剣の守人

なめなめ

守人の章

第1話 剣の守人

 ――――いつなのか、どこなのか定かでない遠い昔の世界。そこには“魔王”なる悪しき者が存在し、人々は多大なる恐怖と絶望によって蹂躙じゅうりんされて続けていた。

 そして、そんな惨状に同情する神は、人というしゅを救済するために希望と試練を与える。


 ――――ここは地上から遥か上空に浮かぶ天空城。

 古びた外壁で固められる一方で、内部は大理石だいりせきを削って造った屈強な柱によって支えられる構造になっている。

 また中心部にはちょっとした運動場が収まる程度の六角形の大広間が存在し、辺にあたる壁にはそれぞれ別エリアへ繋がる扉が一つずつの計六つが設けられている。

 最後に広場の中央にある円柱形の台座には、光り輝く美しい剣が『好きに抜いてくれ』と言わんばかりに突き立てられてある……っが、その剣が実際に好きに抜けるかというと、答えは限りなく“いな”に近い。

 何故なら、剣は無造作に突き立てられこそはしてるが、決してさらされている訳ではないからだ。


 剣のかたわらには一人の少女が立っている。


 年の頃は人間に例えると十六か十七程に見える。短い銀髪に額から禍々しい一本角を生え、眼光は赤く刺すように鋭い。

 さらにその手には、自作したと思われる丈夫そうな槍が握られている。


 尚、格好は簡易的な白い胸当と膝下までが隠れるくらいの黒く丈夫な布を適当に腰で巻いているだけの粗末な装備。

 あと付け加えるならば、右脚のみに所々が破れた黒いソックスを履いて、両の足が裸足であることくらいだろう。


 ――――でっ、ここまで紹介した少女が何者かというと?


 その正体は、直ぐにでも明かされる。そう、すぐにでも……だ!



「……また誰かやって来たみたいね」


 何者かの気配を感じ取る少女。どうやら城のどこかに“侵入者”が現れたらしい。


「ふぅ~」


 深く息を吐く面倒そうな表情からは、この状況が“いつものこと”と言わんばかりだとする日常的な印象さえ感じさせる。


 タッタッタッ……どこからか聞こえてくる足音。間違いなく侵入者とやらがこの広間へ向かって接近していることを報せるものだ。


 バタァーーーーーーーンッッ!!


 勢い良く開かれた扉の一つに注目すると、そこには長い髪を後ろに結んだ薄汚れた冒険者風の中年男が立っている。


「あれが魔王を倒すといわれる剣か……」


 男は確かめるように呟やくと、迷うことなく剣が突き立てられた台座の手前にまで移動する。


「へぇ、思ったよりも普通の形をしてんだな」


 剣を一瞥いちべつすると、今度は物怖ものおじすることなく手を伸ばして……


「待ちなさい!」


 突然の制止に、男の手はピタリと止まる。


「何だ小娘? もしやとは思うが、お前が“剣の守人”なのか?」


 凄むように訊ねる男に対し、小娘と呼ばれた少女は槍の穂先ほさきを向けつつ不敵な笑みを浮かべてから言う。


「それ以外に何があるの?」と……

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