第17話 絵葉書の中で夢を見る-後編⑬-

私は爺の黄みがかった鋭い瞳を見つめる。昔はよく、解決方法を誤って拳骨と雷を食らったものだが。爺は小さく唸った後、家守と何か少し話し合い、私に向き直った。

「儂にはそれ以上の案は出せん。この店にもそれに代わるようなモノもない。鴇に任せる」

「やったじゃあねえか!鴇!!」

鳶が思い切り私の背を叩く。大きな体から繰り出されるスイングにより思い切り叩かれた背にはきっと紅葉が出来ている事だろう…店に帰ったら弟子に湿布でも貼ってもらおう。

「ゲホッ…と、とりあえず彼の前に虚の方舟を」

咳き込みながら呟けば待ってましたとばかりに弟子が虚の方舟を持って来る。カランと飴玉を転がす音がする。

「ありがとう、では始めよう」

「い、いやよ、折角力をつけ始めたのに!あの鈍くさい男が連れ出してくれてなんてラッキーなのって思ったのにっ!この、疫病神め!」

絵葉書の女は虚の方舟から出された足からため込んだ力を黒い鉄亀に吸われながら喚いた。

「嫌よ嫌!こんなのってないわ!酷い!」

「私を…愛してくれてたんじゃなかったのか…?」

それまで空気だった依頼主が声を掠れさせて聞く。これまでの愛の囁きは嘘だったのかと。

「愛の言葉だなんて霞と同じ。信じていたなんてバッカみたい。お前みたいな愚図、餌として見てたに決まっているでしょ。もうちょっとだったのに!お前があんな寂れた店に連れて行くから!計画が台無し!」

依頼主は帯留を握りしめながら蹲った。彼が信じていた愛などもうどこにも存在しない。

依頼主の丸くなった背を撫でている内に黒い鉄亀が女の力を全て吸い込み、くあっと大きな欠伸をした。

『それでは皆様、しばしの別れ…』

「安心してお眠りください。貴方はきちんと瑪瑙の元へお送りいたしますゆえ」

眠りの淵に立つ黒い鉄亀にお礼を述べ静かに一礼すれば彼は優しく微笑んで瞼を閉じた。そんな彼を元居た桐の箱に戻し、来た時と同じように風呂敷を掛けて弟子に渡す。

「最寄りの駅にある和菓子店で水羊羹を買って瑪瑙に届けておくれ。茶会は後日、日程を伺いますと」

弟子はかしこまりましたと頷いて、爺に追加の飴玉を貰い店から出て行った。

力のなくなった女は虚の方舟から全身出されてもふにゃりと床に項垂れたままだった。

「さ、お前は絵葉書に戻り養生だ。二百年ほどな」

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