第36話 デート!

「えりちゃん。ちょっと出かけない? 話したいことがあるんだ」


「デート!? もー。最近相手してあげられないからって積極的だなぁ」


「え、いや」


「いいよ。行こう! デート!」


 なぜか一度帰らされてからデートとやらをすることになった。服装指定付きだ。


 まあ、話せるなら……うーん。


 一応装備について聞いてみたく、学外で話す約束というつもりだったのだが、デートになってしまった。

 デートという響きはなんだか照れる。

 でも、女子同士は特に何もなくてもデートというのかもしれない。




「お待たせ」


「ううん。待ってない」


 本当に待ってない。いつもよりギリギリに来た。ギリギリに来たのに、えりちゃんの方が遅かった。


 なぜギリギリに来たのか。そう、俺は今、あのダンジョンで受付の人が着ている制服を着ているのだ!


 えりちゃんはえりちゃんでいつもより着飾っている気がする。


「赤くなってる。しょうちゃんってわかりやすいよね」


「う、うるさい」


「照れてるー。かわいいよ。やっぱり似合ってる」


「え、えりちゃんの方がかわいいから」


 いつも俺ばっかり言われてるから、少しぐらいいいだろう。

 そっとえりちゃんを見ると……


「もー! わたしよりかわいいのは生意気だぞー!」


 つつかれた。なんで!?


 女心はわからない。

 とにかくこのままでは話ができない。


「い、行こう?」


「うん!」


 今回ばかりはある程度お店の目星をつけてある。


 今の服装でじっとしているのは嫌だが、話せないと目的を満たせない。

 それに、その辺で好奇の目を向けられるよりはマシだ。


「とりあえずここで」


「カフェ? さっそく本題? 気が早いね。でも、そういうのも嫌いじゃないよ」


「ありがと」


 装備については、えりちゃんだと思うが、そうは言っても確証はない。


 俺はコーヒーだけ、えりちゃんは、なんとかかんとかフラなんとかを頼んでいた。読む時もカタコトになる気がするのだが、よく言えるなぁ。


 さて、守秘義務と言っていたのに探りを入れるのは少し気がかりだが、えりちゃんが本人ならサプライズだったと教えてくれる気がする。


「それで? 今日は何するの? どこへでもついてくよ?」


 そう言いつつも、今日はめずらしく時計を気にしている様子のえりちゃん。


 どうやら今日は予定があるらしい。


 それならば、俺の用はすぐに終わる。さっさと終わらせて解放してあげた方がいい。

 それに、服装が恥ずかしいからさっさと終わらせたい。


「これなんだけど」


「んーと? 装備? あ、新しくしたんだ! かわいい。オーダーメイド? すごい。ベテランっぽい。もうそんなにたまったの? あ、気にしてた割にスカート履いてくれるんだね」


「違うよ。これはそのひめ、なんでも屋さんが勝手に。じゃなくて、これ知らない?」


「うん。なんでも屋さんが作ったんだったらわたしは作ってないし、どうして?」


 とぼけている様子はない。純粋に知らないらしい。


 フェイントに反応騙されないためのスキルが発動するおかげで、コミュニケーションでも嘘が見抜ける。

 化されてる様子はない。


「これ、俺じゃなくて、別の人が払ってくれたんだ。だから」


「わたしだと思ったってこと? そういうことだったらわたしじゃないよ。でも、そっか。こうして渡せばしょうちゃんに着せたい服を着せられるのか」


「い、いやそういう企画じゃないから!」


 しかし、こうなると関先輩か千島さん、もしくは藤岡先生とかってことになるだろうけど、えりちゃんじゃないとなると急に可能性が低い気がする。


 うーん。こればっかりはわからない。

 だが、これで話は終わった。忙しい人の時間はこれ以上奪えない。


「えりちゃん、忙しいみたいだし、今日はこれでいいよ。ありがとう」


「えー。忙しくないよ。話が終わったなら見て回ろ?」


「でも」


「わたしは大丈夫だから。自分の時間くらい自分で管理できるよ。それに、わたしはしょうちゃんと過ごしたいな」


 やはり嘘はついていない。


 時計を気にしていたことは気になるが、


「えりちゃんがいいなら」


「じゃあ飲んだら行こ?」


「うん」


 俺は気を使いすぎていたか。


 この間から、ちょっと臆病になっている気がする。


 それは、調子に乗っていると思ったからかもしれない。それは、俺が近すぎると思ったからかもしれない。


 でも、関先輩も千島さんも姫野さんだって、俺と接しただけで嫌な顔はしていなかった。

 えりちゃんだって、嫌だったらそう言ったはずだ。


「難しい顔してる。悩み事?」


「ううん。いつもありがと」


「な、なに? 急に。もしかして変なものでも食べたの? しょうちゃんちょっと変だよ?」


「そうじゃないよ。でも、えりちゃんが今度は照れてるね」


「言ったなー」


 そうだ。人は思ってるほど悪い人ばかりじゃない。

 与えられる以上を返せればいい。そのために努力すればいい。かな?




 しかし、店の前までやってきたが、こないだ見たばかりなんだよな。


「今、こないだ見たばかりって思ってるでしょ」


「いや」


「ふふん。わたしをたぶらかそうったってそうはいかないよ」


「いや、たぶらかそうとはしてないけど」


「同じように見えてもお店ごとに特色があるんだから」


「たとえば?」


「たとえば……とにかく! あそこ!」


「あ、誤魔化した」


「行くよ!」


 忙しくてそんなに知らないのだろうに、カッコつけるから。


 しかし、言われてみると確かに、店ごとの特色というのはあるかもしれない。

 俺にとっては値段がわかりやすいが、スーツと私服というのも違うし、俺が気づいていないだけで、差別化されているのだろう。


「これ? うーん。こっち?」


「どうして俺にあてがってるのさ」


「え? いや、ついしょうちゃんに似合うものを探しちゃうんだよね」


「……どれ着ればいいの?」


「え、着てくれるの?」


「せっかく考えてくれるなら。俺の頼みを聞いてもらったし。でも、俺は選べないからね」


「しょうちゃん! じゃあ、これとこれと」


 多かった。

 一着二着とかかと思ったのに、片手じゃ足りなかった。


 しかも服だけかと思ったが、ガッツリ全身だった。

 着るなんて安易に言うもんじゃないな。


 だが、受付の制服よりかはマシだ。


 これは案外、悪くない、カモ? こうしたり、こうしてみたり。いやいや、ないな。


「どう、着れた? って、今のは!? ノリノリだね」


「あ、いや……」


 鏡を見てたら、いつの間にかえりちゃんがのぞいてた!


「ち、違う。違うから。せっかくならどこが見栄えするのか意識したいというか」


「へぇ? もしかして楽しんできてる?」


「違うから! 違う。本当に違う。ただの気の迷いだから」


「そんなに真っ赤になって否定しなくてもいいのに」


 うぅ。

 なんてこった。


 だが、まあ、悪い気はしない。

 それに、前よりは素体がいいからか。悪くない。個体としてみたら悪くない。うん。悪くない。


「これで終わり!」


「うーん。全部いい!」


「検討だけしとく」


「買って!」


「はいはい」


 着るとは言ったが買うとは言ってない。


 着替えて少し疲れたし今度は俺が見る方をやりたいのだが……。


 あれ、なんだか人が集まってるな。

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