第6話 邪神ちゃんの贈り物

 メルを連れて帰ってきたフェリスは思い悩んでいた。

 それというのも、メルの服装が貧乏な村によくあるみすぼらしい格好だったからだ。自分の服もおしゃれとは言えないが、眷属にするならそれなりの服を着させてやりたいものである。じわじわと庇護欲の湧いてきているフェリスなのである。

「そうと決まれば、メルの服を作りましょう。あたしに仕えるというのなら、それなりの服を着てもらわないとね」

「え、え、え、そんな恐れ多いです!」

 メルが慌てふためくのを無視して、フェリスはメルの着ている服を引っぺがした。下は肌着を着ているので問題ない。

「わわ、フェリス様。何をなさるのですか」

「黙って見てなさいって」

 フェリスはメルを椅子に座らせると、靴も脱がせた。そして、服と靴に魔法を掛けていく。

(邪神だから派手というわけにもいかないし、この村の雰囲気とも合わせた方がいいかしらね。となると、……こんな感じかな)

 フェリスが魔法を使うと、服が光ってみるみると形状が変わっていく。元の面積より大きくなったような気もするが、そこは気にしてはいけない。

 魔法による変化が終わると、メルが着ていた布のワンピースと木の靴が材質まで変化して、まったくの別物へと変わっていた。この物質の変化こそ邪神たる力の一つなのだ。

「うわあ……、きれい」

「あたしの姿と色はお揃いにしておいたよ。さすがにこの服装と同じは無理だけどね」

「あ、ありがとうございます。私の宝物にします」

「いやいや、普段から着ててほしいわね。それしかないでしょう?」

「はっ、そうでした!」

 メルがはわはわ慌てる姿に、フェリスは額を押さえて呆れていた。

「とりあえず、それに着替えてくれ」

「はい、分かりました」

 メルはフェリスが用意してくれた服に着替える。よく分からないところはフェリスに聞きながら、どうにか着替える事ができた。

「ど、どうでしょうか」

「うん、よく似合っているわ」

 メルの服装は、メインはノースリーブの白のワンピースだ。腰には赤いリボンが付いていて、それで腰部分が絞れるようになっている。それに黒いタイツとなぜか革に変質した赤色のミドルブーツを履き、腕には黒いアームカバー、頭にも赤いリボンを付けている。元の服よりも明らかに面積が増えていた。

「あたしの魔法の加護を付けておいたから、汚れる事も破れる事もないわよ。後は体の成長に合わせて変化するようにもしておいたから、それ一着でずっと過ごせるわ」

 なんともまあ、至れり尽くせりの機能まで付けていた。さすがは邪神、信奉者の心はがっちり掴んで離そうとしないのである。

「はわわわわ……、こんな素晴らしい物、恐れ多すぎます。このご恩をお返しできるなんてできるのでしょうか」

「うんうん、無理に返そうなんて思わなくていいわよ。あたしの側で適当に相手してくれたらいいから。数100年の間、ずっと一人だったから退屈しのぎになるわ」

「数100年……、フェリス様、一人で寂しかったのですね」

 フェリスのふと漏らした言葉に、メルがフェリスの手を取ってうるうるとした目を向ける。

「分かりました。これからは私が精一杯フェリス様のお相手をして差し上げます。フェリス様はお可愛いのですから、笑顔の方が似合っています」

「い、いや。そんな憐れむような目を向けないで。あたしは邪神として存在してたし、一人だって平気なんだから……。頼むからそんな顔を向けないで!」

 割と本気に憐れみを向けられたフェリスは、必死に抵抗する。しかし、せっかく手に入れた(未契約だけど)眷属なので、力強く手を振りほどく事もできなかった。ちなみにその顔は真っ赤である。

 そんなこんなでいろいろあった二人は、昨日の差し入れられた食事を食べる。いくら腐らないように保存の魔法を掛けていたとはいえ、少し冷めてはいた。しかし、そこは邪神の力でほんのり温める事ができたので問題はなかった。

「さて、昼からは村を案内してもらおうか」

「はい、フェリス様」

 フェリスが前を歩き、その少し後ろからメルがついて行く。従者は基本的に主人より後ろである。村育ちのメルなので、そういう知識は持ち合わせていないはずである。しかし、自然とそういう行動を取ってしまう気持ちは持っていたのだ。

「フェリス様、そちらは村の広場ですね。先日の宴が行われた場所でございます」

「おお、そうか」

 フェリスが何気なく広場を見ると、何やら中央に人だかりができていた。

「ん? 何あれは……」

「さあ、どうしたんでしょうかね、皆さん」

 気になったフェリスたちが人だかりへと近付いていく。すると、村人が数人フェリスたちに気が付いたようである。

「おお、天使様。今日もお綺麗でございます」

「あら、そっちの子は牧場のウッカのところの娘のメルちゃんじゃないのかい? 服が変わってて一瞬分からなかったわ」

「はい、フェリス様から頂きました」

「そうなの、よかったわね」

 村人たちが会話している間、フェリスは人だかりの中心の方へと視線を向ける。そこには何やら布に包まれた、よく分からない物体が建てられていた。結構な高さがある。

「これはこれは天使様。実はこの村の新たなシンボルが完成したのでございます」

「へえ、そうなのね。一体何のかしら」

「それは見てのお楽しみでございます。ささっ、天使様もそちらの紐をお持ち下さい」

「えっ、こう?」

 村長から紐を渡され、訳も分からず手に取るフェリス。

「まさか呼びに行く前に天使様ご本人からお出ましになられるとは、わしは感動で打ち震えておりますぞ。ささっ、一斉に紐を引いて下され」

 男衆が掛け声とともに紐を引っ張る。フェリスも訳が分からないまま紐を引っ張る。

 そして、そこから現れた物体に、フェリスは顔を引きつらせる事となった。

「な、なんじゃこりゃあ~っ!」

 フェリスの叫び声がこだました。

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