バラボア国王との謁見 2
……グレアム様に会いたいです。
次の日、わたくしはどうしようもない寂寥感とともに目覚めました。
グレアム様に甘やかされる夢を見たからでしょう、ものすごく会いたくて会いたくて仕方がありません。
「体調が優れませんか? それとも、寝付けませんでしたでしょうか? 夢見がよくなる香をたいたのですけど、体質に合わなかったですか?」
わたくしの身支度のためにいらっしゃったファティマさんが、わたくしの顔を覗き込んで心配そうな顔になりました。
いけません。ファティマさんを心配させてしまったようです。
「いえ、大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」
グレアム様の夢を見たのは、そのお香のおかげかもしれませんね。本当に幸せな夢だったのですよ。ただ、起きたときに、いつも隣にいらっしゃるグレアム様がいらっしゃらなくて寂しくなっただけです。
……わたくしはどうにも甘ったれでいけません。しっかりしなくては。帰るための方法はわかったのです。不安ではありますが、何もわからない状況からは一歩前進したのですもの、どうにかして風竜様を目覚めさせて帰るのですよ!
風竜様がどうすれば目覚めてくださるのかが一番の難問ですが、とにかく、何とかするしかないのです。
バラボア国では、クウィスロフト国の周辺の言語を操れる方が非常に少ないらしく、ファティマさんは今日の国王陛下との謁見でも通訳についてくださるのとことです。頼もしいです!
……これで言語問題は解決なので、風竜様を目覚めさせるにはどうすればいいのか情報収集しなくては。こういう時に頼りになるグレアム様もガイ様も……一応情報通のドウェインさんもいらっしゃいませんから、自力で何とかせねばなりません。
ファティマさんによって、バラボア国の衣装なのでしょう、ファティマさんが着ているのと同じような白い布が体に重ねられてベルトで止められます。布を重ねてベルトで止めただけなので、ベルトを外すとあっという間にはだけてしまいます。
……でも、心もとないですが涼しいです。これはこれで理にかなっている衣装なのでしょう。
頭にも白い布で作られた帽子のようなベールのような不思議な形をした被り物をつけられます。
ほかにも、首や腕などに、じゃらじゃらとアクセサリーが付けられました。
足元は編み上げのサンダルです。
朝食の後で国王陛下に謁見するのですが、この衣装を着せられたということは、バラボア国ではこの衣装が正装なのでしょう。
ファティマさんがベルを鳴らすと、数人の女性が食事を運んできました。
……朝からたくさんですね。さすがに鳥の丸焼きは食べられませんよ。この緑色のスープと、お皿のように平らなパンだけでお腹いっぱいになると思います。
わたくしが、どーんと目の前に置かれた鳥の丸焼きに気後れしておりますと、ファティマさんがナイフとフォークで手早く鳥の丸焼きを取り分けてくださいました。ええっと、中にはご飯が詰まっているみたいです。
……美味しいです。美味しいですが、本当に食べきれません。昨日、ファティマさんが軽食と言って用意してくださったのでも多かったのに、これはさすがに多すぎです。お腹がはちきれてしまいます。
「ファティマさん、その……ご用意していただいて申し訳ありませんが、わたくし、どんなに頑張っても全部食べられないと思います。限界まで頑張ろうとは思うのですが……」
するとファティマさんは目を丸くしてくすくすと笑いだしました。
「残していただいていいのですよ。残したものは、使用人に下げ渡されるので、いつもこのようにたくさんの食事が用意されるのです」
「そ、そうなのですか?」
使用人の方々はわたくしの食べ残しでいいのでしょうか?
そういうことであれば無理はしませんが、食べ残しを人に差し上げると思うと申し訳なくなってきてしまいます。せめて一緒に食べてくださればいいのですけど、それがバラボア国の風習だと言うのなら余計な口ははさめませんし。
ファティマさんはわたくしの食事の様子を見ながら、食事を取り分けたり、お茶を入れてくださったりしてくださいます。
「そろそろデザートにいたしましょうか」
わたくしのお腹が八割ほど膨れたところで、ファティマさんがデザートのミルクプリンを取り分けてくださいました。こちらも大きなお皿でご用意されていたので、全部は食べられませんからね。
わたくしがデザートを食べ終わりますと、テーブルの上に並べられていた食事が下げられて、食後のお茶が出されました。
朝からたくさん食べましたが、どれも美味しかったです。
でも、たぶんこの歓待は、わたくしが「竜の巫女」とやらだからですよね。
ここまでご親切にされて、何もできませんでしたとは言えません。
三十分ほど休憩をした後で謁見だというので、わたくしは気合を入れることにしました。
成り行きでバラボア国に来ることになりましたが、こうなれば腹をくくりますよ。
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