第3話:傷心と闘志の北方旅路
「セイラ様、疲れておられませんか?」
ケイロン枢機卿が私のためにつけてくださった、いえ、私のために地位も名誉も捨てて来てくださった、シキルナ修道女が心配してくださいます。
「大丈夫です、馬車にも馬にもなれていますから」
「負担をおかけして申し訳ございません。
ですがケイロン枢機卿猊下から、刺客の恐れがあると伝えられております。
コスタラン伯爵領まで御辛抱ください」
「分かっています、気にしなくていいですよ」
王太子殿下に婚約を破棄され、なんの陳謝もなく、誇りも名誉を踏み躙られた私は、傷心を癒すために領地に戻る事になりました。
恐れ多い事ですが、ケイロン枢機卿猊下は、聖堂騎士団を率いて護衛すると言ってくださいました。
しかし国王陛下が、聖堂騎士団の護衛を禁止されたのです。
ですがケイロン枢機卿猊下は再度王命に逆らわれました。
「腐った者共が私を襲う」
と言う御神託があったと強硬に主張してくださったのです。
国王陛下は度々王命に逆らうケイロン枢機卿猊下に激怒されていたそうです。
ですが真っ向から御神託に逆らうのは、不利と考えられたという話です。
カルスロッド王太子殿下や殿下の取り巻き達が逆恨みして、必ず私を襲うと考えられたのだそうです。
確かに、これ以上聖獣協会に逆らったら王家でもただでは済まないでしょう。
聖獣が選ばれた婚約者の頭からワインをかけて辱めたうえに、一方的に婚約破棄までして、国民の評判は地に落ちています。
ここで私を殺したりしたら、王太子を処刑しない限り国民が叛乱してしまいます。
それが分かっているのなら、王太子殿下を止めてくださればいいのにと思ったのですが、殿下は国王陛下の命にも従わない愚か者なのだそうです。
そこで国王陛下は使われた手が、直ぐに王太子殿下の婚約者を選び直す御神託を得よという王命を、枢機卿猊下にくだす事でした。
今回の件は、王太子殿下が御神託に反して、婚約者の私を相応しくないと断じた事が始まりです。
多くの取り巻き貴族も同調しました。
国王陛下も……
私は教会への見せしめとして殺されるのでしょう。
教会を屈服させることで、民も威圧したいのでしょう。
民は王侯貴族も教会も信じなくなっています。
ほとんどの王侯貴族は税を搾り取るだけで、困窮する民を救おうとしません。
教会に行って聖獣様に祈っても、何の御利益もありません。
民はなにも信じず、無軌道になっています。
そんな民を力でねじ伏せるために、聖獣様に選ばれた私を、教会が護ろうとしている私を、嬲り殺しにしたいのです。
国王陛下も王太子殿下も、枢機卿猊下を私から引き離せば、簡単に殺せると考えられているのでしょう。
確かにその通りなのだと思います。
枢機卿猊下は、全聖堂騎士団を私の護りに付けようと、厳しく命じてくださったそうです。
ですが実際について来てくれたのは、二台の馬車を持ち出してきてくれた五人の修道女だけでした。
教会が誇る聖堂騎士団でしたが、既に王家王国の調略が入って、ほとんどが枢機卿猊下よりも国王陛下の命令に従うようになっていたのです。
この状態で、生きて領地まで戻れるとは思えません。
死ぬ覚悟はできています。
ただ、貴族令嬢の名誉だけは守らないといけません。
私は王太子やディアンナとは違うのです!
貴族令嬢が貞操を守らなければいけない意味を知っているのです!
北へ向かう旅の風景は、私の憂鬱な気持ちと重なっていました。
風景は美しかったものの、私の心は荒れ狂っていました。
広がる草原や森林は、自由と躍動感を感じさせましたが、私の内面は傷つき、悲しみに満ちていました。
暗い雲が空を覆い、風は冷たく刺さるように感じられました。
それでも私は立ち止まることなく、領地への道を進みました。
自分の立場や評判を守るために、私は一人で戦わなければならないのだと自覚しながらも、何とか前に進もうと心を奮い立たせました。
私の心の中には怒りや悲しみが渦巻きながらも、誇りと強さを保ち続けるために、私は頑張りました。
北方の風景は厳しいものかもしれませんが、私の内なる闘志にも燃える炎があり、自分の信念と名誉を守るために、この旅を終えるまで戦い続ける覚悟があります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます