第2話 もし、飛び降りようとしていた俺を引き留めたのが美少女だったら
「もう~こー君! どうして返事くれなかったの? 私ずっと待ってたんだよ」
学校に着くと、俺の彼女だった物体が図々しくも話しかけてきた。
でもその内容が耳に入らない。耳が腐れるからだ。こんなやつの声は聞くだけで虫唾が走る。
「あんた碌に返信もしてないんだってね! 最低! せっかくこの子が付き合って上げてるってのに何様のつもりなわけ?」
うるさいな取り巻きが!
馬鹿は馬鹿としか付き合わないんだな。だから俺も今までお前と付き合っていたんだろうけど。
あのクソ女も被害者面して取り巻きに慰めてもらってる。睨みつけてくる取り巻きがまじで目障りだ。
「ああそうだな」
適当にそう返事をすると、急いで教室に向かった。
「おい彼女がかわいそうじゃないか。幼馴染なんだろう? ひどいことするもんだな、長い付き合いなのに」
今度はあの、木山の野郎が話しかけてきたが無視して走り去る。
後ろからまだ何か言ってくるが、聞いてられるかよ。
「ああ」
適当にそう返事をすると、急いで教室に向かった。
同じクラスじゃないということが、今はありがたかった。昨日まではそんなこと思わなかったのに。
でもダメだな。その日1日授業が全く身に入らなかった、何やってたかも思い出せない。
あいつらは俺から勉強する気力すら奪っていったんだな。
残った気力だけで姿勢だけはそれらしくしていたつもりだが、こんな調子で明日以降も持つんだろうか? 無理だな。
そういえば休み時間の度に、あの女がやってきていたような気がする。気のせいだろう。
あんな奴、もう視界にも入れたくないから。
どうせ俺がいなくても何も思って無い女だ。相手するだけ無駄でしかない。
放課後、鞄を掴んだ俺は誰にも顔を合わせないように校舎を出て行った。
誰よりも好きだった女に裏切られたんだ。俺だけの心のよりところがなくなってしまった。
そんなものは最初からなかったんだろうか? あの女は男に好かれる自分に酔っていただけだったんじゃないか? 俺のことなんて本当は見ちゃいなかったんだ!
気づくと足は、この町で一番大きな川にかかる橋の上に止まっていた。
別に帰宅コースには無い場所なのに、たどり着いたということは俺はもうこの世にいたくないんだろう。
水没って楽に死ねるんだろうか? どうでもいいか、どうせ今以上に苦しいことなんてない。
そんな思考が頭を巡りながら、俺は橋の柵に手をかけた。
しかし、その瞬間にふと、遠くから聞こえる音が耳に入ってきた。それは小さな子供の笑い声だった。
俺は川岸に目を向けた。そこには数人の子供たちが楽しそうに遊んでいる姿があった。彼らは無邪気に笑い、駆け回っていた。
俺にもあんな頃があった。何も考えずにあの女と一緒に遊んでいたあの頃が。
いつまでもそんな関係が続くと思っていたのに、あいつ一人だけ汚くズル賢く成長していった。それまでの俺たちの関係を無視して、自分からクソ女に成り下がった。
もう何もかも終わりだ、頑張る気力がない。
一瞬だけあの頃の光景が頭に浮かんで、すぐに頭を振った。
飛び降りよう。
一度決めた覚悟がさらに固まる。どうであれこれで俺の人生が終わる。
クソみたいなゴールだ。
好きだった女を取られて、やり返す気概すら持てない。一方的にイラついて、それでいて根性はない。
結局終わりを告げる事すら出来なかった。
失恋を振り切って、新しい道を切り開く勇気もない。
一番イライラするのはこの俺自身だ。
でも親父には迷惑はかけられないから、遺書みたいなのは残さないでおいた。
それが俺にできるせめてもの孝行だと思う。
「せめて俺の命と引き換えに、あの二人がクソみたいな人生を送りますように」
「そこの御方、一体何をしているんですか?」
不意に声が聞こえてきた。若い女の声だ。
振り返ってその女の姿を見る。
そこにいたのが一人の女の子だった。
美しい髪に柔らかそうなほっぺをした――小さな女の子だ。
くりくりとした目を向けながら、俺の取っている行動をまるで理解できないように不思議そうに見つめている。
「何って……」
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