セイレンの襲撃 2
間で昼食を取って、再び桃色サンゴに魔力を注ぎ続け、地上では夕方と言える時間になったときのことでした。
「姫! なんか生えてきました‼」
ドウェインさんが爛々と赤い瞳を輝かせて興奮した声を上げました。
グレアム様も興味津々に桃色サンゴを覗き込みます。
ドウェインさんが指したところを見ると、親指の先ほどの小さな何かがぴょこっと飛び出していました。どうやらこれがキノコの赤ちゃんのようです。
小さいのに、しっかりアザレアピンク色をしています。サンゴが桃色をしていているので、ここだけ濃い色で浮き上がって見えますね。
なんとなく興味を引かれて触ろうとすると、ドウェインさんが慌てたようにわたくしの手首をつかみました。
「何をするんですか姫! 触って枯れたらどうするんです⁉ うっかりぽろっと取れちゃうかもしれませんよ!」
それは困ります! 見せていただいた絵と同じくらいまで成長させなければなりませんからね。
「わたくしの桃色サンゴにサンゴキノコが生えてきたと言うことは、ファシーナ様のサンゴも同じようにキノコが生えてきたでしょうか?」
「見てきましょう!」
ドウェインさんはキノコが関わるとフットワークが軽いです。
足取り軽く、しかも堂々と偵察に向かいました。
「……あれは、あわよくば両方生えていたら取り分が増えると思っている気がするぞ」
「もらう気満々ですね」
ドウェインさんにも困ったものです。これは勝負なのですけど、ドウェインさんはサンゴキノコさえ手に入れば関係ないのかもしれません。
ドウェインさんがいないと魔力が均一に流れているかがわかりませんから、わたくしたちは休憩しながらドウェインさんの帰りを待つことにしました。
「それにしても、本当にサンゴからキノコが生えるんですね」
「特殊な例だと思うぞ。普通は生えない」
「やっぱりそうですよね?」
そもそもキノコの発生に魔力が必要ということがおかしのですよ。何なのでしょう、サンゴキノコって。本当にキノコの仲間なんでしょうか。
「……まさか、混沌茸と同系統の魔物じゃないですよね?」
「その可能性もゼロではないかもな」
ひぃ!
嫌です嫌です! 混沌茸のように「ぐげげげげげ」とか言いながらあちこちを走り回る変なキノコなんてもう見たくありません。あの「ぐげげげげげ」は悪夢ですよ。夢にまで出てくるんです。城が混沌茸に占拠されたとき、わたくし本当に卒倒するかと思いました。思い出すだけで泣きそうです。
今回の新婚旅行中に同じ目にあいたくないので、ドウェインさんが火竜の一族の会議に出席している間に、グレアム様がドウェインさんのキノコの家の周りに結界の魔術具で頑丈な結界を張ってくださいました。もしあのキノコの家から混沌茸が溢れても、結界内にとどまってくださるのでお城までは占拠されません。
……結界内が混沌茸でぎゅうぎゅうになる危険性はありますが、お城が占拠されるよりはましです。混沌茸をドウェインさんにどうにかしていただく間、耳栓をして目隠しをして近づかなければ精神被害も防げます。
「うぅ……混沌茸と同類でも、勝負なのでこればかりは仕方がないです」
このまま成長を続けるとどうなるのか、想像するだけで怖いですが、勝負ですから逃げ出すことはできません。
わたくしができるだけ妙な想像をしないように頑張っていますと、ドウェインさんが戻ってきました。
「あっちのサンゴにはまだサンゴキノコは生えていないようです。それどころか、注がれている魔力量も姫の半分ほどですね」
「見ただけでそんなことまでわかるんですか?」
「姫は魔力感知が得意なのにわからないんですか?」
「……すみません、このサンゴはよくわかりません」
魔物や魔石、人や獣人が発する魔力はわかるのですよ。でも、どうしてでしょう、目の前のサンゴキノコはよくわからないのです。
首をひねっていると、グレアム様が「自分の魔力だからな」と言いました。
「自分の魔力は感じ取りにくいんだ。普通、自分の魔力が外にある状態というのはあまりないからな。魔石に吸収させるのとは違い、このサンゴが純粋にアレクシアの魔力を吸収しているのなら、アレクシアの魔力がそのまま蓄えられていると言うことになる。だからだろう」
なるほど、そういうことなのですね。では逆に、ファシーナ様が魔力を注いでいる桃色サンゴの魔力は、わたくしも感じ取れるということでしょう。
……ファシーナ様の桃色サンゴにキノコの赤ちゃんが生えていないと言うことは、今のうちに差を広げるチャンスですね!
「ドウェインさん、わたくし、もう少し魔力を注いでからお部屋に戻ります!」
「アレクシア、無理は――」
「姫、その意気ですよ‼」
グレアム様は心配そうですが、大丈夫です。わたくし、まだ余力があります!
早くサンゴキノコを大きくして、グレアム様と地上に帰るのです。
わたくしは拳を握り締めて気合を入れます。
あともうちょっとですよ!
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