第24話 やっぱりデート下手くそ勢

星梨セイナおばさまは?」


「町内会に呼ばれてった。夕方前には帰るってよ」


 フードコートで昼休憩を取る。夢希ムギと二人きりで外食なんて、いつ以来だろう?


「夢希は、何が食べたいんだ?」


「アジフライ定食。こういうところのアジフライとか、絶対おいしい」


 すっかり夢希は、海の幸のトリコになっちまっていた。


快斗カイトは?」


「オレはガッツリ、唐揚げ定食の中盛りだ。腹いっぱい食いつつ、ちょっと抑えようかと思うそ。夜店を回るからな」


 ラーメンもカレーも、海の家で食ったし。


「いただきます! ああ、うまい」


 公園で食った夢希の唐揚げも最高だったが、これもまた格別だ。付け合せのキャベツと食べると、無限に食えそうになる。


 夢希も、アジフライをサクッといただく。


「おふお。おいひいい」


 さすが、我が動画チャンネルで最大の再生数を誇る食べっぷりだ。ホントにウチは、食べる動画が人気である。なぜなのかと思っていたが、夢希の食事を見ているだけで、幸せてなってくるのだろう。オレがそうだからな。


「油がすっごい。その中に入っている旨味が、また」


 さっそく、オレたちはそれぞれのおかずをシェアする。


「はい。あーん」


 オレは、アジフライをかじった。


「ああ。お前の言いたいことはわかる」


「でしょ? 超おいしい」


 これは、メシが進んでしまうやつだ。油っぽいものは、やっぱり白い米でお出迎えスべきかなと思う。


「オレの唐揚げもどうぞ。あーん」


「あーむ」


 箸先ごと、夢希がオレの唐揚げを一口で詰め込む。


「いいのか?」


「いいの。ああ、おいしい! 下処理がいいのかな? 身が柔らかくて、でも衣が噛みごたえがあるから、独特の食感になってる」


 しみじみと、夢希が感想を述べる。


「だよな。田舎のショピングモールとは思えないクオリティだよな」


 ごちそうさまでした。夢希も幸せそうだ。


 ゲーセンに足を運ぶ。

 メダルゲームが、コイン落としとパチスロしかねえ。


「クレーンゲームをやろう」


「よし。このハンディファンなんてどうだ? 店売りだといいものを買おうとすると、二〇〇〇円以上する。クレーンで取ったら、ざっと二〇〇円だ。コスパが一〇倍も違う。


「やってみるぞ……お、よしよしあーっ!」


 奈落へ落下していくハンディファンのハコを見ながら、オレは崩れ落ちた。


「交代。わたしがやってみる……あ、いけそうあーっ!」


 夢希が、小さく悲鳴を上げる。

 コスパを重視したつもりが、余計な金を使ってしまった。


「まあいいじゃん。金魚すくいをニ回やって一匹も取れなかったって思えば」


「……だな」


 これ以上のムダづかいはできない。


 外に出て、動画を撮り始める。自然公園なら、クレームも来ないだろう。


「あと、デートっていったらなにをするんだ?」


「そういえばわたしたち、手を繋いだこともなかったのでは?」


「だよな!」


 なにをやっていたんだ、今までオレたちは。

 デートっつったら、手を繋いで歩くだろうが。


「電気街でも、やろうと思えばできた。しかし、思いつかなかった」


「でもあれは、デートじゃなくて遠出だったから、ノーカンだ」


 公園で歩こうにも、あのときは大雨が降ってしまったからな。


「じゃあ、改めて」


 オレは、夢希に手を差し伸べる。


「エスコートお願いしますっ」


 夢希が、オレの手を掴んだ。徐々に、握力を弱めていく。


 ちょうどいい手の感触になってきたところで、オレたちは歩き始めた。といっても、モールの外周だけだが。


「ただいまー。おっ。ふたりとも仲良くなったわね」


 迎えに来た星梨おばさんに、バッチリ見られてしまった。


 つくづく、オレたちはデート下手である。


 でもいいよな。こういうのも。

 試行錯誤しながら、相手がしてほしいことを手探りしていく。


 車の中で、オレの肩にもたれて眠る夢希を見ながら、オレはそう考えていた。

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