第13話 もし、お嬢様達の前でカッコつけようとしたら
映画館に着き、受付を済ませようとしたところアーリさんに先を越され俺の分も払ってしまった。
「まあまあお気になさらず、これはらいら様に仕える者として当然のことですから」
「いや、そこまでしてもらう訳には……」
「いえいえ、ここはメイドとしての私の顔を立てて頂くという形で」
そういう言い方をされると、上流階級のアレコレを知らない俺には深く口出せなくなる。
「分かりました。ありがとうございます」
「いえ、その分お嬢様に構って頂ければ渡すとしても十分釣り合いが取れますので。さあ参りましょうかお二方」
俺はアーリさんに促されるようにらいらと共にその後をついて行った。
「らいらは映画を見る時にポップコーンとか食べるタイプか? 俺はしょっちゅう食べてるんだけど」
「わたしはあまり……。甲斗さまがお好きなものを一緒に頂ければと思います」
「そうか、じゃあこっちの好みで選んでおくよ。アーリさんはどうします?」
「私はキャラメル味を好みます。もちろん飲み物はコーラです」
驚いた。意外と庶民派なんだな。
俺たちは売店に立ち寄って各々好きなものを選んだ。そしてまた例の如く俺が財布を出す前にアーリさんに支払われてしまった。
もしかして、男が何でも財布を出すのは単なるダサいかっこつけでしかないのか?
悩んでも仕方ないけれど、どうにも釈然としない。どこまでも俺個人の問題でしかないけれど。
「では、そろそろ始まってしまいますので中へと入りましょう」
「そうですね。甲斗さま、わたし今日の映画前々から楽しみにしていたんです。ですから是非あなたにも楽しんでいただけたらと思っています」
「おう、俺だってちゃんと楽しむつもりだぞ。……でも、あんまり期待し過ぎるなよ? 正直な話、恋愛ものは俺もよく分からんからな」
俺たち3人ポップコーンと飲み物を持って中へと進む。
人気映画らしいからさすがに人が多いな。席も結構埋まっている。
「お二人方、こちらですよ」
流石にメイドさん、仕事が早いな。
気づいた時にはチケットに指定された席を見つけていたアーリさん。俺とらいらを手招きして呼んでいた。
「ありがとうございます」
「いいえ、この程度お安い御用です」
上品な意味で涼しげに返すアーリさんの姿に、感心する。
これが上流階級に使える使用人の振る舞いか。やっぱすごいな。
「それじゃあ座るか」
「はい」
「パンフレットを買っておきましたので、どうぞ」
そう言うとどこからともなく映画のパンフを渡された。
本当にいつの間に買ったんだ? 疑問に思いながらも渡されたパンフレットに目を落とした。
恋愛映画。テレビならともかく、こういうきちんとした映画館で見るのは初めてだ。ちらりと隣を見るとらいらが熱心にそれを見ていた。相当楽しみにしてたんだな。
それで肝心のあらすじは……。
人生に絶望して身を投げようとした男を助けた、年の離れた少女。そんな2人が交流を持ち、次第に恋仲になっていく。年だけでなく家柄にも格差のある2人だが、お互いを思い合う深い愛情でその差を越えていく。
簡単に言えばこんなところか。
これが王道なのかどうかもわからん程度に恋愛映画に疎いという俺だが、この2人の状況は俺とらいらによく似ていた。
もしかして、らいらがこの映画を見たいと言った理由の一つがこれなのか?
いや、だとしても聞くのは野暮だな。
俺自身もこの映画に興味が出てきた。上映終了まで純粋に楽しませてもらうとしよう。
そう思った時館内が暗くなり始める。さてそろそろ始まるぞ。
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