探しもの

ゆみか

第1話 探しもの


   暗闇を手探りに点す電球は

   一時しのぎの30ワット


   

   おもちゃ箱をひっくり返して探しても 

   みつけだせない素直な私


   

   雨がそぼ降る夜の最終バスなれば

   傘持たぬ人も4、5人座る





若い頃、23歳頃から短歌を作っていた。

きっかけは小説家になりたくて拙すぎる小説っぽいモノを書き散らして、高校の先生に見てもらったら、文章推敲と鍛錬の為に俳句か短歌を作ってみてはどうか、と勧められ言うとおりにしてみた。

雰囲気だけ現代短歌を作ってみたら、高校の先生が

これが合ってるのでは、と言ってくれたので、

小説はやめてしばらく自己流で短歌を頑張ってみた。


28歳で結婚、故郷の福岡市から夫の住む

東京近郊へやってきた。

そして1年8ヶ月違いの、学年は年子となる2子を出産。2人とも見目の良い夫似のかわいい女の子。

システムエンジニアの夫は残業や休日出勤、時には会社に泊まりで詰めているほど仕事が忙しく、

ワンオペの育児。忙しく目まぐるしく日々は

過ぎたけれど、関東には知人友人もおらず、

毎日話し相手もいなくて私はとにかく寂しかった。

夫しか話し相手はいないのに、ほとんど不在。

休日は疲れている夫を無理やりせっついて、

月に1度程だが食事や買物に連れて行かせた。

本当に寂しくて寂しくてたまらなかった。

31歳の時、寂しさの救いを求めるように短歌の結社に入った。

夫に頼みこみ子供2人を見てもらい、第3日曜日だけ回数は4、5回だろうか、結社の合同歌会に参加した。新大久保まで出かけた。

地方出身で、社会経験も少く、専業主婦で、

もともとが思い込みが激しく感情がすぐ表情に

出るようなわがままな性格であったため、

人には馴染まなかった。名だたる歌壇の先生とも接する機会があったと言うのに、馴染むことが出来なかったばかりか、ひんしゅくを買うような発言か

行動をとるしか出来なかった。

それでもその世界にほんの少し足を踏み入れただけで、短歌の魅力はその後も私の中に折々に

芽吹いて、私を勇気づけもした。

肝心の歌作の方は、子供を保育園に預け仕事をするようになった32歳から数年後には、ほぼ出来なくなった。

結社に属したのはわずか2、3年であった。


仕事をするようになって、職場の同僚と

入れ代わり立ち代わり仲良くなった。

話し相手は出来た。遊び相手も出来た。

寂しさは子供たちが生まれたばかりの頃より

大分薄くなった。


現在下の子は結婚して家庭を持ち、独立した。

上の子は家にいて仕事は3年毎位で転職を

繰り返していて、子供部屋おばさんになりつつあるが、いずれもっと老人となる私と夫の面倒を見る気はさらさら無さそうであり、いつか独立するだろう。

最近、あの頃ほどでは無いにしても、寂しさを強く感じるようになってきた。

老後のこと、お金のこと、仕事のこと、様々に

不安であったり思うことが無数にあるのに、

話し相手はいても、思いの丈を話したり

ぶつけることは出来ない。

聞き手に負担を与え過ぎるため、話題として適当ではないからだ。

吐き出せない思いはため息とともに石となり、

胸の中に沈む。投げ込まれ続けた石は

すでに身動きを阻む程重い。


吐き出せない思いが寂しくなり辛くなり、

寂しさから逃れたくて探す。

探しものはいつかみつかるのだろうか。



 


  ちぎれ雲手を振るかたちに浮かぶ朝

  故郷のははよ会いたかりけり




  
















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