第3話

 笠井かさい つぼみさん(我が校が誇る美少女)に放課後、謎の暗示を掛けられそうになった翌日の朝。


 私は寝不足で目の下に隈を作りながらも、欠伸を噛み殺して教室に入った。


「お、おお、おはよー………」


『………………』


「……………」


「おはよ、桃花ちゃん」


「えっ!?」


『!?!?!?』


 私が昨日、あれから帰った後も全然眠ることが出来なかった原因の人が、後ろから挨拶を返してきた。


 あれ?それにしても、なんだか今日の笠井さんはいつもよりも登校時間が早い気がする。

 眠れなかった私が今日いつもよりも早く来たんだから、その私と同じくらいってことは、今日の笠井さんだいぶ早い。


「お、おはよう。笠井さん」


「…………うん、おはよう」


「???」


 挨拶を返すと、笠井さんは私の顔を不安げに見つめてきた。

 不安げと言うより、どこか不満げ?

 笠井さんは諦めたように、そして悲しそうな表情をすると再度私に挨拶して、私の横を通り自席に向かった。


 すれ違った時に、


「まだ、洗脳できてないのかな」


 なんて、ボソボソと言ってたような気がした。

 洗脳?もしかして、昨日のやつかな??

 笠井さんが私を洗脳しようとしてる?それも、「私が笠井さんを好きになる」っていう洗脳を???

 いや、ありえない。


 笠井さんがそんな洗脳だなんてものを本気で信じてるとは思わないけど。

 もしも本気で信じて、それで私を洗脳しようとしてたとしても、どうせ私が笠井さんを好きになった途端に捨てるか、パシリにするに決まってる。


 笠井さんはそんなことする人じゃないと信じたいけど、あそこまで美少女だとかってチヤホヤされてたら、傲慢にもなりそうだし。


 うーーん。

 と首を捻る。

 とりあえず、私も自分の席に着いて朝のショートホームルームを待つことにした。


 この時、私は気づいていなかった。

 いつもは私の隣の席に来てからこっそりと挨拶をしてくれる笠井さんだから、みんなも笠井さんが私に挨拶をしてくれていることを知らなかったけど。

 今日の笠井さんは堂々とみんなの前で私に挨拶をした。


 クラスメイトの子たちが、そんな美少女の笠井さんに一人だけ挨拶を交わすことを許された私を、良く思わないということに、気づいてなかったのだ。



 ◇ ◇ ◇



 放課後になって、今日も誰もいなくなった教室で伸びをして、それから机の上で小説を開く。

 一応、昨日は16時ぐらいに笠井さんが入室してきたから、16時30分までは粘って起きたまま読書をしていた。


 けれど、笠井さんは現れなかった。


 なんの安心かは定かじゃないけど、とにかくほっとした私は、本を閉じて机に突っ伏し眠ることにした。



 微睡みの世界で、私はフワフワと宙を舞っていた。

 これが夢だということは、理解した。

 夢なんて見るの、何時ぶりだろう。


 たくさんのお菓子や可愛い服、そして100人の友達が私を取り囲み、とても楽しい夢だった。

 けれど、突然と私の周りにあったものたちが姿を消す。


 私は首をコテンと傾げて、不思議に思っていると。


「桃花ちゃん、桃花ちゃん」


 私の夢の中に、なんと笠井さんがいた。

 ニコニコと彼女は笑って、私に「こっちにおいで」と手招きする。


「笠井さん、どうしてここにいるの?」


 夢の中だからか、吃ることも無くスラスラ言葉が出てくる。

 笠井さんは私の疑問の意味が分からないといった顔した。


「何を言ってるの?桃花ちゃん」


「え?」


「桃花ちゃんは、私のカノジョで。私は、桃花ちゃんのカノジョなんだから。一緒にいるのはでしょ??」


 あれ?そうだっけ??

 ………あー、思い出してきた。

 そうだった。

 私は笠井さんと晴れてお付き合いをすることになったんだ。


 女の子同士だけど、別に今の世の中、疎まれることも無いしおかしくもないよね。


「さ、手を繋ご?」


 笠井さんはそう言って手を私に差し出してきた。


「うん、わかった」


 私はその手を握った。


 だって、私は笠井さんのカノジョだもん。

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