筆記試験は裏技で

 さぁーて、どうしようか。


 冒険者ギルド近くの木にテレポートしつつそう考える。


 一応ゲームだったら、この後王様の所に行ってなんか「お前は勇者だ! だから魔王の軍勢を討伐してきてくれ!」的な事を言われる展開があるんだけど……


 別に行かなくても良いらしいから行きたくないんだよね、なにより面倒くさいし。


 それに魔王の軍勢って放っておいても別に問題は無いし。


 だからプレイヤーとかはみんな自分の職業ジョブを極めたり、新しく作ったりして楽しんでる訳だし。


 因みに俺の職業は『ランナー』っていうやつだ。


 この職業はかなーり足が速くなって蹴りも強くなるっていう職業だ。


 足が速い方が移動早くて裏技を見つけやすかったからね。


 んで何で冒険者ギルドに向かったかの理由だけど、普通に冒険者カードとか身分を証明できるのがあるとこの先結構楽だからだ。


 テレポートが終わり、木からヌオォっと飛び出す。


 よっしゃあ! ちゃんとテレポート出来た!


 裏技バグ最高!


 さてと、とっとと冒険者カード作ってクエストでも受けよう。


 扉を開け、受付嬢の元へ行く。


「すいませーん」


「何でございましょうか?」


「冒険者になりたくて……」


「試験がありますので、この書類にサインをしてから左手側の通路を真っ直ぐ行ってください、そこが試験会場です」


「分かりましたー」


 ほぉ、やっぱりこっちの世界でも試験あるのか。


 パパッとサインをして試験会場におもむく。


 試験会場には意外と人がいた。


「ではこれより、冒険者ギルドによる試験を行う!」


 おー、試験官もインワドと同じ人だ。


「内容は筆記試験と実技試験の二つだ!

まずは筆記試験をやってもらう。

冒険者になるには当たり前のことが問題だ」


 へー、インワドでは筆記試験についての説明はなかったな。


 はぁ〜、微妙にインワドの時と違うの少し怖いなぁ〜。


 ストーリーが大幅に変わったりするとこの知識あんま役に立たなくなっちゃうからね。


 椅子と机が何個かある場所に案内され、机の上には紙が伏せて置かれていた。


 全員が座って少しの間静寂せいじゃくが訪れる。


「では……始め!」


 そう試験官が言うと一斉に紙がめくれる音がしてその後カリカリと紙に文字を書く音が聞こえる。


 ふぅ〜、んじゃ、やりますか。


 紙をめくって、伏せる。


 そんでまためくる。


 うん、分からん。


 インワドではこんな問題じゃなかったぞ。


 何だよ『ドラゴンの鱗の強度』って。


 すんごい硬いって事しか分からねぇよ!


 ……はぁー、仕方ない、裏技をやるか。


 紙を伏せてパタパタと仰ぐ。


 そしてめくって置いてあるペンのインクを紙の中心に垂らしてまた伏せる。


 そしたら垂らしたインクが全体に馴染むように机にグリグリする。


 ……おぉう……試験官からの目が痛いですわ……。


 試験用紙にデコピンをして、再度めくる。


 そしてインクが全体に広がった紙に手を置き、フッと力を込めると……


「試験官、終わりました」


 回答が書かれた状態になる。


「な、何が起こってるんだ……?」


「あ、ありえない……」


 周りから驚愕きょうがくの声がする。


 もちろん試験官からも。


「そんなバカな……君は紙にインクを垂らしたりしてただけ――なっ!? 本当に出来ている……!」


 ふーはっはっはっはっ! 裏技使えば試験なんて楽勝だぜ!


 うし、じゃあ俺はさっさと実技試験に――。


「私も終わりました」


 そう言って手を上げたのは同年代くらいの黒髪の少女だった。


 ……マジで!? 正規ルートでその速度!?


 化け物や……化け物がおる……。


 多分プレイヤーの中でもかなりの上位行けるで……。


 あれ? というかあんなNPCいたっけ?


 一応NPCもフル暗記したはずだったんだが……。


 まあ問題も違ったからNPCも変わるか。


 ……これもしかしてだけどヤバくね?


 俺のストーリー知識が完全に役に立たなくなる可能性があるし、もしかしたら特定の裏技が機能しなくなるかもしれない!


「そ、それでは二人には先に実技試験を受けてもらう。内容は……少し場所を移そう」


 あっ、そうだった今試験中だった。


 実技試験会場に行った俺たちは説明を受けた。


 赤スライム、青スライム、黄スライムの三種類を、今日の夜12時までに討伐して素材を持ってこいというものだった。


「では始め!」


 そう試験官が言ったと同時に、彼女は駆け出し、俺は地面を掘り始めた――。

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