第50話 深層モンスターズ!

 血気盛んに押し寄せてくるモンスターたち。


 こちらもすでに体勢は万全。


 だが、中層とはわけが違う。迎え撃とうにも情報不足。


「さて、どうしようか」


 先ほどの様子からしてみんなはやる気。

 俺も剣を構え、敵の数を数える。

 目視できるだけでもざっと百は超えてそうだ。


 連携が取れていないから、モンスター同士がすでにお互いに攻撃をぶつけ、モンスター同士で戦闘が始まっている。そのおかげで、俺たちだけを狙っている様子ではないが、それでもほとんどは俺たちに向けて攻撃が飛んできている。


 こわばる俺の肩に、ぽんっと手が乗せられた。


「大丈夫だよしょうちゃん。明かりだけつけて、まあ見ててよ」


 足止めの炎があった時が嘘のように、迫りくるモンスターたちを前にして、えりちゃんは悠々と前に出た。


 えりちゃんの言葉通り、俺は広場全体を照らすように明かりを放つ。


「これでOK?」


「OK!」


 誰より早く飛び出たえりちゃん。


「ふっふーん。さっきは倒してもらっちゃったからね。ここはわたしが魅せてあげないと。わたしは一度見てれば使えるんだから『さっきの炎』!」


 名前がクッソダサいが、えりちゃんの手から吹き出る炎は、先ほどの炎とまったく同じ見た目の炎。

 それだけでなく、同じだけの威力があるらしく、当たるだけで深層のモンスターたちが消し炭に変えられていった。


 だが、さすがに量が多いようで、えりちゃんの周囲一体が消し炭に変わる中で、えりちゃんを避けるように接近してくるモンスターたちがいる。


「向かってきてる」


「なに、心配はいらないさ。伊井野くんと同じようにはいかないが、ワタシだって別の形で再現ができる。『極寒の風』『叫びの炎』」


 一度、真冬のような風が吹いたかと思うと、一気に熱風が通り抜け、モンスターたちの体を溶かしていった。


 再現というだけあり、炎の形状が似ていたように見える。そのうえ、またしても詠唱なしの魔法。それらは、深層のモンスターたちを一撃で屠るほどの威力があった。


 やはり、関先輩も恐ろしいほどの実力者。


「キェ、ケエエエエエ」


「さっきのね」


 だが、ここまでの攻撃を、高く飛び上がったことでかわしていたらしいモンスターがいた。


 鳥人間とでも言うべきモンスターが、空中から腕を交差させて落ちてくる。


 今度こそ狙いが定まっている。


 そして、近づいてくる体を見ると、巨大化能力でも発動したのか遠近感が狂うほどデカくなっている。


「俺のウェインドじゃあれは飛ばせないか」


「倒せばいいのよ」


 その瞬間、千島さんのヤリがいくつもにブレて見えた。


 いや、なぜかはわからないが、目をこすっても、ヤリがいくつも重なって見える。


「それは……」


「これが、あたしの強化なのかしらね。『グングニル』!」


 だが、投擲されたヤリは、鳥人間に当たる前に消えた。すると、鳥人間の内側から無数のヤリが飛び出してきた。


「ケェ……?」


 なにが起きたのかわからない様子でかすかな声だけ漏らすと、これまでのモンスター同様、トリ人間はアイテムへと姿を変えた。


 怒涛の攻撃、気づくと敵の反応が近くから消えていた。


「す、すごい……」


 これが、実力者たちの本気。


 全力を出させないなんて言ったが、実際に見てしまえば止めることなんてできない。こんな戦いが間近で見られるなんて、とんでもないご褒美だ。


 興奮で体が震えている。なんだこれ、初めての感覚だ。すごいしか頭に思い浮かばない。


「いえーい!」


:うおおおおお!

:すげええええ!

:やべええええ!


「って、しょうちゃん!? どうしたの? すごい震えてるけど? さっきのゆいちゃんので冷えちゃったの?」


「おやおや、ワタシのせいだと言いたいのかい?」


「まあまあ、二人とも喧嘩はよして」


「そうです。大丈夫です」


「本当?」


「うん。大丈夫。冷えたんじゃないから。単純にえりちゃんたちの力を見ることができて、感動しちゃっただけ」


 パチパチとまばたきを繰り返すえりちゃん。そして、関先輩たちと顔を見合わせ、それから、また俺のことを見てきた。


 俺も思わずパチパチとまばたきみんなのことを見てしまう。


「またまたぁ! 謙遜しすぎだよ。しょうちゃんの強化があって初めて深層のモンスターと渡り合えてるんだから」


「そうだとも。ここまで大技を連発できるのは、確実にしょうちゃんのサポートありきだろう」


「あたしのなんか、スキル的に確実に一人だけじゃ実現できなかった技だと思うし」


「……」


 今度は俺がみんなをじっと見つめる番だった。


「い、いやいや。みんなこそ謙遜を…………」


 黙って首を振る様子を見て、ゾワゾワと足元から肌に鳥肌が立ってくる。


 い、いや、いやいや……。


「え、マジ?」


「うん」「まあね」「嘘じゃないわよ」


 それぞれの言葉で俺のサポートを肯定してくる。


「は、はは」


 確かに多少は強化したけども……


「あっ! モンスターが落としたアイテムががっぽりですよ!」


「しょうちゃん耐えられなくなって誤魔化したでしょ」


「うおー! ほら、神秘的でキラキラ!」


「まあ、仕方ないね」


「ここまで背中を任せられる年下もいないと思うんだけどな」


 言葉が重い。俺の背負える荷物じゃないですよ。


:照れてるしょうちゃんかわいい

:褒められ慣れてないのかわいい

:かわいいぞ


 コメントでも色々言われているが、俺たちが戦ったのはあれでボスじゃないのだ。


 下層も場所により情報が開放されている程度、深層なら流れてくるのはうわさ程度。


 知らないことばかり、でも、不思議と行ける気もしてくる。みんなの力があるから。


:ここまでのチーム、全世界で見ても初めてなんじゃ?

:本当に深層ボス倒せちゃんじゃない!?

:いける。いけるよ!


「期待はありがたいです」


 もちろん、倒せないと帰れないから倒したいが、倒せるかどうかはまだわからない。


 それより、ここで手に入れたアイテムが役に立つかを知りたい。それだけで攻略難易度が変わりそうだ。


「これ、強いのかな?」


 おしゃれな感じの、なんだろう。やたら捻れた金属みたいだけど……。


 アートかな?


:豪華だけど、情報がなくって

:飯屋さんは配信しないから深層配信って初めてだよなぁ

:その飯屋さんは深層に落ちる前の探索者を救い出している模様

:あの人初期から人がよすぎるんよ


「やっぱり、飯屋さんはすごいな」


 俺とはレベルが違う。


「この武器かわいくない?」


「か、かわいい? 武器がかわいいって……?」


「ひとまず回収していこう、なにがいいのかわからないからね」


「そうね。モンスターが来る前に済ませましょ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る