不要品と不用品

そうざ

Unnecessary Goods and Useless Goods

 不要品と不用品。貴方はこの違いを即答出来るだろうか。私に正解を知らしめたのは、二人の回収屋だった。

「フヨウヒンはございませんか?」

「フヨウヒンはございませんか?」

 同時に姿を現し、競うように同じ口上を垂れた段階で、この二人の関係には何かある、と直感した。

「フヨウヒンは……別にありませんが」

「不用品ではありません、不要品です」

「不要品ではありません、不用品です」

 馬鹿って言った方が馬鹿なんだからな、という雰囲気で視線を送り合う回収屋。

「不要品? 不用品?」

 今までちゃんと考えて来なかった。何が違うのだろう。

「必要性がない物、それが不要品でございます」

「用を成さない物、それが不用品でございます」

「今はどちらもありませんよ」

 ちょっと前に大掃除をして色々と処分をしたばかりなのだ。

「そちらは……不要品ではございませんか?」

 不要品回収の方が私の右肘を注視している。そこにあったのは小さな瘡蓋かさぶた。何処かにぶつけて出来た傷らしい。もうほとんど治り掛けている。

「瘡蓋は不要品に含まれるんですか?」

「はい、必要がなくなれば立派な不要品でございますよ」

「そちらは……不用品ではございませんか?」

 不用品回収の方が私の左肘を注視している。そこにあったのは小さな黒子ほくろ。いつの間にか出来たのか、それとも気付かなかっただけで昔からあったのかも知れない。

「黒子は不用品に含まれるんですか?」

「はい、役に立たなければ立派な不用品でございますよ」

「だけど、どちらも買い取ってどうするんですか? 転売するんですか?」

「ヘモグロビン同好会の方々がいらっしゃいますので」

「メラニン色素愛好会の方々がいらっしゃいますので」

 どちらも色形、大きさ等でランクがあるらしく、家一軒が買えるくらいの高額で取り引きされる事もあるという。

「因みに、私の瘡蓋と黒子はお幾らで買い取って頂けるんですか?」

 回収屋はそれぞれに私の腕を上げ、虫眼鏡で見たり、指先で触れてみたりと、品定めを始めた。

「……五円ですね」

「……五円ですね」

「たったの五円?!」

「持ち主の属性で算定が変わります」

「性別とか、年齢とか」

「出自とか、容姿とか」

「売りません」

 回収屋は顔を見合わせ、この人が売ろうとしない理由が思い付かない、という表情になった。

「どちらも私の大切な一部だし、個人DNA情報の流出は危険だし」

 私の言い分を聞いた回収屋は、やれやれという顔をした。

「あ!」

 そして一声と同時に私のTシャツを捲り、お腹をあらわにさせた。

「まさか、おへそもフヨウヒン?」

「いえいえ、その下です」

 回収屋は私のジーンズを軽くずり下げ、虫眼鏡で観察を始めた。臍の下の方、陰毛に隠れるように瘡蓋のような黒子のような不定形な点があった。

「何だ、メラノーマか」

「何だ、悪性黒色腫か」

 回収屋は顔を見合わせ、拍子抜けの反応を示した。

「メラノーマって? 悪性黒色腫って?」

「皮膚癌です」

 回収屋が声を合わせた。

「うちは取り扱っていませんので」

「うちも対象外のお品物ですので」

「じゃ、帰ろっか」

「うん、そうしよ」

 回収屋は手を繋ぎ、スキップをしながら去って行った。実はそういう関係らしい。仲良き事は美しき哉。

 さて、皮膚科にでも行くか。

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不要品と不用品 そうざ @so-za

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