第19話 狙撃(守人の場合)

 狙撃手である老人が居座る木へまでの距離は、約八〇〇メートル。これなら今の傷ついた私の足でも、一分とかからずに辿り着けるはずだ。


「もっとも、何事もなければだけど……」


 そう思いながらも警戒しつつ、目の前にある邪魔な小枝や草花を掻き分けて一直線に進む……しかし!


「……ほら来た!」


 案の定、狙撃手は躊躇ちゅちょなく撃ち込んでくる……っが、先程までとは条件が違って今の私は全速力で疾走中の身。

 さらには自然エリアに群生する無数の植物が遮蔽物しゃへいぶつとなって簡単に当てられることはまずない!


「ハッ! 当てれるもんなら当ててみな!!」


 そんな聞こえるとも思えない挑発を吐いて銃弾の雨を掻い潜って進み続けると、ついに目標までの距離三〇〇メートルの地点にまで到着する!


「よし! からなら、確実にあの老人の命を貫けるはずだ!」


 そう、私は最初から目標の間近にまで近づくことは考えず、代わりに自らの槍による敢行かんこうするつもりでいたのだ!


「さぁ、相手に気づかれる前に早く準備を……」


 近くに生える適当な木の陰に身を隠し、素早く紋章の力を全身へ張り巡らせる。そして……


「角度、距離、風向き共に問題なし!!」


 状況を確認した後は再び狙撃手の様子を窺い……ん?


「どうしたんだ? 今までなら、ちょっとでも姿を見せようとしたら遠慮なく撃ち込んでいたはずなのに?」


 不思議に思って今一度老人の様子を窺うと、彼は銃をかまえたままで何もしてこない。


「なるほど。最後は余計な小細工を使わずに一発で私の命を撃ち抜きたい訳か。それなら……」


 私は槍で邪魔になりそうな草木を刈り払って周囲をスッキリさせて姿を完全に晒す。


「フフフ……これでお互いの顔が良く見えるわね?」


 双方の視界がくっきりとなり、私達は最初で最後といえるかも知れない対峙をする。


「じゃあ……決着をつけましょうか!?」


 奇しくも心が通じ合う形になった私達は、その体勢のまま微動だにせずに最期の一撃になる機を窺う……


 ――――一分?二分? どれくらいの静寂せいじゃくが流れただろうか? 短くとも無限に思われる時間の錯覚さっかくに陥りそうになったその時だ!


 不意に、どこからともなく一陣の風が吹いて……


「今だ!」


 瞬間、目をカッと見開いた私は紋章の力を乗せた槍を思い切り投げ撃つ!!


「いっけぇぇぇぇーーーーーーー!!!」


 空気と音を切り裂き、凄まじい勢いで突き進む槍の弾丸!! その軌道の先には、狙撃手である老人の身体を……命を確実に的へ捉えていた!!

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