祭壇の調査と炎のキノコ 3

 わたくしとグレアム様が昼食を食べ終えて一息ついたころ、ケントさんがやってきました。


 ……ケントさんの目の下の隈がさらに濃くなっていますよ。昨日は徹夜だったんでしょうか。


「ドウェインの言っていたものですが、見つけましたよ。百五十年ほど前……ちょうど火竜様がお眠りになった時代の王の息子が記した日記にありました」

「王の息子さん? つまり次の王の方ですか?」

「いえ、違いますよ姫。我らが一族の王は世襲ではありませんからね。その時の王の息子には王たりえる資格はありませんでしたので、ただの息子です」


 世襲じゃない王というのはなんだかとてもややこしいですね。火竜の王や姫と呼ばれる存在は、わたくしやジョエル君のように金光彩の入った赤紫入りの瞳をしている人がなるそうです。ですので、時代によっては王や姫が二人以上いたこともあったとか。その場合は年功序列で順位が決まるそうです。


 先代の王にも女の子が一人いらっしゃったそうですが、姫の力を顕現しなかったため、今は母親とともに暮らしているそうです。先代の王の時代に姫はいなかったため、先代の王のお妃様は姫ではなかったとか。


 ちなみに、王が誕生しないときも、姫が誕生しないときもあって、その場合は王の息子が一族のまとめ役になったり、姫がまとめ役になったりと、もっと複雑なようで、その仕組みは聞いてもいまいち理解できませんでした。

 ケントさんは、発見した書物を見せるので一時間後に村長宅に来てほしいとおっしゃって、ちょっとふらふらしながら去っていきました。


 ……ケントさん、少し仮眠をとった方がいいと思いますよ。


 心配になっていると、入れ替わりでやってきたドウェインさんが、こちらはとっても元気そうに仕事を完了したと宣言なさいます。これからキノコを調理して楽しむそうです。


「あ、そうそう。ドウェインさん。村の出口から左に少し歩いたところに、炎のキノコをいくつか発見しましたよ」


 キノコを抱えてキッチンへ向かおうとしていたドウェインさんがすごい勢いで振り返りました。


「本当ですか姫⁉」

「は……はい。今朝のことなのでまだあると思います」


 食いつき方がすごすぎて怖いです。

 思わず隣に座るグレアム様の袖をぎゅっと握ってしまいます。グレアム様がわたくしをひょいと抱え上げてお膝に乗せてくださいました。


 ……ここは安心します。


 わたくしがほっと息を吐き出していると、ドウェインさんはキノコ調理をやめて、麻袋を持って家から飛び出していきました。

ドウェインさんも徹夜なんだと思うんですけど、あの元気は一体どこから来るんでしょうね。

 ドウェインさんが出ていくと、メロディに連れられてわたくしは二階の部屋に向かいました。


「メロディ、ちょっとお話に行くだけですよ?」


 わたくしはお散歩から帰ったままの格好だったので、ウエストを締めない楽なドレスを着ていました。このままでもおかしくいないと思うのですが、メロディに強く着替えを勧められて、おしゃれなドレスに着替えます。相応の格好をすることも礼儀なのだそうです。


「髪は下ろしたままでもいいでしょうが、サイドだけ編み込みますね」


 メロディが手早くわたくしの右サイドの髪を編み込んで、小さな髪飾りで止めました。


「メロディも一緒に行きますか?」

「いえ、わたしは家の細々したことをしておきますから」


 今回の旅行には、女性はメロディしか連れてきていませんでしたから、メロディにはいろいろ負担をかけてしまっています。

 お食事やお掃除、お洗濯については、ジョエル君が火竜の一族から人を貸してくださったのですけど、だからと言ってメロディが暇になるわけではありません。ジョエル君が貸してくださった方々のお仕事を配分したり管理したりと、大忙しなのです。わたくしもお手伝いしたいのですけど、わたくしは下働きのお仕事は経験があるのでできますが、人を動かすことはできませんので全然お役に立てないのです。

 メロディはとっても働き者なので、とてもてきぱきとしているのですけど、少しは息抜きをしてほしいなと思ったりします。


 ……マーシアが一緒に来られなかったのが痛いですね。マーシアがいれば、メロディも楽だったのでしょうけど。


「はい、奥様できましたよ」

「ありがとうございます。メロディ、出かけるまでまだ少しありますし、グレアム様のお支度はロックさんがお手伝いなさると思いますので、時間までお茶にしませんか?」


 せめてゆっくりとお茶を飲む時間だけでも持ってほしいなとお誘いしますと、メロディがにこっと微笑んで頷いてくださいました。


「ではお言葉に甘えて」


 わたくしの面倒を見てくださる方を置くのは恐れ多い気がして、いまだにメロディとマーシアに頼りっきりですけど、メロディの負担を考えると、お一人くらいわたくしの専属を増やした方がいいのかもしれませんね。

 コードウェルに帰ったら、グレアム様にご相談して考えてみることにいたしましょう。




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