第4話 使役登録

「4000ディル!?」

「はい……あなたは確か、勤勉に町の掃除をしていただいている方ですよね?我々としても協力したいのですが、これだけの高額となりますとやはり……」


ギルドの職員に聞いたところ、魔物を町中に連れ込むには魔物の使役登録というものが必要で、使役登録にはそれだけの金額が必要とのことだった。何でそんなに金がかかるかと言えば、魔物を制御するための巻物を用いるからという理由があるらしい。その金額を支払ってからギルドに巻物を貰い、立会人監視のもと魔物に使役魔法をかけるという流れだ。

問題は、その金額だ。巻物は消耗品の魔道具で、それで200ディルという金額なら妥当か少し安いぐらいの金額ではあるが、それでも俺に出せる値段じゃない。消耗品の魔道具なんて高いに決まってる。今の所持金は14ディルぐらいだ。勤勉とはいえど低収入、ギルドもただの一般人に肩入れするなんてできないだろう。


職員に礼を言ってからギルドを出て路地裏に入り、服の裏にいるトカゲと作戦を練る。呼びかけるとトカゲ改め、クレンシーは袖から顔だけを出した。なぜこんなに頭がよく自分の状況を把握できているのかは分からないが、こっそり出てきてくれるのはありがたいな。


「なあ、どうする?俺、金がないからお前を町中に堂々と連れ込めないんだけど。……おい、勝手に指をちぎるな」

「シャウ」


クレンシーはひと鳴きしてから指を咀嚼しはじめた。マイペースだなこいつ。


「他人事じゃないぞ?何とかしないと討伐されるぞ」


そう脅してみてもクレンシーは慌てた様子を見せず、ゆっくりと指を食べ進めていく。食べ終わったトカゲは俺を見て片足を上げ、腹のあたりを叩いた.

これは何のジェスチャーだろうか。


「お前、字は書けないのか?」


クレンシーが首を振る。流石に無理か。そうなると動きから意図を推測しなきゃいけないけど……。


「俺に任せろって意味であってる?」


クレンシーが頷いている。あってた。どうも人間っぽいしぐさが多いな、こいつは。

確かに最初見たクレンシーの速さは相当なものだったし、それを生かせば弱い魔物ぐらいは狩れそうだ。あと、トカゲの生態は知らないが耳や鼻、目がいいのであれば採集依頼なんかも手早くこなせて稼げるかもしれない。一度ギルドに戻ってクレンシーと一緒に依頼を見てみるか。もちろん、こっそりな。

痛てっ。また食ったなこいつ?




クレンシーを服の中に忍ばせたまま安宿に泊まった翌日、依頼を見るためにギルドに戻ってきた。ギルドのすぐ近くの場所で話していたにもかかわらず、クレンシーは既に四本目の指を咀嚼している。だんだん食べっぷりにも遠慮が無くなってきて、咀嚼というか丸呑みに近い。大食漢だな。

俺の異能も成長しているのか、クレンシーに噛み千切られても血すら出なくなった。何だこの体は……。


自分やクレンシーの異質さがちょっと怖いが、それは脇に置いといて丁度いい依頼を探す。クレンシーが足をペシペシと腕に叩きつけてから依頼の貼ってある掲示板を指さした。読めってことか?


「えー、ゴブリンの討伐。片耳で5ディル」


指でなぞるふりをしながら、袖に隠れるクレンシーにも見せる。腕を一回叩かれた感覚がした。少しだけ袖を捲ってクレンシーを見たら首を振った。これはダメなんだろう。


「薬草収集。一つ3ディル。俺がやってたやつだな」


独り言としてあり得るぐらいの内容にしているが、それでもちょっと不審者なので小声で話す。少し間があいた後、腕を叩かれた。次。


「フォレストボアの狩猟。一頭15ディル。重いからやだな」


これは肉を提供する依頼だから報酬はいいが、イノシシを一匹持って帰らなきゃいけない。馬車や荷車を持ってる冒険者か、強い冒険者が帰り際に持って帰ってくるぐらいだ。これもナシだな。クレンシーも腕を叩いた。


「えー、認定危険生物の討伐。5000ディル。無理だろ」


ギルドが認定した危険生物を討伐した時に、依頼の貼り出しを待たずに討伐してもらうための依頼だ。他にも、ギルドから依頼が払われない可能性があるから討伐しない、という事態を防ぐという目的もある。たまにあるのだ、高額の報酬の支払いをしたくないからギルド側が『お前が勝手にやったことだ』と支払いを拒否するなんてことが。

クレンシーは何度も腕を叩く。こんなの無理だからさっさと次行けってことかな。……違う?これやるの?……まじ?


「常設じゃなくて普通の依頼も見てみようぜ。……まあ、俺のランクは低いから報酬は高くても300ぐらいだけど」


こことは別の掲示板に貼り出されている依頼は、依頼者が依頼してきているものだ。その依頼には失敗を防ぐためにランク制限が設けられており、外で魔物を倒すという昇格条件を満たしていない俺は最低ランクの一つ上、雑用や弱い魔物を倒すぐらいの依頼しかない。報酬も当然少額だ。

隣の掲示板に向かおうとするけど……クレンシーは無慈悲に腕を叩き続ける。だんだん叩き方が強くなってきた。まじぃ?


「無理だろ、これ推奨ランクはプラチナ以上だぞ?……あー、ちょっと外へ出ようか」


周囲の人間が『独り言のデカい奴がいるな』、と俺を見てきて注目を集めつつあるので、俺は逃げるように外に出た。

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