第2話 もふもふ天使、爆誕
呆気なくボアの群れを倒してしまったフェリス。その土埃が立ち込める風景を背後にドヤ顔を決める姿は、どういうわけかとても神々しかった。邪神なのだが、光輝いて見えたのである。
「おお、この村に天からの使いが降り立って下さった……」
村人の一人がわけの分からない事を言い始めた。
「いや、あたしは邪神なんだけど?」
フェリスがツッコミを入れるが、どうにも村人たちの様子がおかしい。
「おおおっ! この地にもふもふ大天使様が降臨なされたぞっ!!」
「いや、もふもふって、なんでそんな言葉を知っているの!?」
狂ったように叫ぶ村人に、フェリスが冷静にツッコミを入れ続けるが、もはや村人はそんな事を聞いてくれる状態になかった。あれよあれよと担がれて、村の中央広場へと運ばれてしまった。
(ああ、もう面倒くさい……)
フェリスはもうされるがままだった。
フェリスがそうやって運ばれている間に、村人は動ける人員をほとんど投入して大量のボアを解体していった。
雑に積まれた木箱の上に、なんとか埃を払ってきれいにした布をかぶせて即席のお立ち台を作る。そして、これまた誰が作り出したか花の冠を用意してフェリスにかぶせてきた。何だろう、この無駄な村の一体感は。フェレスは布をかぶせた木箱の上に座らされて、やんややんやと村人から崇められている。
(うーん、訳が分からないわね)
どうにも行動が飲み込めなかった。
だが、フェリスは別に崇められる事に慣れていないわけではない。そもそも昔は邪神として、一定の崇拝は受けていたのだ。それを思えばこの程度の崇拝など可愛いものである。
それにしても、フェリスはいきなり宴を始めた村人たちにドン引きしていた。自分をお立ち台に座らせて崇めていたかと思うと、どこからともなく酒や料理を持ってきていきなり騒ぎ出したのだ。どうしてそうなった。邪神をもドン引きさせる村人の狂気である。あまりの光景に、フェリスは途中で思考を放棄した。
(うん、勝手にやらせておこう。あたしは知らん)
もうツッコミを入れるのも疲れたのだ。ツッコミを入れたところで聞いてくれなかったわけだし、無駄な努力と悟ったのだ。
座っているだけのフェリスの元には、村人から料理やお酒が差し入れられる。見た目こそ少女なフェリスだが、邪神としてはもうどのくらい生きているのか覚えていない。お酒も平気なのである。
だが、お酒を差し入れられたと思ったら、差し入れた村人が殴られてお酒は没収されてしまった。完全に見た目のせいである。没収していった村人は謝罪しながら、代わりの飲み物を持ってきてくれた。フェリスは何とも言えない顔をしながらも、差し入れられた飲み物を飲みながら村人が騒ぐ様子を見守っていた。
陽が暮れてどんどんと暗くなっていっても、村人たちの宴は一向に収まる気配はない。それどころか逆に盛り上がっていっている気もする。
その一方で子どもたちは遅くなってくると、どんどんと家へと帰らされていた。村人たちのそばの方が安全かも知れないが、子どもたちが眠ってしまうと、自制できなくなった大人たちが踏みつける可能性がある。そういった意味で避難させているというわけだ。人間は貧弱なのだから仕方がない。
それにしても、やって来た初日からこんな扱いを受けてしまって、フェリスの困惑は正直計り知れなかった。
だが、出された料理はおいしかったので、その点についてはフェリスは満足したようだった。
(まあ、悪い気はしないし、こんなに崇められたのは本当に何年ぶりだろうかな。料理の味も悪くはない。今夜くらいはあたしの力で守ってあげようじゃないか)
すっかり気をよくしたフェリスは、右手を上げてくるりと魔法を使った。すると、村の柵に沿って、誰にも見えない透明な結界が張り巡らされた。
当然ながら村人たちには影響はないが、外からやって来る者に対しては強力な防壁となる。邪神としての毒気はすっかりないが、力はまったくもって健在なのだ。
しかも、毒気を抜かれた事で魔物をおびき寄せる力ではなく、純粋な結界として成り立ってしまっている。これでは天使とか言われるのも頷けてしまうというものだ。それをフェリスが知る由もない。
こうして、フェリス降臨の宴はかなり遅い時間まで繰り広げられたのであった。
(やれやれ、人間というのは本当に愚かだし、無防備なものよね)
宴で酔いつぶれた人間たちを見下ろしながら、フェリスは簡易お立ち台の上で酒を煽っていた。もう皆寝静まってしまっているので、誰も見ている者は居ないからである。
見た感じ牧歌的な村なのだが、長らく一人で暮らしていたフェリスにとってはなかなか心地よい空気に包まれているようである。
(もう争いごとも起きないというのなら、こうやってわいわいと過ごしてみるのもいいかも知れないかも)
フェリスは周りを見ながらそんな事を考えていた。
「ふあぁ~、さすがにあたしも眠らないとね。久しぶりに力を使い過ぎたわ」
大きなあくびをすると、フェリスはお立ち台の上でそのまま眠りこけるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます