喫茶ヴァルプルギスへようこそ

鳩羽 八十八

4月 夢悔空への誘い

【第0話】夢悔空の夢魔達


ここは、喫茶ヴァルプルギス。特別な能力を持った《夢魔むま》と呼ばれる少女たち情報交換の場であり、憩いの場。

町はずれにあり、そこまで大きくもない小さな喫茶店ですが、様々な夢魔が訪れお金を落としていってくれるので、経営難には至らずのびのびと経営されています。


そんな喫茶ヴァルプルギスは今日も今日とて無事開店し、いつものように世間話をしていました。


「はぁ……最近は暇ですねぇ……」


紫髪の少女が、L字カウンターに顔を突っ伏しながら言いました。


「確かに最近は何もないですけど……。それが普通ですし、平和でいいんじゃないですか?」


喫茶の店主である白髪の少女が、食器を洗う片手間に、彼女の話を聞きます。


「いえ、全然よくないです。つい先日のことなんですが――――」


彼女の話は少しの間続き、店主が食器を洗い終わるまで続きました。


「……なるほど。つまり賭けで負けた結果、事件が起こるまで飲酒禁止という約束をしたと……。それって、いいことじゃないですか?」


「全然よくありませんよ! ハルツさんも知っているはずです……、私がお酒を飲まないとどうなるか!!」


カウンターをバンッと叩きながら立ち上がる。その必死さは、店主を後ろに少し引かせるほどでした。


すると、紫髪の少女の隣に座り、話を聞いていた薄緑髪の少女が一言。


「たかだか手が少し震えるくらいじゃない~?」


「なッ!?」


「あ、ごめん。ちょっと訂正するね。怒りっぽくもなるみたい」


ダウナーな声を出しながら、相手の心を逆なでするかのような態度をとる彼女に、紫髪の少女は、歯を食いしばりながらも胸に手を当て、怒りを反転させるかのように落ち着きを取り戻しました。


「ふぅーー。……失礼。私にしては少々感情的になりすぎたみたいですね……。まぁ、こんなの言うことなんて、気にしすぎない方がいいですか」


「……ん? なんか言った?」


ニコニコしながら聞き返す薄緑髪の少女。その表情は、機嫌がいいようには見えません。しかし、紫髪の少女はひるみません。


「あぁすいません。少し訂正を。カフェイン中毒者でしたね」


「…………(ギロッ)」


「…………(ギロッ)」


互いににらみ合う少女たち。その間には、ビリビリバチバチと火柱が立っているようにも見えます。

しばらく喫茶店内に沈黙が続く中、先に口を開いたのは、紫髪の少女でした。


「すみませんね葉月さん。あなたが言っていたように、禁酒を始めてから手が震えるんですよ。つい、殴ってしまうかもしれません……」


右手をギュッと強く握って言いました。

それに続くように薄緑髪の少女は、右腕を回し始めます。


「そっかぁ……。実は私もカフェイン不足のせいなのか、ちょっとまぶたが重くてねぇ……。もしかしたら、寝ぼけて殴っちゃうかも~」


彼女はカウンター席から立ち上がり、十分なスペースがある方へと歩いて行きました。


その光景を見て店主はこう思っていました。


(ほかの人や夢魔達が居なくてよかったです……。巻き込んでしまうと危ないですし……)


そして、ついに二人が互いに立ち向かい、今、何かが始まる……!

と、いうところでシャリンシャリンとドアベルの音が鳴り、誰かが入ってきました。


そこにいたのは……


……


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