歓迎パーティーは切ないです 3
「難しい顔をしているな」
パーティーを終えて、メロディに寝支度を整えていただいてベッドにもぐりこみますと、先にベッドにいたグレアム様が読んでいた本から顔を上げました。
この本は、魔術具研究所でお借りしてきた本だそうですよ。
わたくしを腕に抱きしめて、ちゅっと額にキスをしてくださいます。
「疲れたのか?」
「いえ、そうではないんですが……」
パーティーではただ座っていただけですもの。それほど疲れてはいない、はずです。気疲れはしたかもしれませんが、疲労困憊というほどではありません。
すりっとグレアム様に甘えるようにすり寄りますと、グレアム様がもっとぎゅっとしてくださいます。
……ルイーズ様が気の毒だとか、わたくしがそんな風に思うのは失礼かもしれません。そして、ルイーズ様を見ていると、もしグレアム様に他に想う方が現れたらどうしましょうと、そんなことを考えてしまったなんて、口が裂けても言えませんもの。
グレアム様は、とってもお優しくて才能豊かでかっこいい方ですので、すっごくおもてになると思うのです。
ブレーメの町のファシーナ女王陛下の例もありますし、いつ、他の女性の方にアプローチされるとも限りません。
どうしてわたくしなんかを愛してくださるのか今でも不思議で仕方がないのです。だからでしょうか、もしグレアム様に「別れてくれ」と言われたらと思うと、想像するだけで心が凍り付いてしまいそうになるのです。
……ルイーズ様を見てそんなことを考えたなんて、ルイーズ様にもグレアム様にも失礼です。いい加減、こんなマイナスな考えは頭から追い出さねばなりません。
グレアム様が優しく頭を撫でてくださいます。
すごくすごく安心するので、嫌な考えはそのうちどこかへ消えてくれるでしょう。
「明日はどうする? 俺は特に予定はないが、町にでも降りてみるか?」
「そうですね……。あ! 王妃様が、明日から三日間、骨董市が開かれるとおっしゃっていましたよ」
「骨董市か。……なるほど、それは面白そうだ」
意外にも、グレアム様が食いつかれました。
骨董品に興味がおありなのでしょうかと首をひねっておりますと、嬉しそうににこりと微笑まれます。
「ああいうところには、古い時代の壊れた魔術具が出品されることがあるんだ」
なるほど、納得しました。
グレアム様はぶれませんね。
ですが、グレアム様が楽しめるのであれば、もちろん異論はございません!
「では、明日にでも骨董市に行きませんか? 明後日は王妃様にお誘いいただいているので、あまりゆっくりできないと思いますし」
王妃様からお茶会にお招きいただいたのです。お茶会と言っても、王妃様とルイーズ様、それから末姫のミシェル様だけのお茶会とのことでした。大勢だとわたくしが気後れするだろうとお気遣いくださったようです。
「茶会か……」
「明後日はグレアム様もお約束がありましたよね?」
「ああ。ドニ殿下に、空気を冷やし循環させる魔術具を見せてもらう約束をしている」
「楽しみですね!」
「ああ。分解はできないが、魔石のバランスや魔術の紋などは目視でもわかるだろう。購入することも交渉したんだが、まだあれ一つしかないというから仕方がない」
なんと、すでに購入できないか交渉していたんですか!
魔術具はとっても高価ですのに……いえ、グレアム様はびっくりするほどお金持ちですから、魔術具を買うのもなんてことないのかもしれませんが、普通は予算を確認してしっかり吟味するものだと思うのですけどね。
……鳥車も「ほしい」という理由であっさり買っちゃいましたから、今更ですけど。
デイヴさんも、魔術具や魔石に関連するもののグレアム様の衝動買いには諦めモードですからね。
魔石については、希少な闇や光の魔石も手に入れることができる場所を発見しましたので、もう購入することはないと思いますけど。
「大丈夫だと思うが、メロディをそばに置いておけよ」
「はい。お茶会にはメロディもついてきてくれるそうですので」
お茶会の席にはつけませんが、お部屋の中で見守ってくれるとのことなので大丈夫です。
わたくしも、グレアム様の妻ですからね。外交ができなくならねばいけません。グレアム様は外交がお嫌いみたいですけど、スカーレット女王陛下が、次期クウィスロフト国の王にグレアム様とわたくしの子をつけるとおっしゃいましたので、子が生まれたあとは、嫌でも避けることはできなくなります。ですので今のうちに少しずつ覚えていくのです。
……まだ全然兆候がありませんので、いつ子宝に恵まれるのかはわかりませんけどね。
グレアム様が、わたくしの鼻先は頬、目じりに次々に口づけを落とします。
グレアム様と結婚式をして三か月が経ちましたもの。
わたくしも、これが合図だとわかるようになりました。
そっとめを閉じれば、唇がふさがれます。
ゆっくりと、優しくからめとりながら深くなっていく口づけに、わたくしの頭の中は、徐々にグレアム様一色で埋め尽くされていくのです……。
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