第15話 絵葉書の中で夢を見る-後編⑪-

二進も三進もいかない話し合いに爺も唸る。

虚の方舟のような中に入れたモノの力を抑制する物は確かに存在する。だがそれを用いたとて中に居るモノが無気力化する訳ではない。そこに居るのは入れる前と変わらぬ力を持つモノである。時間が経つだけで何も変わらない。無気力化の結界はこの店にも私の店にも、なんなら鳶の店にも掛かっている。自然に力が抜けるような、それも長期間効果が続くような物があれば…。物?

「その顔は何か思いついたのか?」

私が考え込んでいる間に鳶と爺があれこれ試行しながら居間を物だらけにしていたらしい。周辺が付喪神付きの物で溢れている。私の膝にも見覚えのある欠け茶碗の付喪神が引っ付いている。

「要は、無力化が掛った場所で自然とその女の力が抜けていく仕掛けがあればいいんですよね?」

「無力化・力を喪失させる、それが長期間薄れることなく続けば尚良し。他の妖どものパワーバランスが崩れなければもっと良しって感じか」

鳶が顎に手を添えながら私の問いかけに答える。パワーバランスも大丈夫だろう。

「電話を貸していただけますか」

爺は私がどこに掛けるのかすら尋ねず電話の場所を教え、自分が淹れた茶を啜った。


「ごめんくださーい!黄昏屋から参りました」

弟子が店前で大きな声で到着を知らせる。はいはい、とこの店の家守が迎えに出れば「うわあっ大きな猫さん!」と無邪気な声が聴こえる。弟子よ、そんな大きな猫がいてたまるか、猫又というものはもう教えただろう?猫さんじゃあないんだよ。額に手を当てると爺が「まだまだだな」と笑う。すみませんねえ、教育がまだまだで。

「おーい、こっちだ。入っておいで」

弟子は自分の顔程の風呂敷に包まれた荷物を抱え、店の奥居間に入ってきた。

「コクリ堂のじいさま、ご無沙汰しております。お師匠様がお世話になります」

「お前さんは礼儀正しいいい子だな、ほれ飴玉だ。葡萄は好きか」

「ありがとうございます!大好きです!」

弟子は爺から飴玉を貰い受け大喜びで口に放り込む。歯に当たってカランコロンと音がする。

「おししょむしゃま、これがたのまれていたもにょでしゅ」

口に入れた飴玉が思ったより大きいのか舌足らずな喋り方をしながら荷物を差し出す。嗚呼、何も聞かずきちんと遣いができるようになった。

「ありがとう。彼女は何か言っていたかね」

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