第21話



 

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 真っ暗闇の中に立ち尽くす少女。全方位を闇に囲まれて、幾ら走れど見えてくるのは闇ばかり。


 途端にその一方が光り出すと、彼女は吸い寄せられる様に光へと駆け出す。近づくにつれ聞こえてくるのは、彼女を呼ぶ親友の声。


 光への安心が確信へと変わり掛けた、その時だった。突如片足を何者かに掴まれた少女はあわや転倒というところで持ち堪えた。


 振り向いた彼女は自らの足を掴んでいる女の、焼け爛れた無惨な姿に絶句する。


 掠れた声は何を告げんとするのか。顔は伏せられたままでそれが誰なのかさえ判別出来る要素は無い。否、その正体を少女は直感していた。


 掴んだ足を支えに這い上がろうとしてくる女。その顔が視界に入るのを、少女は拒絶した。悲鳴と共に女を蹴り、振り解いた彼女は一目散に光へと飛び込んでいった。


満『ソノが目を覚ましたって!』


 その一報はすぐに通話アプリを介してチームへ共有された。仕事をほっぽり出し駆け飛んできた園恵の両親による付きっきりの介抱もあって、園恵が退院するまで数日と掛からなかった。


 彼女はその後休暇を取り、両親に連れられ実家へ帰宅。企業の洗礼を受けた後に職務へ復帰した七割の櫂無局の職員、そこに彼女が入る事となるかは時のみぞ知る。


 明るくおにぎりを頬張るその姿は暫く見る事が出来ない。玄凪は弁当の冷えたおかずに一抹の寂しさを覚えて、休憩室に電子レンジがあったら次からは温める一手間を惜しまず使おうと、冷たい白米を咀嚼しながらそう思ったのだった。


 そんな彼にとある仕事が舞い込んでくる。それはごく一般的な、仕事の悩みを相談したいという客からのもの。元は龍五が二つ返事で軽く引き受けたのだが、それは半ば強引に譲られる形で玄凪へ。


 盥回しにする訳にもいくまいと、玄凪は渋々それを引き受けた。


ミ「ちゃー。よろ……って、あれ? もし玄たん?!」


玄「あ、やっぱりミーたん!」


 依頼主は玄凪が通い詰めているメイド喫茶へ勤める、彼もよく知る女性だった。

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