすればいいんだ?


『手に持って使うと意識してみなさい』


 言われたとおり、種を意識して使うと念じた。

 なんにも起きな——ぐっ、ぐっぉぉぉぉぉおおお!

 はぁ、はぁ、くは……ヤバい、呼吸が出来ない。

 目が回っているのか。地面が揺らいで立っていられない。なんだこれ。


 俺は崩れるように地面に倒れた。

 マズい……意識を……失い……そうだ……

 

『テンマ! テンマ! しっかりして! ゆっくり呼吸をするのよ。もう大丈夫なはず。魂への寄生は無事に終わったわ』


 ノ……ノルンか……

 俺は朦朧もうろうとする意識の中、ゆっくり呼吸をした。

 スー……ハー…スーハー。なんとか落ち着いてきたけど、まだ立てなそうだ。

 ノルン。一体何があったんだ?


『寄生種がテンマの魂に根を張ったのよ。魂がびっくりしたのね。けど、ちゃんと寄生したようだから、もう大丈夫よ』


 ……何だよ、魂に寄生したって。完全にアウトだろ。

 マジでこのゲームやめたくなってきたんだが。


『テンマ。何を言ってるの! これから強キャラになれるのよ! さあ、さっきドロップした【ヌイの魂】を使うのよ』


 また、苦しくなったりしないんだろうな……

 俺はノルンを信じて、ヌイの魂を使った。

 おっ、なんだこの感覚は。

 俺の魂に寄生した根が、ヌイの魂を吸収し成長したのがわかった。


『上手くいったようね。それじゃ、自分のステータスを見てみて』


 自分のステータスが見たいと念じた。

 そして……俺は自分の能力値を見て愕然とした。


————

【名前】テンマ

【レベル】1

【HP】※リアルの為ありません。

【MP】※リアルの為ありません。

【魂印】

 ブランク:運命、宿命、必然

【スキル】

 ノルン

  ├ 高速鑑定(小)

  ├ ノルンの魔眼

  └ スペル無効

 ヌイの苗木

  └ 身体能力向上(小)

【装備】布の服、村人の靴

————


 ノルン! 大変だ。俺の能力値を見てくれ。


『そんなに慌ててどうしたのよ。どれどれ……4つもスキルを覚えてる!? 凄いじゃない!』


 そんなところはどうでもいいんだ。

 HPのところを見てくれ。バグってる!


『HPって……なあっ!? ごほっ、ぐふっ、んん……ちょっと喉の調子がおかしいわ。べ、別に何もおかしくないわ。みんなそんなもんよ。気にしないでゲームを進めましょ』


 そんだけ動揺して普通なわけあるかい!

 俺ってHPないのか!?

 【魂印】って、選んだアカシックマークのことだよな。

 スキルのところに、寄生種と並んでノルンがいるのは何でだ?


『う、うそ……。わたしが寄生種扱いされてる!』


 本人も知らなかったんかい!

 けど、この【ノルンの魔眼】って強そうだな。

 まさかの魔眼持ちになるとは。

 どれどれ、詳細を見てみるか。


————

【ノルンの魔眼】

 ノルンのことです。

————


 意味がわからない。

 この魔眼って役に立つのか?


『な、なんてこと言ってるのよ! テンマは気づいてないけど、わたしのこの可愛らしい声はテンマにしか聞こえないの。ステータスパネルを念じるだけで操作できるのも、この魔眼のおかげなんだから。たぶんだけど……』


 普通のナビーにはできない、ノルンだけができることってあるのか?


『ないに決まってるじゃない! そんなナビーがいたらズルいでしょ。あっ、私が寄生種と同じ扱いになってるから、すごいスキルが使えるようになるはずよ!』


 どうしてだろう。なんか不安なんだが……


 ……あっ! そういえば扉はどうなった?

 5分したら閉まるんじゃなかったか?

 急いで扉の外に出ようとしたが、扉は閉まっていた。

 くそっ、遅かったか。 


 俺の目の前にメッセージが表示される。


『【初級試練 ヌイの祠 1/5】』


 そして、部屋の中央にスライムが現れた。


 これって……もしかして周回できるのか!

 また【ヌイの魂】がドロップするとか!?

 よしっ! テンション上がってきたぞ。

 もう倒し方がわかっているからな。


 前回の戦闘と比べて、今回は【身体能力向上(小)】のスキルを得ている。

 はっきり言って負ける要素がない。

 俺はアイテムボックスから石を取り出し、速攻で倒した。

 今回も【ヌイの魂】が1つドロップした。


『さあ。早くこの祠を出ましょう。また扉が閉じてしまうわよ』


 ちょっと待ってくれ。

 この祠は、後日また来ることはできるのか?


『どうかしら? わからないわ。ただ、これはチュートリアルのイベントだから、もしかするともう来られないかもね』


 この【ヌイの魂】って凄かったりする?


『【寄生種】を育てるには【魂】が必要なのよ。どんな魂を与えても寄生種は成長するわ。けど種と魂に相性があって成長率が異なるの。種と魂が同じ名前なら、間違いなく相性はいいわね』


 そういうことなら、やることは決まっている。

 俺は初級試練を周回することにした。


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