第16話『本日、貸切』

『本日、貸切』


仕事帰り停留所でバスを待つ。

時間通りピッタリにバスが来た。


早く身体を休めたくて急ぎステップに乗り車内に入る。

中は誰も居なくまるで貸切のようだった。


丁度いい。


自分は終点までなので気が大きくなって一番後ろの横広い座席の真ん中に腰掛けた。

タイミングよく発車するバス。


揺られる中疲れていたのかすぐに寝落ち。




「お客様終点ですよ」


帽子を目深に被った運転手に肩をゆすられて目を覚ます。


「ああ、すみません」


寝ぼけ眼で運賃を入れてバスを降りた。


降りる際に運転手が「お疲れ様でした」と言ってきたので、


「ありがとう」


そう返した。



暗い夜道に消えていくバスを見送って、



「ようやく──ゆっくりと身体を休めるな」


降りた停留所から、バスが向かったのと反対の道を歩いていく。



そう。


自分はやっと人生の仕事を終えたのだ。



降りた停留所の名は──



『黄泉の国入り口』

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短編詩小説 伊上申 @amagin

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