第12話 もし、お嬢様と遊びの約束をしたら
部屋に戻って来た俺は、らいらに電話を掛けた。
とはいえ相手は小学生。
夜に長い事話する訳にはいかないから、軽い世間話程度に済ませないとな。
『甲斗さま、いつお電話をくださるのかとお待ちしてました』
「いや済まない。こっちもいろいろあってな、今家に帰ったとこなんだ。そっちは今何をしてたんだ?」
『お風呂を済ませて自室でくつろいでいました。……ところでお身体の方の具合はいかがですか?』
「体? 一体何の事だ?」
まさか、胃を痛めてるのに気づかれたか?
『いえ、昨日お茶を共にした時にお腹を気にされてたので……。お医者様を呼ぼうかと思いまして』
「ああ、そういう意味か。大丈夫だ、もう治ったから心配ない」
俺はそう言って安心させる。
調子に乗ってラーメン食べてしまったが、何とかそこそこ持ち直せたようだ。
『そうですか、それは良かったです』
それからも他愛のない話に花を咲かせる。この何気ない時間が好きだ。余計な事を考える必要も無く、ただ相手の事だけを考える。
……芽亜里ともそういう時間を過ごしたかったんだがな。
流石にあいつの事をらいらに喋る訳にはいかない。小学生相手に元カノの愚痴をこぼすのは情けなさ過ぎる。それにしても、こうしてるとまるで本当付き合ってるみたいだよな。
「あ、そうだ。今度の日曜なんだけどさ、何か予定あるか?」
ふと思い出したことを口に出す。
日曜にでもどこかへ出かけようと思ったんだが、急に決めたことだしデート先を思いついていない。そもそも、らいらが何を好きなのかすら知らない以上、やっぱ考え足らずだな。
『その日の予定は特には。……デートのお誘いでしょうか? それならとても嬉しいです』
その気にさせてしまった以上は後に引け無くなった。さて何処へ行こうか?
う~ん……そうだな。
「よし、映画を見に行かないか?」
映画館に行くことにした。
俺もたまには、何かの映画を見てリフレッシュしたい。
恋愛ものもいいけど、ここは無難にアクションものにしておくか? いやでも小学生が相手だしな、何がいいのか分からん。
『あ、あの……』
俺があれこれ悩んでいると、らいらは少し遠慮がちに声をかけてきた。
『よろしかったら、わたしに決めさせていただいても構いませんか?』
「ん? 別に構わないぞ」
どうせ俺じゃ分からないからな。任せるのが一番だろう。
『では……』
結局恋愛ものの映画になった。クラスでちょっとした話題になっているそうな。
小学生受けする恋愛映画ねぇ……。俺にはよく分かんないが、まあいいだろう。
◇◇◇
そんなわけで日曜日。俺とらいらで駅前に来ていた。約束の時間より十分ほど早く来てしまったが、それでもらいらの姿が見えた。
「ごめんなさい、待たせてしまいましたね」
「いや、俺待つのは嫌いじゃないしな。……アーリさんも来たんですね」
「メイドですから。お構いなく、お二人でお楽しみ下さいませ」
らいらとアーリさん。流石に女連れが二人もいるんじゃデートにはならんか。でもいいか、まだ正式に付き合って無いんだ。もし二人でいるところを芽亜里にでも見られたら逆恨みされそうだしな。
それにしても二人共キレイな恰好だ。学校の制服でもメイド服でも無い、新鮮な感覚だ。
俺はこれでも、付き合っていた芽亜里の為に女子の恰好について雑誌に目を通すくらいには知っているつもりだ。
らいらは小学生らしさはあるが、大人っぽく見せるように意識している。
スカートの長さが清楚さを演出しているしトップスは長袖で露出が少ない。そして何よりも髪飾りが可愛いらしい。
アーリさんの方は、メイドらしくシックにまとめた服装でいつも以上に美しいと感じる。
「甲斗さま、どうかしましたか?」
「あ、ああ……なんでもない」
俺は二人の姿に見惚れていた。
いかんいかん、らいらならまだしも両方はダメだ絶対! 俺はあのクソ女とは違う。今回のこれもデートじゃなくてただ遊びに出ただけだ。ロマンチックな要素は無しに行かなくちゃならない。
よし。
「それじゃ行こうか。今日は思いっきり楽しまないとな」
俺はらいら達をエスコートしながら映画館へと足を進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。