真野魚尾（まの・うおお）です。百合漫画を慈しむ者です。

早くも3度目となりました今回は、真野が以前より注目している作家様方にスポットを当てました。

◆『荊棘ヲ纏イテ楽園ニ踊ル-百合短編再録集-』ななせ悠

WEBや寄稿作品も再録の短編集。

『コルセットだけが知っている』くらげバンチ掲載作。ディシプリン。両想いは両重い。

『OH!MyThumblina!』『雪に椿』は単品の再録。前者は童話『親指姫』の翻案。百合に挟まらない王子ナイス。後者は悲恋和モノ。作風幅広し。

『おんなじものでできてはいても』おばあちゃん百合。何とも沁みる4頁。

『荊棘ヲ纏イテ楽園ニ踊ル』描き下ろし。こちらもコルセットを通じた重たい愛。

◆『あなたの星空と同じで』ななせ悠

お嬢様とメイド、二人の星空を作るための可愛らしい奮闘記。お互いがポジティブな影響を与え合う関係に心が洗われます。幻灯機や蓄音機など、19世紀のロマン漂う小道具も素敵です。

ななせ先生は歴史や人文への造詣が深く、重みのあるテーマに人間ドラマを有機的に絡めたストーリーテリングも巧みな作家さんです。

ジャンプ＋掲載の『その日に残るかけらのために』や『続く道花の跡』は、百合ファン以外の読者にも訴求する、大きなテーマ性を持った読み切り作品です。

一方、ご趣味がありのまま反映された『異聞百合拾遺集』や2冊のメイド百合再録集などの同人誌も、興味深く楽しい読み応えが味わえます。

◆『愛のことば』犬井あゆ

（主に）社会人百合短編集。いつもながら心情表現の細やかさがダンチ。そしていつもにも増して叡智。

『愛のことば』会社の外で出会う同僚の印象はお互い違っていて。急速に近付く距離に癒しとドキドキ。辻（つじ）さんに感情移入して萩本（はぎもと）さん好きぃ～ってなる。二人ならばどこにでも行ける、行けますとも！　そして巻末へ続く。

『ナミちゃん。』奔放なバイ？フェムタチ×一途なボイネコの一線を巡る攻防。みんなの中の一人ではなく、特別な一人でいたいから。次作品とは対になる切ない想いがどちらも秀逸です。

『友達じゃない』ボイタチ×フェムネコ。ベッドで、浴槽で、何度も肌を重ね合う「友達」。みんなの中の一人でいいから、誰の特別にもならないで。過度に細くも肉感的でもなく、それでいて綺麗だなと感じられる裸体の描き方が感動的です。

『陽向のばしょ』引っ込み思案な美容師とグイグイ来るパン屋さん。甘々急接近で読者の脳も急速回復します。名前のモチーフが春と秋でお似合いなところも素敵。

『キスより先にできること』幼馴染み、下着モデル撮影からあれよという間に一線越え。両想いだって気付け！

『キューピッド』クールな同僚と「羽根」をきっかけに急接近。親しくなりたい……って、なりすぎじゃい！（歓喜）

『色に恋』初出2018年と一番古い作品。頭でっかちが自棄を起こしたのか、それとも殻を破ったのか。寝（ヤッ）てから名乗るんかい！とは思いました（笑）。

『二人の日曜日』描き下ろしは冒頭の表題作の後日談。食べた後は運動（意味深）。

犬井先生の描く百合作品はどれも感情が濃密で、読後の満足感も高いです。

同人過去作では、日常での出会いが感情移入を誘う『日曜日、午後１時』が印象に残っています。

商業連載でも、社会人百合の名作『定時にあがれたら』〈全4巻〉、実録エッセイ『今日もひとつ屋根の下』〈全2巻〉は、両作とも実感のある繊細な内面描写が自信を持っておすすめできます。

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