第20話 お隣さん

「すみませーん、鴇さんいらっしゃいますか」

店先の来客の鈴が鳴ると同時に涼し気な声の少女が入ってきた。鳶色とびいろの瞳に丸眼鏡、セーラー服がよく似合っている。

「おや、木綿子ゆうこちゃんじゃないか。いらっしゃい、久しぶりだね」

木綿子と呼ばれた少女は店の奥に鴇の姿を見付け慌てて頭を下げた。

「ご無沙汰してます」

「セキさんはお元気かい?最近姿を見ないようだけれど」

セキというのはこの黄昏屋の隣に家を構えるご婦人である。鴇のように明確に“そういったモノ”が見える訳ではないが身近で起きる不思議体験からそういう類のモノが存在することは知っているし、なんなら自宅に棲みついた妖たちを小さなお友達として大切にするとても寛容なご婦人である。そんなセキさんの孫にあたるこの木綿子はセキの血を色濃く受け継いだようで鴇と同じように妖たちを見ることが出来る眼を持っている。但し、その力で何かするとかはなく、未だに力を持て余し気味のようだ。今年通い始めた高校にはそういった類が見えるだけで気味悪がられるようでバレないようこの店で購入した丸眼鏡をかけている。自分の意思がなければその瞳に妖たちを映さない代物である。つまり、“見たい”と思う時にだけ見えるようになるのだ。

「元気です。最近は少し遠出していまして」

「遠出?」

「はい、おばあちゃん宛てに依頼?お願いごとが入ったらしくて…」

「セキさんに依頼とはまた不思議な話だね。彼女はちょっと不思議なモノに好かれやすいただの“一般人”だろう?」

「そうなんですけど…おばあちゃん、そういう人?モノ?たちに好かれやすいからか“声”も聞き取りやすいそうなんです」

木綿子は困ったように眉をハの字にして唇を尖らせた。

「どれくらい行っているんだい?」

「三日です、今日帰ってくるとは言ってたんですけど…」

「けど?」

「なんだか依頼が完了して帰ってくるとは違う感じがして」

「木綿子ちゃんの感覚かい?」

鴇の問いに木綿子は頷く。木綿子の感覚も大分研ぎ澄まされてきているようだ。そのうち、舞い込む依頼の善し悪しも感覚的に分かるようになるだろう。うむ、と鴇は小さく唸る。

「多分、なんですけど」

「セキさんは僕に依頼をかけると思う?」

「はい、なのでおばあちゃんが帰ってくる前にこの依頼のさわりだけでもお話しておこうと思いまして」

「わかった。そういう事ならば奥で聞こう。弟子や、お客だよ」

「はーい!」

「さあ、木綿子ちゃん。依頼を始めようか」

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