使われろ、メロ酢

U.N Owen

第1話 使われろ、メロ酢

 メロ酢は激怒した。これまで何年も献身してきたのにこの仕打ちだ。

我々の王はとてつもなく残酷である。あの方をもう何年もの間見てきたが我々のことを屁とも思ってはいない。あの方は我々が少しでも賞味期限に近づいたらすぐ疑って処刑してしまう。つい最近、私の友であった賢臣の味噌も処刑なさっていた。されども王は私の劣化版であるマヨネーズなどと言うものを愛用する始末だ。そのせいであいつは毎日王が居なくなったら我々に自分がどれほど使われているのか自慢してくる。全くもって面倒だ。さらに、王はなぜか固形のものを贔屓なさっている。あそこの隅に座っている砂糖や塩などはいつから居たのかも忘れてしまった。なぜ我々ばかりを処刑してあのジジイどもは処刑しないのかいつも不思議に思っている。後、最近はラー油やみりんなどが処刑されそうな予感である。そして何を隠そう、実は私も最近王に全く愛用されなくなってきているのだ。なので私は次、王に会う時は必ず彼を説得して見せる。いや、説得しなければいけないのだ!


次の日遂にその時がやって来た。王が我々に向かって来たのだ!今日の献立を見る限り王は今日豚バラ炒めを食するはず、そして王はいつも飯とサラダを一緒に食するのだ。この献立に入れる調味料は八つしかない。まず豚バラには塩と胡椒そして料理酒、みりん、砂糖そして醤油が使われる。ここまでは順調、しかし勝負所は最後のサラダなのだ。私は王が料理をお作りになっている間ずっと喋っていた。

「王よ、民の心を疑うのは最も恥ずべき悪徳だ。王は、民の忠誠さえ疑っておられるのか!」

私の気持ちが伝わったのかは分からなかったが、王はついにサラダを完成させた。

「頼む。頼む!」

私は目を閉じ、ゼウスに祈った。

次の瞬間私は宙に浮いていた。目を開けると隣にはまだ若いオリーブオイルが居た。我々は歓喜の表情で見つめ合った。

「勝った!」

そうこうしている間に王は我々を使い始めようとしていた。私が使われていた頃の様に私を少し舐めると。。その時王は何かおかしな表情をした。王は少し呟いた。

「。。っぱくねえ。」

王はぴたりと手の動きを止め何やら奥へ走って行った。少しすると王はまた戻ってきた。私はまだか、まだかと待っていたが王は私たちの前で急旋回をしてなんとマヨネーズを持って来たのだ!私は驚きで言葉が出なかった。何を間違えたのか、何が悪かったのか、考える暇も無く私は元いた場所に戻された。


コケコッコー!

朝の音がする。ただし私はもう二度と陽の光に当たる事はないだろう。あれほどの失敗を犯して王がまたチャンスをくれるとは思えない。

ガチャリ。

私の入っている木製の扉が開いて私の体はまた宙に浮いた。なんと王が私をまた手に取っているのだ!王はなんと言う広い心をお持ちなのだろう!私にまたチャンス。。。。

気が付いた時には私の体は真っ二つに割れていた。

「な。なぜ?」

私は掠れた声で王に聞いた。

「それじゃあ、お願いしまーす。」

久しぶりに聴いた王の声はいつも以上に高くなっている様に感じた。そして遠ざかる意識の中、王の右手にある新品の黒酢が見えた。

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使われろ、メロ酢 U.N Owen @1921310

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