竜殺し編・焔喰らう竜
第一話 変らぬ日々
目が覚めるといつも通りの天井が見えた。
少ししてスッとベットから体を起こすと、いつも通り服を着替え二人分の朝食を作りテーブルに並べる。
「春姉、朝食できたから起きて……」
朝食をテーブルに乗せる中、閉じた扉に向ってそう言った。すると、しばらくして気怠そうにした黒髪ロングの女性が部屋から出てきた。
「んぅっ、あっ~はぁ……おはよ、叢真ちゃん」
「おはよう、春姉」
まだ眠たげに瞼を擦りフラフラとした足取りで朝食の並べられたテーブルに近づき、椅子に座った。
「「いただきます」」
俺と春姉は手を合わせて朝食を食べ始めた。
「春姉、テレビつけてもらっていい?」
「ん」
ハムエッグを頬張りながら頷くとテレビのリモコンのスイッチを入れた。
『えー、今日で星災から五年、未だに残る災害の爪痕は――」
「あ、そうか……今日で五年か」
テレビに映った映像を見て今日が何の日かを思い出す。
五年前、突如として飛来した隕石。それ自体は然程の被害はなかったが、隕石の落下直後、立て続けに災害が発生し多くの人間が死んだ。
現在に至るまで大きな爪痕を残した星災。今でも崩れた建物を見かけるし、陥没している地面や断層しているところもあった。そして、隕石の影響か度々、放射線問題が発生しているとニュースがあった。
この街に住む人間の多くは、大切な人間を無くしている人が多い。
俺、
今は兄と、親戚で同じく災害で両親を失った
そんな星災は
「ねえ、兄ぃは?」
「兄さんはしばらく戻って来ないってさ」
「えー……」
春姉がとても残念そうに唸る。
「仕方ないって、兄さんはあれで結構忙しいから。机に今月分のお金と置手紙があった」
「むー、叢真ちゃんは大人すぎだぞー」
手を伸ばして頬を突いてくる春姉、俺はその手を払い除けて呆れたような声を漏らす。
「春姉はもう少し大人になってくれ、俺も、もう子供じゃない。過保護も結構だけど、いい加減そのブラコンは直してほしい」
「そんなこと言って、嬉しいくせにぃー」
「そんなんだから兄さんには、呆れられるばかりで真面に相手にされないんだよ」
ツンツンと頬を突いてくる手を再び払い除けそう言った。
「だから代わりに叢真ちゃんを可愛がってるのよ」
「結構なんだけど?」
「遠慮しなくていいし、遠慮しても無理やりするし」
「横暴――」
そんなくだらないやり取りをしている内に学校へ行く時間となった。俺は自身と春姉の分の食器を洗い、片付けるとカバンを持って玄関に向った。
「春姉、俺は先に行くから、学校、遅れないでよ?」
「ん~、わかった。行ってらっしゃい~」
「行ってきます」
春姉に見送られながら俺は学校へ向かった。
しばらくして学校に到着、自席に着き一息ついたところで聞き覚えのある声が耳に響いた。
「おーすっ! はよ、叢真」
「朝から元気だな、原崎」
「たりめぇだ。なんと言っても、俺の取り柄は元気だけだからな」
自信満々に胸を張ってそう言ったのは、
少し不良気味だが、性格は優しく人助けも率先してやる善人である。
「それはそうと叢真、今日提出の課題、見せてくれねぇか?」
手を合わせて懇願するようにそう言った。
「またか? まあ、別にいいけどさ」
「マジか! ヨッシャ、感謝するぜ」
大げさに嬉しそうにする原崎に少し呆れつつ、カバンからノートを取り出して渡そうとした。その時――
「いけませんよ、逆刃大君」
バシッとノートを分捕られた。
「あっ! 何すんだよ、早間」
「全く。大浜、君はもっと努力することを覚えるんだ。逆刃大君も、彼のような人間に易々とそういうことをしていると、何の成長もありません。慎んでください」
「――っ。ま、まあ、それもそうだけど……」
「全く君は……」
こちらを呆れたような目で見るのは、
別に悪い人間ではないのだが、言葉に棘があり人に嫌われやすいタイプの人物である。
「早間、マジ頼む! それ返してくれ!」
「君の物じゃないでしょうが」
「そうだとしても、俺にはそれが必要なんだ!」
「少しは努力することを覚えるんですよ」
眼鏡をクイッと押し、しっかりと駄目だと言い切る。その後も少し言い合いがあった後、原崎が実力行使をしようとしていたのでそれとなく止めておいた。
「まあ、努力することは大切だと思うけど。それ以前に最低限、提出しなきゃいけないものくらいは出さないとだめだろう。今回は仕方ない、ということにして今後の努力に期待するのがいいんじゃないか?」
「むっ――確かに、そうかもしれないですが……」
「流石、叢真はわかってるぜ!」
「あっ! なに勝手に取って、まだ僕は許してないですよ」
「時間がねぇんだよ、早速やらしてもらうぜ!」
早間の持っていた俺のノートをスッと奪い取ると、自身のノートを取り出し映し出し始める。ノートを写している時は何度も早間に叱られていたが、そこは俺の管轄内じゃない。
俺はガミガミと言い合う二人を見つめながら、暇そうに頬杖をついていた。
「おはよう、叢真君」
「ん?」
ボケーっとしていた俺にそう声を掛けてくる人物がいた。
「命里、おはよ」
その人物に顔を向けてそう挨拶を返す。
彼女は
「二人はまた喧嘩?」
「喧嘩、ではないと思うけど……まあ、喧嘩するほど仲がいいってやつじゃないかな?」
「違う!」「違います!」
こちらの会話を聞いていたのか、もの凄い勢いで二人は否定した。
「ああ、言ってるけど?」
「傍から見た意見で、当人がどう思ってるかは知らない」
「なるほど」
理解したという感じに頷いた。
「そう言えば、叢真君」
「ん、どうした?」
「いやね……誕生日、おめでと」
「……ああ、ありがとな」
顔を赤くしてそう言った命里に少しあと引く思いがありながらも、ありがとうとそう言った。
「あまり嬉しくないって感じだな」
「! ……白汰か」
俺の心情言い当てたのは、
「まあ、そうだな。今日は世間的にあまり良い日じゃないだろ?」
「そうだけど、別にお前が悪いわけじゃないだろう。気にすることないと思うけどな」
「心の持ちようだ。俺のせいとか、そんな話じゃない」
白汰は神妙な面持ちをしたまま、こちらをジッと見て小首を傾げた。
「ふ~ん……まあ、そこは俺のどうこう言える場所じゃないな」
「…………」
こちらの会話を聞いていた命里が、少し悲しそうな表情で俯いた。
「命里。言っておくけど、別にお前のせいでも――」
「わかってる。でも、やっぱりあの日は今でも鮮明に覚えてるもの……もう二度と起きてほしくない、今日みたいな平和な時間が続いてほしい……」
「そう、だな……」
少し、しんみりとした雰囲気になる。
彼女も俺と同じく、星災の日に両親を失った。それも――目の前で両親の死を見た。その場に俺も居合わせたが、五年前、まだ小学生だった命里にはあまりにも衝撃的な出来事だと思う。
当時、彼女はそのせいで心を病んでしまったことがあった。今は日常生活ができるほどに回復したが、それでも不意にトラウマがフラッシュバックしてしまうことがあり、急に倒れ込んでしまうことがある。
本当にあの日、星災が起きた日から、俺たちの人生は大きく変わった。
最悪な方へ舵を切って――
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