第14話 絵葉書の中で夢を見る-後編⑩-

「で?」

家守と爺のやり取りを眺めていれば爺にそう問いかけられ、私は依頼主の肩を叩いた。

「……を、…に来ました」

「なんだって?」

「爺さんは耳が遠いんだ、もう少しはっきり喋ってくれるかい」

誰の耳が遠いだ馬鹿垂れと張り手が飛んでくる。ほんと容赦ないんだからこの爺。

「こ、この店に、絵葉書を返却しにまいりました!大変申し訳ございませんでした。罰も受けます、なのでどうか…どうかご容赦ください…」

意を決し大きな声で今回の訪問理由と謝罪を述べた依頼主は深く深く頭を下げた。それを爺は黙って眺めている。

「何が悪かったと思っている」

「ご店主様の言い分を聞かず、はした金を置いて品物を盗むように持って逃げだしたことです」

「他は」

「ほ、ほかでございますか」

「おい鴇。お前説明してねえのか」

「自分で気付くから反省に繋がるのです。手取り足取り全て教えても人の為にはなりません。あれがどういう代物であったかは説明が済んでいます。あとは何も」

お前も甘ちゃんじゃあなくなったのな、と爺はぼそりと呟いて依頼主に向き直った。

「罰は受けると言ったな」

「はい」

依頼主の返事を待たずに爺の強烈な平手が依頼主の頬を打った。ジンジンと爺の手のひらも依頼主の頬も真っ赤に染まった。

「人の話を聞かんか馬鹿者がァッ!!」

地面を轟かす落雷の如き怒声が頭から降り注いでくる。耳を劈くお叱りである。

「爺の特大説教久しぶりだな」

「これはきついぞ…」

と鳶と二人こそこそ言い合っていると耳を塞いだ家守も混ざってきた。

『お前のことを甘ちゃんといった事を今の内に謝っておく。ユキの気持ちの落としどころも用意してくれてありがとう。喰いたい気持ちはまだあるが、あれが終わった後は味が悪そうだしなあ』

横目で盗み見た依頼主はもうすっかり縮こまっている。少し可哀そうだが同情はしない。自業自得というやつなのだから。

「で?」

一通り説教し終わった爺が再度聞いてくる。今度は私達二人に向かって。

「私達は彼がこの店から盗んだ品の返却の付き添いと、その品の今後についてお話をしに参りました」

「ほう?」

「絵葉書の女は現在、虚の方舟内に滞在中です。絵葉書はこちらに」

絵葉書を爺の前に差し出せば、爺はそれを持ち上げ眼鏡越しにまじまじと観察する。

「魂を齧られたのか、お前」

爺はもうすっかり萎れた依頼主を見た。依頼主は力なく頷き帯留を見せた。

「なるほど、欠けた魂が戻るまでそいつに憑かせているわけか」

いい手だ、と褒められた。

「魂を喰った分、絵葉書だと移動の面で安全性に欠けたから虚の方舟で強制送還か。それは中に入ったものの力を抑制させるものだったな、中から外には手助けがないと出られず、手助けがあってもきちんと順序を踏まないと手助けした人も中に落とされる。鴇、いい仕事するようになったじゃないか」

「ありがとうございます」

「で。今後っていうのは絵葉書に戻したとして、だな?」

「このコクリ堂でさえ、守りの手を搔い潜って今回のような事案が起きました。この絵葉書に女を戻したとて、同じようなことが起きぬ為に何か手を打った方がよいと思うのです」

「それはそうだな…無力化や封をしても微妙そうだな」

「俺は焼いちまえばいいと思いますがね」

「こら鳶、またそんな物騒なことを言って」

「封じても守りは弱くなるだろう?」

「その間に無力化できればいいじゃないか」

「それはそうだが…」

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