美少女の恋愛相談相手になったんだけど、その美少女は隠れゲームオタクで俺の隠れファンでした

春町

第1話 初恋終了のお知らせ

 初恋の女の子から告白をされる。


 男子ならば誰だって一度は夢に見たシチュエーションだろう。


 初恋は叶わないからこそ甘酸っぱくて尊いなんて言われてはいるが、結局のところは負け犬の遠吠えだ。


 初恋に限らず、恋なんてものは誰だって叶えたいものだと俺は思う。


 俺、小宮こみや真一しんいちにも初恋の女の子がいた。


 その人の名前は如月きさらぎかえでさん。


 毎日暇さえあればネッ友とゲームに興じているザ・非モテ男子の俺には過ぎたる超絶美少女だ。


 如月さんと付き合えるなんてハナから期待しちゃいない。夢のまま終わると割り切っていた。


 せいぜい三年間の学校生活の中で彼女の姿をできるだけ視界に収め、何度か会話できれば御の字だと、非モテらしい割り切ったムーブをかましている。戦う前から負け犬根性丸出しだった。


 そんなどこにでもいる一般非モテ男子の俺は、


「ねえ、小宮君。……放課後、伝えたいことがあるの」


 この日、如月さんから呼び出しを受けた。




 都立扇茅高校で如月楓のことを知らない生徒は誰一人としていないが、知らない人のために彼女の経歴を紹介しよう。


 第十八回扇茅ミスコン一年生部門一位。総合部門一位。総獲得票は全体の半分を超え、堂々の殿堂入りを果たした。


 勉強もスポーツもできる完璧美少女といういかにも創作な設定こそないものの、それを補って余りある顔面偏差値で学校のヒエラルキーの頂点に居座る超絶美少女だ。


「……嘘だろ、陰キャのお前が如月さんに呼び出された!?」


 放課後。いち早く帰宅しようとする帰宅部仲間の細田ほそだ晴彦はるひこに事情を話すと、この世の終わりみたいな顔をされた。


「ああ。俺も驚いている」


「なんで余裕ぶってんだよ! あの如月さんだぞ!」


 いや、あまりにも現実味がなくてどうすればいいかわからないのだ。内心はガタガタビクビクしている。

 

「……なあ、細田。お前とは媚びへつらうような仲じゃない。はっきり言ってくれ。――俺と如月さんが付き合える確率って何パーセントくらいだ?」


 客観的な意見が欲しかった俺は、歯に衣着せずに言い合える親友の細田に査定をお願いしてみた。


「万に一つもあるかボケが! 成績は万年最下位! 運動神経皆無でスポーツテストは毎回体調不良で途中棄権のお前が! 顔が良いってわけでもねえくせに、学年一の美少女と付き合えるわけねーだろ!」


 いや、うん。はっきり言えと言ったけどさ……流石に言い過ぎじゃないですか?


 でもまあ、細田の言う通りだ。


 俺にはこれまで彼女とかいたことないし、彼女ができるように、モテるような努力をしてきたことなんか一度もない。

 毎日オンラインゲーム三昧。学校ではオンラインゲームのイベントで徹夜したツケを払うようにぐーすか寝ているだけの非モテ男子だ。


「山川ならいざ知らずだけどな」


「山川な。あいつは俺ら帰宅部界の星だよ」


 山川やまかわあきらは細田と並んで中学時代からの友人だ。

 俺たちはネットゲーム仲間でもあり、帰宅部仲間でもあるが、山川だけはやたらと女子にモテていた。理由は単純だ。


「あいつは顔が良いもんなあ」


「俺らと大して変わらねえオタクの癖に、顔と器用さでクラスの陽キャ集団の顔やってんだからな」


 山川は教室の隅で息をひそめて過ごす俺たち日陰の者とは違う。

 顔の良さとなんでもそつなくこなす天才肌っぷりのおかげで男子のヒエラルキートップに坐する裏切り者だ。


 女子人気断トツの山川ならば如月さんに告白されてもおかしくはない。


「でも、相手がお前だしなあ」


「おい。俺を悪く言うのはそこまでだ」


「……お前だって薄々疑問に思ってるだろ?」


 まあぶっちゃけ思っている。


 俺と如月さんの接点は同じクラスというだけ。登校中に曲がり角でぶつかったわけでも、不良に襲われたところを助けたわけでも、前世から繋がりがあるわけでもない。……いや、最後のは分からないか。


「授業中、ずっと私の胸見てて気持ち悪いですって言われたらどうする?」


「ぐはあっ!」

 

 い、いや、そんなわけ! 席が隣だからって、胸なんか気づかれるほど見てねーし!


「女子はそういう視線に敏感だからな」


「うっ……」


 細田のジト目に俺は窮する。

 ……思い当たる節は何度かあった。


「だけど、そんな気持ち悪い奴を二人きりになれる場所に呼び出すか?」


「気持ち悪いのは否定しないんかい。……まあ、それはそれで不自然だよな」


 もし俺を気持ち悪い奴と思っているなら、助けを呼べるような場所で話すだろう。

 というか、如月さんにそこまで嫌われていないと信じたい。


「じゃ、俺呼ばれてっから」


「おう。付き合えたら写真送ってくれ」


 帰宅部の細田とは玄関で別れて、俺は校舎裏まで向かった。




 

「あ、小宮君。ごめんね、急に呼び出したりして」


 如月さんは俺よりも早くに待ち合わせの場所に来ていた。


 桜餅みたいな髪をぶんぶんと振りまいて、こちらに手を振る。ヘアーカラーリング剤とシャンプーの良い匂いがした。


「あ、うん。大丈夫。いつも暇だし」


「いつも帰るの早いもんね!」


 如月さんの無邪気な笑顔が俺の心を突き刺す。


「……存在感薄い俺のことなんかよく見てるね」

 

「うん! だって……えへへ」


 近くで見るとより可愛いな。


 リスのように小さな顔。絹のようにさらさらとした髪は何をするにも犬の尻尾のように揺れる。スタイルは抜群で、すらりとした足に細身の体。だけど大きすぎない胸はそれでもしっかりと自己主張している。


「で、如月さん。用事ってなに?」


 如月さんに訊ねる。


 細田には如月と釣り合わないことを散々にわからせられたが、やっぱり期待を抱かずにはいられない。


 放課後に呼び出される。しかも伝えたいことがあるなんて言われたら十中八九、愛の告白だろう。


「小宮君。あのね、その……」


 彼女は今から愛の告白をする。


 そう察せるほど彼女は乙女の顔をしていた。顔を赤くして、手をもじもじさせている。可愛い。


「……き、……好きなの」


 告白されるという俺の予感は当たっていた。


 俺は心の中で勝利のガッツポーズをかます。しかし、


「……私、山川君が好きなの! だから小宮君、私の恋愛相談の相手になってください!」


 その告白は俺に向けたものではなかった。


 如月さんが好きだと言った相手は、俺の友人にして裏切りのモテ男。


 ――山川明だった。


 俺は山川との恋愛を叶えるためのキューピット役に指名されただけだった。


「へ、へー……ソーナンダ……ハハハ……」


 俺の初恋はあっけなく終わった。

 

 




———


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