第42話 順調

 実に、順調に、老いている。

数年前に転んで強打した膝が、まだ痛い。

そもそもの乱視も相まって、近づけようが遠ざけようがピントの合わぬ目。

せめて生え際から群集で白くなってくれれば毛染めをする気が起こるものを

律儀に一本ずつちらほらと点在する白髪。

歯を磨けば歯茎のどこかしらから出血しているし、右向きに寝ると右肩が痛い。

左向きに寝ても右肩が痛い。仰向けに寝ると腰が痛い。

若い頃は1食抜けば1キロくらいすぐ減った体重は、2食抜いたのになぜか

増えるという摩訶不思議。

昔の漫画などにこめかみにピップエレキバンや膏を貼っているおばあさんの姿が

描かれていたが、いま、わかる。こめかみがこっている。貼らないけど、貼りたい。

帰宅したら部屋干し用の竿に何もかかっていなかったので、先に帰っていた精六さんに「ありがとう~~」とお礼を言ったら「・・・いや、今朝、自分で畳んでたで?」

と将来介護の覚悟を決めたかのような表情で教えてくれた。

そういえばそうだったような、くらいの記憶しかないのがまた恐ろしい。

このままいけば10年以内には歯も抜けるかもしれない。

順調すぎて、怖い。老いじゃないところで使いたい言葉ではある。

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