LISTENER HUNTER

kgin

第1話 冒険は今日も続く

 オレ、カゲイヌ!最強のライバーを目指して、10歳のときから世界中を旅をしてるんだ!故郷のナルトタウンを旅立ってから25年、いろいろな枠を見てきたけど、やっぱり配信の世界は奥が深いなあって今だに思う。今日もより多様な、よりたくさんのリスナーを捕まえるために、オレは旅を続けている。


 胸まである草をかき分けて林を出ると、長い一本道が続く広大な草原へ出た。遠くに、険しい山脈と天まで届きそうな入道雲が見える。日差しから、夏の訪れを感じるような快晴だ。今日は、土曜日。リスナーを捕まえるには絶好の環境だ。オレは、慎重に周りを見渡しながら足を進めた。そのときだ。



[やせいのチュービー がとびだしてきた!]



「お! 今までにゲットしたことないリスナーだ!」


 オレはリスナーボールを持って身構えた。


「こんかげ! 物書きをしている犬、カゲイヌです!」


 よし!初見挨拶!決まった!これでゲットしやすくなるはずだ!



[やせいのチュービーは かげぶんしん をした!]



「なんだ!? チュービーとVチュービーの二人に分身した!? まさか……サブ垢か!」


 ええい、それならサブ垢もろともゲットしてやる!


「明日、大喜利枠やるんで、よかったら遊びに来てくださいー!」


 オレは両手にボールを持って、スポーツテストのソフトボール投げで2mを記録した腕を生かして、思いっきりボールを投げ放った。



[チュービー はライバーをフォローしました]

[Vチュービー はライバーをフォローしました]



「よっしゃ!ゲット!」


 やや力業だったけど、フォロワーが二人増えた。今日は幸先がいいなあ。昨日親からもらった仕送りで、ちょっといいボール買っておいて正解だった。今日はこのまま、あの山を目指して旅を続けよう。


「物書きつながりのフォロワーが増えたくらいでいい気になってちゃいけないなあ」


 背後から蔵馬も驚く流麗な声が聞こえてきた。振り向くと、風にそよぐ金髪が夏の日にまぶしい、瞬きがうまくできない男がこちらを見据えていた。わずかに体が宙に浮いている。


「久しぶりだな。 かげさん」

「は、はやみん……!」

「そこそこフォロワーが増えたらしいけど、それでこの俺に敵うかな?」



[セルフじゅにくのはやみ がしょうぶを しかけてきた!]



「行け! せっち! いさく!」


 速水は間髪を入れずに二人のリスナーをけしかけてきた。この男の枠の特徴は、Tシャツの文字通り「いのち だいじに」。リスナー一人ひとりを大切にする配信スタイルで、同じライバーからの支持もあつい。


「負けるな! ひろぽ~! アニキィ!」


 それに対してオレのスタイルは、朗読枠で滑りちらかして心折れた、雑な雑談スタイルだ。この方針で果たして絵師とライバーとリスナー、三刀流の速水に勝てるのか……?手に汗をかきながら、癖の強い二人のリスナーをくりだした。こうなれば、先制攻撃しかない!オレは、二人に小声で指示を出した。



[ひろぽ~ は ぽぬ~ん とコメントした!]

[あにき は おゆ をのんだ!]



「くそっ! 思い通りの反応をしてくれない! ライバーの言うこと聞いてくれよ!」

対してせっち!といさくは、速水が指示せずともライバーの意図を汲んだように攻撃をしかけてくる。



[せっち! は いつものように ごじコメントをした]

[いさく がパイ(500pt)を こかんに なげつけた!]



[あにき は ごじにこんらんした!]

[ひろぽ~ は ぽぬ~ん とコメントした!]



「まずい! アニキィの顔が(›´-`‹ )になってる! 普段の仕事の疲れが出たんだ!」

「ははは! どうしたかげさん。 素面だとそんなもんなのか。 あ、ちょっと待って、立ち絵が」


 速水はだんだんと浮かび上がって、目線の位置には股間しかない。それを見て相手のリスナーは爆笑している。このままでは、速水の枠ばかり盛り上がって、うちの枠はあがったりだ。兄貴は視聴不能になってギフトがとばない。ひろぽ~にはこれ以上課金はさせられない。この状況で速水に勝つ方法は…これしかない!オレは、鞄からひろぽ~の大好物のキャベツさん太郎を取り出した。


「ひろぽ~! これあげるから、例の話題! コメントで、頼む!」



[ひろぽ~ は ドラクエしたいな とコメントした!]

[せっち! と はやみ はくいついた!]


「そしてオレはすかさず……。 いさくー、実は昨日の配信で性癖の話をしてたんだけどさ」



[いさく はくいついた!]



 盤石に見えた速水たちだったが、的確な話題選びとこまやかな話の振り方で、こちらの話に食いついた。勝機!ここでたたみかけるぞ!


「じゃあ、今からカゲコがお歌を歌いまーす!」



[せっち! と いさく はキラコメ をおくった!]

[もりあがりスコアが 10000 をこえた!]

[はやみ とのしょうぶに かった!]



「よし! やったぞ!」

「くぬぬ、仕方ない。 ほらこれをあげるよ」



[カゲイヌ は しょうきんとして 26ダイヤ をてにいれた!]



「いい勝負だったな、かげさん。 また次のイベント、一緒に走ろうね」

「もちろん! はやみんはオレの永遠のライバル?だよ!」


 そう言って、オレたちは熱い握手を交わした。汗ばんだ額に、山からの風が気持ちいい。


「帰りに麦酒でも飲んで帰らない?」

「いいよ、かげさん。 コラボ配信ってやつだね」

「昼間から仲間と飲む酒はうまいのよ!」

「そうね」

「そうよ」


 しばらく行くと、ひまわり畑があって飲むにはちょうどいい。事務所勢の推しさんの配信でも聞きながら、配信談義に花を咲かせるのもいいだろう。オレたちは、リスナーのみんなを連れて、歩き出した。



[ほんじつの はいしんは しゅうりょうしました。 じかいも よろしくね☆]

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